あんスタ


俺達Wを始めとした、二人組ユニットが集められて行われるライブ。各地から年齢所属事務所問わないそれは所謂合同ライブですでに俺と享介はわっくわくのどっきどきで、もうすでに本番が待ち遠しい。

「享介、享介!監督が言ってたのってここ?!」

「うん、ここで合ってるよ、悠介」

来たのは事前打ち合わせ用のビル。ちなみに本番は二週間後で開催自体はもう三ヶ月くらい前に決まっていたみたいだけど実際他のアイドルの都合とかの関係で顔合わせが結構ギリギリになった感じらしい。

「えーっと、まずは受付に向かうみたい」

「受付、受付…」

ぱっと見本当に普通のビル。ぐるりと周回して入り口を見つけ、中に入る。ロビーっぽいフロアの一角に管理人室みたいな場所があって、中には人がいる。首から下げられた名札っぽいものを見つけて駆け寄った。

「こんにちは!」

「はい、こんにちは。Wの蒼井様ですね。ようこそおいでくださいました」

受付の人で間違いなかったみたいで、その人は笑うと手元のパソコンを操作してから俺達に何かを差し出す。

「こちらがパスキーですので、建物内では肌見放さずお持ちくださいますようお願いします」

「はーい!」

二人分受け取って、片方享介に渡した。そのまま指示されるがままエレベーターに乗り込んで階を上がる。

「もう他の人いるのかな!?」

「集合時間までは結構まだあるけど…どうだろ」

「他のユニットって誰がいるんだっけ?」

「うーん、俺達ばたばたしててサイト見てないし…監督に聞いとけばよかったかもな」

小さな音を立てて浮遊感がなくなる。止まったエレベーターに扉が開いて迷わず降りた。きょろきょろとするより早く喧騒が聞こえてそっちに向かって足をすすめる。

扉があって、上の方がガラス張りになってから中を覗いた。

顔が整った人たちが、たくさんいる。

「うわぁ〜!享介!享介!あの人テレビで見たことある!」

「あっちにいるのってこの間輝さんたちと仕事してた人たちだよね…!」

感動から目を輝かせて顔を見合わせて笑う。画面の向こうや雑誌の向こう。平面でしか見たことないような人がいて後ろから足音が聞こえた。

「なにしてるんですか?」

あたり聞き馴染みがないイントネーション。少し低い声はきっちりと声変わりしてる男性の声にしては軽めに聞こえて顔を上げると背が高いのか、不機嫌そうな表情のその人が俺達を見下ろしてた。

「あ、邪魔ですよね、すみません」

「謝らんでも…邪魔とちゃうくて、柑子」

不意に困ったように目をそらしたその人は隣に居たもう一人を見たらしい。緑色と赤色。補色同士のその人たちは全く纏ってる雰囲気が違くて赤色の人はふわりと微笑んだ。

「初めまして蒼井さん。特に謝罪されるようなことはされてませんのでお気になさらないでください」

「あ、えっ、俺達の名前…?」

「同じの舞台に立つんですからもちろん存じ上げております」

がしがしと頭を掻いてる緑色の人の所作に赤色の人が脇腹を小突いて、それでと首を傾げた。

「申し訳ありません。木賊は少し威圧的に見えますよね。木賊は中に入らないのかをうかがいたかったんです」

「ん」

頷いた緑色の人、木賊さんは不器用なのかもしれない。見た目で損をするタイプってやつだろう。それをフォローしてる赤色の柑子さんは笑顔が絶えない柔和イケメンで両極端だ。

