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七月の季節

【写り込む】
「みてみて!! あれってアイドルの!!」
「ほんとだ!! 生で見るとさらにカッコイイんですけどー」

 街中で人気アイドルを見かけたトモダチは興奮している。

「ねえ、一緒に写真撮ってもらえないか頼んでみない?!」
「ええー、絶対に無理だって!! もうここからでイイから写真撮っちゃおうよ!!」

 興味がないわけではないんだけど、アタシはクレープ屋の新作と財布の中身を見比べる。
 結局、話しかけるどころか傍に近づくことすらできなかったトモダチは肩を落としながら帰って来た。街中で有名人と会うと大体はこんなもの。

 三人揃って、クレープを買って少し移動する。アタシには昔から少し変わった特殊な能力があって、だからトモダチみたいに有名人を見かけたからって騒ぐことはない。

 ――パシャリ。

 クレープ片手に自撮りをすると「また自撮りしてるー」なんてトモダチは笑う。雑踏を背景にした自撮り。アタシは撮れた画像をチェックしながらニヤリと笑う。やっぱり能力は健在してるみたい。

「みてみて」

 トモダチに画像を見せると、友達は席を立ちあがって周囲を見回し、すぐに溜息を吐きながら座り直す。
 さっきの画像には最近話題のスポーツ選手が映っていたから。
 アタシの能力というのは小さい頃から人の多いところで自分を撮影すると有名人が写り込んでいるという力。もちろん室内や、人の少ないところで写ったことは殆どない。

 だから、さっきのアイドルが写り込んだ自撮りも持っていて学校のトモダチに自慢するくらいなら十分なわけ。
「写真は可愛いときにできるだけ撮っておかないとだよ」
 そんな冗談をトモダチにいいながら、クレープにかじりつき他愛もない話に花を咲かす。今週は両親がそろって出張で留守にしているから自分で食事を作らないといけないから面倒なのに、トモダチはそれを羨ましいという。

 そんな風に時間を過ごし、解散した頃には空は真っ赤な夕焼けに染まっていた。その赤色があまりにも綺麗だったのでアタシは癖で、その夕焼けを背景に自撮りをして家に帰った。

 リビングのソファーにカバンを放り投げ、適当にテレビを付けて冷蔵庫に向かう。
 麦茶をコップに注ぎながら、今日撮った写真をチェックしていく。アタシは自撮りはするけれどSNSにアップしたりはしない。自分で楽しむだけ。麦茶を一口飲みながら、さっきの夕焼けの写真をみると雑踏だったというわけでもないのに、ハッキリと写り込んでいる人がいた。

「どこかで見たことがある気がするけど、芸人だっけ??」

 つり目に角刈りの男。リビングに戻り、ソファーに座ってリモコンに手を伸ばした手が止まる。流れていたニュースは連日報道されている一家惨殺事件についてで、情報を求めるということで犯人の人相書きが表示されている。
 それはつり目に角刈りの男でスマホに手を伸ばしかけた瞬間、すべての音を奪うようにインターホンが鳴り響いた……。
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