七月の季節
【少年は卒業文集をなぞる】
ある街の中心から少し離れたところ。海の近くにその学校はある。そして、その屋上では丁度ある少女が学校全体を見渡していた。
中庭に足を投げ出すように座り、空中に足をぶらつかせながら溜息を吐く少女。中庭から吹き上げる風は五階分の壁を駆け上がり、コートを膨らませたり、彼女の後ろで適当にくくられた黒髪をもてあそぶ。
「楽しい時間って永遠に続くようで、永遠に続けばいいと思う時間ほど短い」
話しかけるよいうよりは独り言にちかい言葉に、屋上の出入り口にいた背の高い少年はけだるそうに返答をする。
「映画の中では、無駄なシーンや省くこともできシーンを敢えて差し込むことで時間の流れを緩やかに感じさせることがある。けれど人間の脳はそうした時間の記憶はすぐにわすれるからな」
少女は目を閉じながら、空を見上げカラカラと笑う。
「私は全部覚えているつもりなんだけど、それならこの時間に無駄や省けることはなかったってことなのかな」
少年は目線だけを少女に向けると風にかき消されそうな声で「忘れたいことは、あったんじゃないのか??」と問いかけた。その言葉に少女はいままでずっと楽し気にばたつかせていた足をピタリと止める。
「忘れたいからって忘れたら……それはきっと私じゃないんだよ」
少女は少年の方を向いて、静かに微笑んだ。少年は何かを言いかけて黙ると、代わりに溜息を吐く。海風が二人の間を吹き抜ける。
「お前、結局どうすんだ??」
真面目な声で少年は問いかけたが、少女は再び水を蹴り上げるように足をばたつかせ始め、視線を運動場の先、遠くに見える山並みに移して「どうするんだろうね」と他人事のように答えた。
「でも、このままじゃもうここにはいられない。あー、まだ当分はここに居たかったよ。具体的には1年か2年。けれど、場所だけあっても仕方ないのもわかってる」
少女が少年の名前を呼んだ。けれど、それは風に掻き消え「――には本当に感謝してる」というところから言葉が始まる。
「彼らにも感謝しているし、私に関わった人達みんなにも感謝してる。全員に『ありがとう』だね。直接言えないことが残念でしかたないよ」
ゆっくり立ち上がる少女の背に少年は拳を強く握りしめると「俺は誰にも伝えてやらないからな!!」と叫ぶ。
強めの南風が二人の髪を乱す。少女は両手を大きく広げると嬉しそうに「春の香りがする。ここに初めて来たときと同じだ!!」と笑う。
そして大きく伸びをしてから。小さな声で「さて」と区切りをつけると、使い古されたななめ掛けの肩掛けカバンを肩にかけると、遠くの空を見据えて「とっても楽しかった!!」と笑い大きく“一歩前へ”踏み出したのだった。
ある街の中心から少し離れたところ。海の近くにその学校はある。そして、その屋上では丁度ある少女が学校全体を見渡していた。
中庭に足を投げ出すように座り、空中に足をぶらつかせながら溜息を吐く少女。中庭から吹き上げる風は五階分の壁を駆け上がり、コートを膨らませたり、彼女の後ろで適当にくくられた黒髪をもてあそぶ。
「楽しい時間って永遠に続くようで、永遠に続けばいいと思う時間ほど短い」
話しかけるよいうよりは独り言にちかい言葉に、屋上の出入り口にいた背の高い少年はけだるそうに返答をする。
「映画の中では、無駄なシーンや省くこともできシーンを敢えて差し込むことで時間の流れを緩やかに感じさせることがある。けれど人間の脳はそうした時間の記憶はすぐにわすれるからな」
少女は目を閉じながら、空を見上げカラカラと笑う。
「私は全部覚えているつもりなんだけど、それならこの時間に無駄や省けることはなかったってことなのかな」
少年は目線だけを少女に向けると風にかき消されそうな声で「忘れたいことは、あったんじゃないのか??」と問いかけた。その言葉に少女はいままでずっと楽し気にばたつかせていた足をピタリと止める。
「忘れたいからって忘れたら……それはきっと私じゃないんだよ」
少女は少年の方を向いて、静かに微笑んだ。少年は何かを言いかけて黙ると、代わりに溜息を吐く。海風が二人の間を吹き抜ける。
「お前、結局どうすんだ??」
真面目な声で少年は問いかけたが、少女は再び水を蹴り上げるように足をばたつかせ始め、視線を運動場の先、遠くに見える山並みに移して「どうするんだろうね」と他人事のように答えた。
「でも、このままじゃもうここにはいられない。あー、まだ当分はここに居たかったよ。具体的には1年か2年。けれど、場所だけあっても仕方ないのもわかってる」
少女が少年の名前を呼んだ。けれど、それは風に掻き消え「――には本当に感謝してる」というところから言葉が始まる。
「彼らにも感謝しているし、私に関わった人達みんなにも感謝してる。全員に『ありがとう』だね。直接言えないことが残念でしかたないよ」
ゆっくり立ち上がる少女の背に少年は拳を強く握りしめると「俺は誰にも伝えてやらないからな!!」と叫ぶ。
強めの南風が二人の髪を乱す。少女は両手を大きく広げると嬉しそうに「春の香りがする。ここに初めて来たときと同じだ!!」と笑う。
そして大きく伸びをしてから。小さな声で「さて」と区切りをつけると、使い古されたななめ掛けの肩掛けカバンを肩にかけると、遠くの空を見据えて「とっても楽しかった!!」と笑い大きく“一歩前へ”踏み出したのだった。