「えーっと、ちょっと中にいる人たちが有名人でびっくりしちゃってて…」

「………?蒼井さんたちもプロサッカー選手からのアイドルなんですから有名人ではないですか」

「そ、それはそうかもなんですけど………」

顔を合わせて苦笑いを見せ合えば首を傾げた柑子さんに木賊さんは息を吐く。

「ふーん。まぁ同じ出演者なんやし、そんなん気にせんでええと思うけどなぁ」

木賊さんはさっさと手を伸ばして扉を開けた。開かれた扉が押さえられて、ぽかんとしてしまえば柑子さんに促され中に入る。視線が集まった気がして心臓がきゅっとなる。

好奇心、敵対心。色んな目が向けられてるらしい。身構えそうになった俺と享介に木賊さんと柑子さんは足を進め、中にいた人たちから二つ、オレンジ色が飛び出してきた。

「とっくっさせーんぱいっ!」

「柑子先輩!こんにちは!」

「朝っぱらから元気やなぁ」

「もうお昼ですけどね?」

オレンジ色は同じ声、同じ顔。だけどちょっと雰囲気が違う。

「双子だ…!」

「俺達以外で初めて見たな、享介…」

双子って人口的にはたくさんいるらしいけど、意外と身近にはいなかった。初めて見る俺達以外の双子から目をそらせないでいれば木賊さんと柑子さんと話してたその人たちは俺達を見て、顔色を変える。

「「木賊先輩、柑子先輩!もしかして俺達を捨てるんですか!?この浮気者!!」」

「はぁ?アホなこと言うなや」

「ふふ、またイタズラでしょうか?」

「「ノリ悪~い!」」

「………アホらし…付き合ってられんわ…」

「こういうのは新鮮ですけどね?」

「おちょくられるんは好きやないし」

むっとした木賊さんは壁際に寄って、柑子さんは双子に挨拶をしてから離れる。ケータリングの飲み物からお茶のペットボトルを手にとって、不意に顔を上げると俺達を見据え微笑んだ。

