【お隣さんと私】
べつに体調が悪いわけじゃなヰ。気持ちが沈んでるとか、気候が悪いとかそんなのは関係なく、ただ、何となくやる気が起きなくて「まっ、いいか」とちょっとだけ怠けたつもりなのに、部屋の中とかがぐちゃぐちゃになっていたら大抵コイツらのせヰ――。
あぁ、銀紙を剥くのすらめんどくさい。
リビングに転がって大量にツインクルチョコを転がしていると窓の向こう、隣の庭からパチン、パチンと枝を剪定している音が響いてきた。
「お隣さんはマメですね。おかげでいつも生け垣が綺麗なわけだ」
先日まで存在を認知していなかったのが不思議なほどに存在感のある隣人と私はヰヨウに打ち解けていた。
「野生を忘れた猫のような転がり方をしてますね。しかし、曲がりなりにも女性なんですからせめてもう少しましな体勢で声をかけてくださいよ。お嬢さん」
呆れ切った苦笑顔のお隣さんは手を止めて、窓の正面にやってくる。
「尋常なくやる気が出ないんですよ。まるで何かに吸われているようなレベルなんですよ。主食がこのツインクルチョコになりそうです」
シャカシャカとチョコを鳴らしていると、お隣さんはやれやれという様子で「そんなまとめ買いなんてするからでしょ」と私の楽しみに口を挟む。とりあえず、「駄菓子の大人買いは大人の特権です!!」と主張してみたのだが「大人ならちゃんとゴミくらいゴミ箱に捨ててください」と痛いところをつかれたので死んだふりをしておこう。
「そんなに怠惰に過ごしていると怠け虫に憑りつかれますよ」
真剣な口調で子供をしつける為に作られた迷信のような事を言い始める隣人。あまりにも真面目に言っている風なのがおかしくて、ついつい笑いがこみ上げてくる。
「怠け虫って……なんですか、その安直な名前の生き物は。そんなのいるわけがないじゃないですか」
涙をぬぐう仕草をしながら、銀紙を剥いたチョコを口に含んで丸めたゴミをゴミ箱に向かって投げたが外れてこちらに跳ね返ってきた。
「ソウソウ ソンナ ヰキモノ ヰルワケ ナヰヨ」
同意する声に「だよねー」と返事をして新たなチョコに手を伸ばす。
ん?? あれ?? 今のお隣さんの声じゃないよね??
慌てて隣の庭に目を向けたが、お隣さんは剪定の続きをしている。気のせいだと決めつけて、改めてその辺りに転がっているカラフルな包みのチョコに手を伸ばしたのだが、その中にチョコエッグほどのサイズで色もチョコレート色の毛玉が紛れ込んでてバッチリと目が合う。
ぱっちりした大きな目なのに瞳孔が点というような目玉が瞬きをしたと思ったら、私が手にしようとしていたチョコを奪い取ってネズミのようなとんがり口で銀紙ごとバリバリと飲み込んでいく。
ワニかサメかという牙だらけの口は再び私の近くのチョコを銀紙ごとバクリと食らう。
体の位置は動かないし、足のようなものも見当たらないのに針金か糸かという細い手だけが私の周囲の食べ物を目にもとまらぬ速さで奪い取っていく。
三度目。私の大切なチョコを奪い取ろうとしたので、先程ゴミ箱に弾かれた銀紙をデコピンで謎の生物に発射して当てると、思いのほか簡単に吹き飛んだ。
一呼吸おいてから目に見える範囲のチョコを拾い集め、私は逃げた。隣の庭へと。垣根を越えて。
「お嬢さん、何をするんですか!!」
剪定前の部分ということで許して貰えないものだろうか。いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
「お隣さん!! お菓子泥棒がでました!!」
私のことより垣根の心配をしてる非道な隣人に謎の毛玉ことお菓子泥棒のいたところを指さして危機を訴える。
「オカシ ドロボウ ナンテ イナヰヨ」
「たしかに、居たんですって!!」
