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七月の季節

【さ、ら、わ、れ、た】

 携帯電話にかかってきた電話を取った友人は一言、二言返事をすると上着を羽織り、自分に対して「ちょっと出てくるけど、待ってて」と小声でいうとカバンに荷物を詰め始めた。
 現在自分は、この友人の自室でゲームをしているので、友人は何かを探すように背後をを右往左往している。

「何か探してんの??」と声をかけると友人は「鍵がない」といいその直後に「まっ、いっか」とため息を吐いた。

 自分がいるから家の鍵ならば持っていかなくても困ることはないのではないかとも思ったが、車の鍵などなら必要だろう。
 一緒に探そうかと声を掛けたが、友人は「時々あるから」と断った。なので止めていたゲームに意識を戻そうとしたが部屋を出ていこうとした友人はこんなことを言い残し、笑顔で去っていく。

「こういうときは必ず“さら、われるんだ”」

 雨漏りでもするということを告げるような言い方だったので聞き逃しかけたが「さらわれる」って一体なんなんだ??
 訊ねようと振り返ったが、虚しく玄関の閉まる音だけが響いてきた。仕方がないので、先ほどの言葉は聞かなかったことにして、ゲームを再開させる。

 友人が出ていってどのくらいの時間が経った頃だっただろうか。勝手口の方、つまり台所からパリンと陶器が割れる音が響いてきた。気になったのでゲームを止めて台所に向かって、見てしまったんだ。

 そして、友人の言葉通り……さらわれた。
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