「蒼井さんたちも、せっかくなら自由にしてはいかがですか?美味しそうなものがたくさんありますよ」

「あ、ありがとうございます」

年上の余裕って感じ。離れしてるんだろう柑子さんはペットボトルを一つ持ったまま壁際に向かい木賊さんの横に立つ。

ペットボトルを眺めてからキャップを捻り、口をつけて、そのまま嚥下したと思うと隣に渡す。木賊さんはぼそりと何か言ったと思うと受け取って同じように液体を飲み込んだ。

「仲良しって感じだね」

「だな。……俺達もお菓子食べよ」

「あまり食べすぎるなよ?」

「大丈夫大丈夫」

ケータリングには飲み物にお茶が二種類、ジュースは四種類に水。お菓子は小分けパックのどこでも売ってる有名菓子や軽い差し入れとかで見るようなのもある。

「享介はチョコでいいか?」

「悠介はこっちの煎餅にしとこうか」

二つお菓子をつまみ上げてついでに小さめペットボトルのジュースを取った。

きょろきょろと空いてそうな場所を探してたまたま空いてた椅子とテーブルに向かう。木賊さんたちに近いそこに腰掛けて、お菓子と飲み物を口に運ぶ。

「はぁ。憂鬱やわ」

「決まってしまったものはしかたありません」

鬱然とした表情。頬杖ついてむくれてる木賊さんに柑子さんは諦めてる雰囲気で首を横に振る。

「そないなことわかってるわ。けどあの二人が出るとはなぁ…」

「ええ。確かに…あの二人がこのライブに参加したところで見合うメリットがあるとは思えません。……一体何を考えているんでしょうね」

「事務所の意向か、毒蛇の策略か…ほんまはくあがおらんくて良かったわ」

「ふふ。もしそうなったとしたら僕がお守りいたしますけどね。……たとえ刺し違えても葬りましょう」

「せやから公共の場で物騒な発言はやめろてなんべんゆーたらわかるん…?」

なんだか聞いちゃいけないことを聞いちゃった気分だ。

最後に木賊さんが呆れたみたいに息を吐いてくれなければ空気がおもすぎてしんどかっただろう。

享介も聞こえてたらしく俺を見て目を困った顔をしてて、たった椅子二つ分の距離感がとっても遠く感じる。

たったっと軽い足音が響いて俺達の座るテーブルと木賊さんたちのテーブルの間にオレンジ色が座った。

「先輩は今回どの曲やるんですか?」

「本番までのお楽しみです」

「自分らは決まってるん?」

「ふっふーん!よくぞ聞いてくださいました!」

待ってましたと言わんばかりの表情で二人はぱっと手を開く。

「驚いてください!」

「なんと!」

「今回の2winkは」

「「新曲やります!」」

じゃーんっと効果音でもでそうなくらいハイテンションな二人。満点の明るい笑顔に木賊さんは表情を緩める。

「ほんま?チャレンジすんなぁ?」

「それはとても楽しみですね、木賊。僕達も負けていられません」

「負けは気分悪いしなぁ」

「「あらら~。そこは可愛い後輩に見せ場を与えるべきなんじゃないんですか?」」

「可愛い子ほど旅はさせないといけませんから」

「は、俺らの出番喰ってみせろや」

言葉はちょっと怖いけど、和やかな空気感。信頼関係がきっちりしてるのがよくわかる。

「あ、でも今回ちょっと気になることがあるんです」

「どういたしましたか?」

「出演者…あれ本当ですか?」

「…………冗談ではないやろうなぁ。気乗りせぇへんけど、アレと戦わなあかんとか、笑えんわ…」

「あ、だから二人ともテンション低いんですね?」

「おや、気づかれてしまいましたか?」

「「俺達の観察眼舐めちゃだめですよっ」」

笑う二人に息を吐いて、木賊さんと柑子さんは顔を見合わせて笑って、双子に手を伸ばす。木賊さんはわしゃわしゃと、柑子さんは優しく頭をなでて手を引っ込めた。

「うわぁぁ!?もう!セット崩れちゃう!」

「は、先輩の心配しようなんて五億年早いねん。自業自得やひなた」

「ゆうたくんも、ご心配をおかけしてしまいましたね。大丈夫ですよ、夢ノ咲の代表としてがんばりましょう?」

「うん。そうですね」

同じ事務所から来てるのか。それなら仲がいいのも頷ける。

四人はさっきまでの空気感が嘘みたいにリラックスした状態で話をしていて、木賊さんは時折携帯に目を落としてまた話に混ざってを繰り返してた。

「「あ、そうだ」」

不意に会話を途切れさせて声を揃えた双子に木賊さんと、柑子さんの視線が上がる。双子はひそひそとわかりやすく内緒話風の体を繕った。

「先輩、蒼井さんたちとお知り合いだったんですか?」

「俺達も挨拶したいんですけど…」

「全然。知り合いとちゃうけど」

「出入り口でお会いしただけです。けれどそうですね…。折角ですからご挨拶に伺いましょうか?」

「今、ええですか?」

「「え、」」

迷い無く俺達に視線が向けられて俺と享介は肩をゆらして頷く。ぱあっと明るくなった双子の表情に柑子さんと木賊さんは微笑ましそうに笑った。

「改めて初めまして。僕はaddictの柑子です」

「同じくaddictの木賊ですぅ。今回、ほんまよろしく頼みますわ」

「「2winkの!」」
「ひなたと」「ゆうたです」
「「よろしくお願いします!」」

順番に仲良く挨拶してくれた四人に享介と顔を合わせてから立ち上がって笑う。

「俺は悠介。それで、」
「俺が享介」
「二人でW!こちらこそよろしくお願いしますっ!」

キラキラとした目でひなたさんとゆうたさんは俺達に笑いかける。

「双子、俺達以外で初めて会いました!」

向こうも俺達と同じだったらしい。思わず嬉しくなって大きく頷いた。

「俺も俺も!初めて!」

「しかも名前まで一緒だと奇跡を感じますよねっ」

「「名前?」」

俺と享介で首を傾げると二人はにっと笑って、木賊さんがほれっと携帯を渡す。ゆうたさんが受け取り、目の前に差し出された。

「俺達は葵ひなたと葵ゆうた。字は違うけど音は一緒なんです!」

「うわ!ほんとだ!!すごい!!」

スマホに表示されてる2winkの葵とWの蒼井。文字の並びに目を瞬いて、同じ双子で同じ音の名字。これは本当に奇跡みたいだ。

「そんなことあるんだ!」

「ほんとすごいですよね~!」

人懐っこいひなたさんとゆうたさんは高校1年生だそうで、addictの木賊さんと柑子さんは高校2年生。大人びてたから年上かと思ってたけど俺達のほうが一個上だったらしい。

気を遣ってくれてるのは察してたけど、俺達が孤立しないようにかまってくれてる二組に時間はあっという間に過ぎてたらしくて、柑子さんがもうそろそろ時間だと落ち着くように双子を諭す。