返事再び。すぐ近くから聞こえた声に腕の中を見ると私が拾い集めた煌びやかなツインクルチョコを布団のようにしてお菓子泥棒がくつろいでいた。
「うわぁああああああ!!!!」
叫び声を上げ、慌てふためいているのに隣人はただただ呆れたように苦笑しながらこちらを見ている。
「助けてくださいよ!! 何なんですか、これ!!」
お菓子泥棒はとても簡単に掴むことができたので、お隣さんの目の前に突き出す。が、ダメージなどないというように毛玉はまた私のチョコを銀紙ごと貪っていく。
「だからヰったのに。遅かったようですね」
お隣さんは毛玉の鼻の頭をつつきながら「これが“怠け虫”ですよ」と言う。
「怠け虫とヰうのはですね、怠けてヰるものに寄生してさらに怠けさせて、最終的には餓死させるという恐ろしいヰきものなんですよ」
だから、私の現在の主食であるツインクルチョコを奪っているのかと思うと背筋が冷える。
「けれど怠け虫自体も怠け者なので、餓死させるのに千年程度かかるそうです。基本的には冬場のコタツや布団の中に発生することが多いんですけどね。コタツで山のようにあったミカンがすぐ消えたりするのは大抵が怠け虫の仕業です」
千年とは壮大な……なんてことを思っていると、またチョコをとられそうになったので怠け虫を掴んだ手を左右上下と動かして腕の中のお菓子をとられないよう攻防を繰り広げる。
隣人に「生態についてはわかりましたが、どうしたらこの虫を退治できるんですか?!」と更なる助けを求めた。
すると少し考える仕草をしてからお隣さんはとてもいい笑顔をする。
「怠け虫を退治する方法は、早寝、早起きを心掛けて、家を清潔に保ち、三食キッチリ食べると自然と消えるとヰわれていますよ。あと、ランニングなんかも効果的だとか」
私は自分が早朝からランニングする姿を想像してから、チョコの山に怠け虫を戻して指で頭を撫でた。
「今後ともよろしく!!」
「ヨロシクナ」
あぁ、銀紙を剥くのすらめんどくさい。
リビングに転がって大量にツインクルチョコを転がしていると窓の向こう、隣の庭からパチン、パチンと枝を剪定している音が響いてきた。
「お隣さんはマメですね。おかげでいつも生け垣が綺麗なわけだ」
先日まで存在を認知していなかったのが不思議なほどに存在感のある隣人と私はヰヨウに打ち解けていた。
「野生を忘れた猫のような転がり方をしてますね。しかし、曲がりなりにも女性なんですからせめてもう少しましな体勢で声をかけてくださいよ。お嬢さん」
呆れ切った苦笑顔のお隣さんは手を止めて、窓の正面にやってくる。
「尋常なくやる気が出ないんですよ。まるで何かに吸われているようなレベルなんですよ。主食がこのツインクルチョコになりそうです」
シャカシャカとチョコを鳴らしていると、お隣さんはやれやれという様子で「そんなまとめ買いなんてするからでしょ」と私の楽しみに口を挟む。とりあえず、「駄菓子の大人買いは大人の特権です!!」と主張してみたのだが「大人ならちゃんとゴミくらいゴミ箱に捨ててください」と痛いところをつかれたので死んだふりをしておこう。
「そんなに怠惰に過ごしていると怠け虫に憑りつかれますよ」
真剣な口調で子供をしつける為に作られた迷信のような事を言い始める隣人。あまりにも真面目に言っている風なのがおかしくて、ついつい笑いがこみ上げてくる。
「怠け虫って……なんですか、その安直な名前の生き物は。そんなのいるわけがないじゃないですか」
涙をぬぐう仕草をしながら、銀紙を剥いたチョコを口に含んで丸めたゴミをゴミ箱に向かって投げたが外れてこちらに跳ね返ってきた。
「ソウソウ ソンナ ヰキモノ ヰルワケ ナヰヨ」
同意する声に「だよねー」と返事をして新たなチョコに手を伸ばす。
ん?? あれ?? 今のお隣さんの声じゃないよね??
