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七月の季節

 ――そいつは歩いてたんだ。

 オレは高層マンションの最上階に住んでいる。たしかあれは深夜3時くらいだったと思う。
 不意に目が覚めたオレは寝付けなくなったので、一服するためにベランダに出たんだ。べた付くように空気が重たい日だったが、夜風には少し冷たさを感じた。

 煙草に火を点け、夜景を眺めていると目の端で白いレースが見えた気がしたんだよ。それでそっちを向くと、綺麗な女がいるじゃないか。

 その女は隣の家のベランダの柵に座って、足を宙に投げ出している。ここは最上階だ。普通なら危ないと慌てるところなのに、なんでかそのときは別に問題がない気がしちまったんだ。

 目が合った。すると女はオレを誘うように微笑んでそのまま柵から飛び降りる。もちろん空中にだ。でも、落ちたりすることなくそのまま空中を自然な動作で歩き出した。

 あまりにも現実離れした光景にオレは気がついちまったんだ。これは夢なんだって。夢ならオレだって歩けるはずだろ?? だからオレも迷わずに柵を飛び越えた……

 ……でも、オレは一歩も歩けないまま、当たり前のように転落した。夢なんてそんなもんだよな。
 女は落ちていくオレを見ながら楽しそうに笑って、どこかへ歩いていっちまった。

 オレはそのまま地面に叩きつけられて、即死。その後も数えきれないほど挑戦してみているけど、結果はいつも同じ。
 だからなんで、あの女が空中を歩けたのかは謎だ。
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