「もうそんな時間ですか?」

「あれ?でもまだあの人たち来てないですよね…?」

きょとんとしたひなたさんに木賊さんは柑子さんを見て、目を逸らした。

「そのうち来るやろ」

木賊さんが言い切ると同じかそれより早く、がちゃりと音を立てて開け放たれた扉。きらきらとした柔らかそうな髪をゆらして入ってきたのは貴族みたいな高貴さをまとった人で、その後ろから紺色の髪と大量の紙袋をゆらしてもう一人入ってくる。

「あれ?思ったよりも人が多いね、ジュンくん。もしかして僕達最後かな?」

「アンタが寄り道ばっかするからこんな時間ギリギリになったんでしょうが」

「だって久々に自由な時間だったんだもの。買い物は沢山したいよね」

漫才でもするみたいにトントン拍子で会話して、二人は二秒程度視線を動かして、ぴたりとこっちを見て止まる。そのまま迷わずこっちに足を進めてきて金髪の方のその人が笑った。

「やぁみどりくん!久しぶりだね!」

「……だからみどりちゃうんですけど?」

「ふふっ、君はみどりくんで十分さ!しゅういろくんも相変わらず気味が悪いねぇ!」

「お褒めくださりありがとうございます。巴さん、漣さん、今回はよろしくお願いします」

「柑子さん、お久しぶりっす。それと木賊さん、すんません。おひいさん意地でも呼び方変えないんすよ」

「全くや」

ぷいっと顔を背けてありありと不機嫌ですと空気を重くする。柑子さんは笑みを貼り付けたまま唇を結っていて、さっきまでの和やかさとは全く違った。思わず俺と享介で同じく取り残されてるひなたさんとゆうたさんを見れば首を横に振られる。

「ねぇ、今回は紅紫くんは来ないの?」

「けぇへん」

「えー?紅紫くんに会えると思ってここまで来たのに〜」

「本番はいらっしゃる予定ですよ」

「、柑子」

「…おや?珍しいね!君が教えてくれるなんて天変地異の前触れかい??」

「お伝えしなければ直接はくあくんに連絡なさるおつもりでしょう?それに先に話しておいたほうが都度問いかけられないで済みます。今後の苦労を天秤にかけた結果ですから決して貴方をはくあくんに近づけるためなどではありませんよ」

「うんうん、相変わらず喰えない子だね!」

「お褒めに預かり光栄です」

にっこり笑う二人の後ろにはブリザードが吹き荒れて見える。お互いに笑顔を崩さないから不穏すぎる空気でゆうたさんとひなたさんは手を握り合って身震いしてた。

やり取りを聞いてたのか異様な空気に共演者の人たちも震えるか険しい顔をしていて、自然と集まっている視線に二つため息が落ちる。

「おひぃさん、初っ端から目立つことするのやめません…?」

「柑子、そのへんにしとき。あとに響くやろ」

「「………………」」

相方に声をかけられて二人の視線がようやく逸れる。おもすぎる空気が途端に軽くなって詰めてしまってた息をしなおせばちょっと落ち着いた。

「ほんとすんません」

疲れたように息を吐いて頭を掻いた紺色の髪をしたその人に木賊さんは目を逸らして、手元の鞄を漁る。ビニールのこすれる音がして何かをつまみあげると柑子さんの口に押し付けて、赤色の飴玉が転がり込んだのを見て息を吐いた。

