【お隣さんと私】
友達は多いことに越したことはないと言われていた時代もあったそうだが、実際問題どうだったのだろう。少数精鋭という言葉もあるわけだけど、誰とでも仲良くできるというのはサヰ能だし少し憧れるかもしれない――。
あまりにも月が大きくて赤い色をしていたので私は隣人の家の縁側でヤングドーナツ片手に月見をしていた。縁側につづく居間で何かを読んでいたお隣さんが近付いてきた気配がしたので、月を見上げたままヤングドーナツを差し出すと手の上が軽くなる。
「このまま月が落ちてきたらお嬢さんはどうしますか??」
この隣人は現実的な思考のときと空想的な思考のときの落差が激しい。この場合、隣人の口調を真似るのなら激しヰというべきなのだろう。
月が落ちてきたら、普通に考えれば人類のみならず生物自体が生存できる状態じゃなくなるだろうが、この問いかけはそういうことではない気がした。
「月のウサギと友達になる方法を考えます」
どうやら私の回答は隣人を満足させるものだったようで、楽しそうな笑いがドーナツにまぶされた砂糖のようにこぼれてきたので庭先に掃っておく。
宇宙人が実際に居るのか論争を一瞬したくなったが、それについて口止めしたのは自分なので、ただただ赤い月を見上げていると軽い身のこなしでお隣さんは隣に座り、私の顔と月を交互に見つめる。
「一体、なんなんですか」と悪態を吐く私に「いえ、お嬢さんならきっと大丈夫だろうなと思いまして」と答えにならない返事が返ってきた。
「最近、文通相手を探している友人の娘さんがいまして」
「文通とはまた古風ですね。メールじゃ駄目なんですか??」
このインターネットに支配された世の中では文通という言葉を知らない人もいるのではないかとまで考えてしまったのが、お隣さん曰く、その子の住む場所にはネットがないそうだ。
断る理由もないし、改めて文通というのも面白そうなので「いいですよ」と返事をすると、おもむろに懐中電灯を取り出して月に向かってライトを不規則に点滅させ始める。たぶんモールス信号というやつだろうけれど、その灯りの先にあるのは月くらいな訳で。懐中電灯が特別なのかとも考えたが、LEDですらなく白熱電球に見える。しかし、この隣人のする事だからなにか意味があるのだろうと先程から気になってい指についた砂糖を舐めとった。
そんなことがあったことを忘れかけていた新月の夜に珍しくインターホンが鳴った。
玄関を開けると重そうなダンボールを持ったお隣さんが立っていた。ダンボールの中身は金色に輝く餅で、それから可愛らしい字の手紙も入っていて《お友達になってくださヰ》と書かれている。
早速、返事を書いたものの宛先がわからないことに気が付いてお隣さんに訊ねると「僕が送っておきますよ」と手紙を預かってくれた。
次の日の夜に再び空に向かってモールス信号を送る姿を目撃したのだが、私が黒牛マークの牛車便に腰を抜かすのは随分先の話になる。
あまりにも月が大きくて赤い色をしていたので私は隣人の家の縁側でヤングドーナツ片手に月見をしていた。縁側につづく居間で何かを読んでいたお隣さんが近付いてきた気配がしたので、月を見上げたままヤングドーナツを差し出すと手の上が軽くなる。
「このまま月が落ちてきたらお嬢さんはどうしますか??」
この隣人は現実的な思考のときと空想的な思考のときの落差が激しい。この場合、隣人の口調を真似るのなら激しヰというべきなのだろう。
月が落ちてきたら、普通に考えれば人類のみならず生物自体が生存できる状態じゃなくなるだろうが、この問いかけはそういうことではない気がした。
「月のウサギと友達になる方法を考えます」
どうやら私の回答は隣人を満足させるものだったようで、楽しそうな笑いがドーナツにまぶされた砂糖のようにこぼれてきたので庭先に掃っておく。
宇宙人が実際に居るのか論争を一瞬したくなったが、それについて口止めしたのは自分なので、ただただ赤い月を見上げていると軽い身のこなしでお隣さんは隣に座り、私の顔と月を交互に見つめる。
「一体、なんなんですか」と悪態を吐く私に「いえ、お嬢さんならきっと大丈夫だろうなと思いまして」と答えにならない返事が返ってきた。
「最近、文通相手を探している友人の娘さんがいまして」
「文通とはまた古風ですね。メールじゃ駄目なんですか??」
このインターネットに支配された世の中では文通という言葉を知らない人もいるのではないかとまで考えてしまったのが、お隣さん曰く、その子の住む場所にはネットがないそうだ。
断る理由もないし、改めて文通というのも面白そうなので「いいですよ」と返事をすると、おもむろに懐中電灯を取り出して月に向かってライトを不規則に点滅させ始める。たぶんモールス信号というやつだろうけれど、その灯りの先にあるのは月くらいな訳で。懐中電灯が特別なのかとも考えたが、LEDですらなく白熱電球に見える。しかし、この隣人のする事だからなにか意味があるのだろうと先程から気になってい指についた砂糖を舐めとった。
そんなことがあったことを忘れかけていた新月の夜に珍しくインターホンが鳴った。
玄関を開けると重そうなダンボールを持ったお隣さんが立っていた。ダンボールの中身は金色に輝く餅で、それから可愛らしい字の手紙も入っていて《お友達になってくださヰ》と書かれている。
早速、返事を書いたものの宛先がわからないことに気が付いてお隣さんに訊ねると「僕が送っておきますよ」と手紙を預かってくれた。
次の日の夜に再び空に向かってモールス信号を送る姿を目撃したのだが、私が黒牛マークの牛車便に腰を抜かすのは随分先の話になる。