慌てて隣の庭に目を向けたが、お隣さんは剪定の続きをしている。気のせいだと決めつけて、改めてその辺りに転がっているカラフルな包みのチョコに手を伸ばしたのだが、その中にチョコエッグほどのサイズで色もチョコレート色の毛玉が紛れ込んでてバッチリと目が合う。
ぱっちりした大きな目なのに瞳孔が点というような目玉が瞬きをしたと思ったら、私が手にしようとしていたチョコを奪い取ってネズミのようなとんがり口で銀紙ごとバリバリと飲み込んでいく。
ワニかサメかという牙だらけの口は再び私の近くのチョコを銀紙ごとバクリと食らう。
体の位置は動かないし、足のようなものも見当たらないのに針金か糸かという細い手だけが私の周囲の食べ物を目にもとまらぬ速さで奪い取っていく。
三度目。私の大切なチョコを奪い取ろうとしたので、先程ゴミ箱に弾かれた銀紙をデコピンで謎の生物に発射して当てると、思いのほか簡単に吹き飛んだ。
一呼吸おいてから目に見える範囲のチョコを拾い集め、私は逃げた。隣の庭へと。垣根を越えて。
「お嬢さん、何をするんですか!!」
剪定前の部分ということで許して貰えないものだろうか。いや、今はそんなことを考えている場合ではない。
「お隣さん!! お菓子泥棒がでました!!」
私のことより垣根の心配をしてる非道な隣人に謎の毛玉ことお菓子泥棒のいたところを指さして危機を訴える。
「オカシ ドロボウ ナンテ イナヰヨ」
「たしかに、居たんですって!!」
返事再び。すぐ近くから聞こえた声に腕の中を見ると私が拾い集めた煌びやかなツインクルチョコを布団のようにしてお菓子泥棒がくつろいでいた。
「うわぁああああああ!!!!」
叫び声を上げ、慌てふためいているのに隣人はただただ呆れたように苦笑しながらこちらを見ている。
「助けてくださいよ!! 何なんですか、これ!!」
お菓子泥棒はとても簡単に掴むことができたので、お隣さんの目の前に突き出す。が、ダメージなどないというように毛玉はまた私のチョコを銀紙ごと貪っていく。
「だからヰったのに。遅かったようですね」
お隣さんは毛玉の鼻の頭をつつきながら「これが“怠け虫”ですよ」と言う。
「怠け虫とヰうのはですね、怠けてヰるものに寄生してさらに怠けさせて、最終的には餓死させるという恐ろしいヰきものなんですよ」
だから、私の現在の主食であるツインクルチョコを奪っているのかと思うと背筋が冷える。
「けれど怠け虫自体も怠け者なので、餓死させるのに千年程度かかるそうです。基本的には冬場のコタツや布団の中に発生することが多いんですけどね。コタツで山のようにあったミカンがすぐ消えたりするのは大抵が怠け虫の仕業です」
千年とは壮大な……なんてことを思っていると、またチョコをとられそうになったので怠け虫を掴んだ手を左右上下と動かして腕の中のお菓子をとられないよう攻防を繰り広げる。
隣人に「生態についてはわかりましたが、どうしたらこの虫を退治できるんですか?!」と更なる助けを求めた。
すると少し考える仕草をしてからお隣さんはとてもいい笑顔をする。
「怠け虫を退治する方法は、早寝、早起きを心掛けて、家を清潔に保ち、三食キッチリ食べると自然と消えるとヰわれていますよ。あと、ランニングなんかも効果的だとか」
私は自分が早朝からランニングする姿を想像してから、チョコの山に怠け虫を戻して指で頭を撫でた。
「今後ともよろしく!!」
「ヨロシクナ」