「柑子も、その飴ちゃん舐めきるまではお口チャックやからな」

「……………」

視線を落としてほんとに小さく、微かに頷いた柑子くんはころころと口内で飴玉を転がす。本当に黙ってる気らしく口を開く様子がなくて飴玉を溶かすことに集中してるらしい。

さっきまでは柑子さんが大人っぽくてずっと木賊さんの手綱を握ってるように見えたのに、今は逆に感じる。

視界の端にぷるぷるしてる肩が見えて、目を向けると二人は止めてしまってたらしい息を大きくはいた。

「「ぷっはーっ!」」

「なにやってんねん」

「一触即発!」

「火と油!」

「「とっても怖かったんですからね!」」

「すまんすまん」

頬を膨らませて怒る二人に木賊さんはにっと笑って追及しようとしてくるのをはぐらかして、あっという間に霧散した険悪な空気に享介がホッとしたように力を抜く。

「もうどうなるかと思った…」

「俺も…」

周りで俺達の様子を盗み見てたらしい人たちも少しずつ調子を取り戻してきてるらしくざわめきが帰ってきた。

紺色の髪をした人は紙袋を置いて、金髪のその人は空いている椅子に腰掛けると人差し指に眺めの髪を巻きつけて目を細める。

「そういえばみどりくん、僕達のこと紹介してくれないのかい?」

「同じ事務所でもないんやから紹介するような間柄ちゃいますよね?」

「ふふ、元同校だろう?」

「俺はアンタと仲良しちゃうんで、他所あたってもらえます?」

「冷たいねぇ」

にっこりと女の子なら赤くなっちゃいそうなくらいに蕩けた笑みを浮かべたその人に心臓が飛び跳ねる。不思議な色気があって、目が合えばさらに心臓がばくばくと音を立てた。

「315プロのWだったよね?」

「あ、はい、俺が悠介、こっちが享介」

「よろしくお願いします」

「そうかい。僕たちはEve。今回はよろしくね」

「俺が漣で、リーダーが巴っす」

マイペースなのか笑ってユニット名だけ教えてくれたその人に補足が入る。漣さんは俺達を、巴さんはいつの間にか視線の先を別の方に変えていて首を傾げその先を追おうとしたところで扉の開く音が響いた。

「お集まりくださり誠にありがとうございます!」

飛び込んできたのは見覚えのないスーツの人で続く紹介曰く今回の主催者らしい。

ざわついていた室内が静まって主催者の言葉を聞き、主催者は早速と手元の紙に目を落とした。そこには今回参加するユニットが並べられてるらしく一つずつ読み上げられて、なんとなく流れで各ユニットが自己紹介を始める。

有名な人たちももちろんいるし、そのたびに享介と目を輝かせて、俺達の名前も呼ばれたから所属プロダクションと名前を言って頭を下げ座った。

「2wink様」

「「はーい。夢ノ咲学園から来ました、よろしくお願いしまーす」」

「addict様」

「………………」

「あ、」

妙な間のあとに木賊さんが短く声を漏らす。頭をがしがしかいて髪を乱したあとにすんませんと短く謝罪を零した。

「同じく夢ノ咲から来ました」

小さく頭を下げてすぐに座る。なんとなく紹介は柑子さんがするものだと思ってたから不思議に見えて、二人を見つめると柑子さんは相変わらずからころと飴玉を転がしてた。

「舐めきっとらんの?」

にこにこ笑って頷く柑子さんにさっき木賊さんが飴玉を放り込んだ時のことを思い出す。本当に舐め終わるまで喋らない気なんだろうか?

「Eve様」

聞こえてきたユニット名に少し室内がどよめく。さっき巴さんと漣さんが入ってきたときもそうだったけど、周りが二人を見る目はどこか険しい。

巴さんと漣さんは特に口を開くことなく、巴さんがにっこりと笑うだけで主催者は何も言わずに次のユニットの名前を呼んで流す。

どうにも不自然なそれに眉根を寄せるより早く、左手が取られた。

「享介?」

「……空気が悪いね」

「…うん」

ぴりぴりとまではいかない。でも決して温厚な雰囲気ではない。警戒するように周りを見渡せばとんっと肩が叩かれて隣の享介も同じだったのか驚きで目を見開いた。

「「だいじょーぶですよ!」

二人は人好きする笑顔を浮かべながら人さし指で自分の頬を突く。

「蒼井さんたちに害はありませんよ!」

「もし何かあっても俺達がやっつけます!」

「「だから、さぁ、笑って笑って」」

笑顔の裏側に何を飲み込んでるのかは俺にはわからない。きっと隣の享介も同じでしゃくぜんとしない表情を浮かべてたけど頷いた。

「そうだよね、ありがとう」

「これから楽しいライブなんだしな!」

安心したように笑う二人。さっと室内を見渡せばやはり全員の視線はあの巴さんと漣さん、そしてどうしてか木賊さんと柑子さんにも注がれていて眉根を寄せた。



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