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七月の季節

【魔女を殺すもの】
 魔女はどんなものでも死なない――。

 どんな炎も魔女は焼けず、どんな水でも魔女は窒息しない。木の杭を心臓に打ち込んだところで魔女はただただ笑い、石の壁も鉄の壁も関係なく現れる。

 他人の秘密を隣人に広め、幸福を舐めつくし、不幸を土産の如く置いていく。それが彼女。
 誰もが嘆く。「あの忌まわしき魔女を誰か殺してはくれぬだろうか。ああ、あのバケモノを消し去ってくれぬだろうか」と。

 魔女にとって聞き飽きた台詞。何千年も聴き続けた言葉。何処に行っても、どんな時代になっても言われるのでそろそろ聞き飽きてきたと魔女は微笑みながら、溜息を吐く。

 そんな魔女はある頃から日本に引っ越してきた。キリスト教圏から逃げてきたのだ。

 後々、魔女と自称する女は自分の秘密をグラス片手に語る。無敵の魔女を唯一殺すものについて。日本に来た理由について。

 彼女はクリスマスから逃げて日本に来たそうだ。独り身の彼女は誰もが家族とだけ過ごすクリスマスが堪えられなかったそうだ。なのに、日本にも三箇日というクリスマスより長い家族で過ごす日があって絶望したと。

 退屈と孤独は唯一魔女を殺すものらしい。だから、何度か三箇日に死にかけたことがあるらしいけれど、彼女はスマホを片手に笑う。現代の日本は素晴らしいと笑う。

「年中無休、24時間営業。勤勉な日本人万歳」。だそうだ。
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