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【八犬伝】“俺”を見て?

教会へ戻って来た信乃はすぐに部屋へと向かいベッドの上に大きく横たわった。
今日は色んな事があり過ぎた。

…思い出すだけで顔が赤くなるのがわかる。

荘介は莉芳に呼ばれたらしく、後から部屋に来るとの事だった。
戻ってきたら風呂に入らなければと信乃は勢いよくベッドから飛び上がり、いつも通り四白のトリミング道具を用意し、自身の支度も始めた。


ふと目に入った鏡が気になり、鏡台の前に立ってみた。
服を少しずらすと露わになる二輪の紅い華。
直に感じた2人の荘介。
同じなのに違う。
真っ直ぐだけどどこか歪んでいて、それでいて重い。

影というだけであんなにも違うのだろうか…?
そっと首筋の痕に触れてみる。
同時にその時の感覚と2人の顔が思い浮かんだ。
身体が少しずつ熱くなる。
奥にある何かが疼く。

ただ2人の想いを受け止めることしか出来ない俺に一体、あの2人のために何が出来るというのだろうか?
俺が知らない間に荘介は互いに違う道を歩んでいた。
蒼は、俺に会うことが出来なかった。
同じ時期を共に過ごし、記憶を持ち、俺との想い出を持っているのに、荘介として側にいることは出来なかった。
いざとなれば俺は荘を助けたい。
蒼が荘を斬るのなら、俺は蒼を斬る。
俺の大事な兄弟だから。

「ちゃんと‘‘俺”を見て、信乃」

どう見ればいいんだよ。
お前は荘介だけど、荘介じゃない。
でも、蒼だって同じ兄弟だ。
元は荘介なんだから、蒼にだって同じ事が言える。

どうすればいい…?
‘‘荘介”は俺と共に在る事を願っている。
思惑は多少違うかも知れないけど、元は同じだ。
蒼は俺がどんなに荘の味方をしてもアイツはいつも自分のため、俺のためだけに動く。
荘介も俺のためなら命をかけるくらい必死だ。

どうすれば…いい…?


「すみません信乃、待たせてしまって……」

部屋に入った荘介は信乃の返事がないことを不思議に思った。
いつもなら文句を言って真っ先に飛び出してくる筈だ。

「信乃…?」

棚には丁寧にトリミングの道具と着替え等が置いてある。
準備はしていた…なら信乃は?
信乃の匂いはする。
どこに行ったのだろうか?
そう思い足を進めると、ベッドがもりあがっているのがわかった。
近づくとそこにはすやすやと寝息を立てて眠っている信乃がいた。

…待ちくたびれて眠ってしまったんでしょうか?
はぁ…と溜息をつき、信乃の隣に腰を下ろす。
背中を未成熟な脚にもたれるようにして座り、腕を伸ばし信乃の髪に触れた。
一瞬。
信乃の身体がビクリと震えた。
勿論、信乃の顔を見つめていた荘介は信乃の表情が緩んだことに気づいている。

俺に狸寝入りするなんて、信乃も馬鹿ですね

見破れないわけがないのに。
そう思いながらもあえて声に出さず荘介はそのまま信乃の髪に触れている。
すると、信乃の目が濡れていることに気がついた。
泣いてでもいたのだろうか?
一体何故?
いつまで経っても目覚めない信乃に悪戯心が疼き、荘介は信乃に顔を寄せるとその涙を掬い取るように舐めた。

「んっ……」

声を漏らした信乃にニヤリとしながらあえて表情には出さず、荘介はそのまま抱きしめるように横になった。

意地っ張りなところはいつまで経っても変わらないんですから…

「大好きですよ、信乃」

目を閉じたままの信乃の顔がみるみる赤く染まっていく。

「…いい加減起きたらどうですか?」
「荘の意地悪」
「出来心ですよ」

観念した信乃は恥ずかしさのあまり荘介の胸に顔をうずめた。

「お前、そんな事言って恥ずかしくないのかよ」
「そうですね…本心なので特に何も」
「絶対みんなの前で言うなよ」
「流石に俺はそこまで馬鹿じゃありませんよ。信乃の前でしか言いません」
「もうやだコイツ…」

荘介の想いに気づいていないとは言えない。
ただ、兄弟として過ごしてきた相手を友情ではなく、愛情に近い視点で見るとなるとどうしても目を逸らしてしまう。
きっと、俺と荘介にそういった趣向があるわけではない。
相手が相手だから。
荘にとっては俺だけだし、俺にとっても荘だけだと思う。

「エゴ…ですかね」
「は?」

荘介は切なそうに信乃に触れる。
心地よく、信乃はただ目を瞑った。

「俺が生きるキッカケになったのは信乃ですし、今の俺が生きていれるのも信乃のお陰です」
「うん」
「だから、奪われたくないんです。他の誰にも。たとえそれが、俺の影であろうとも」
「…うん」
「可笑しいですよね、同じ自分に奪われたくないだなんて。でも俺にとって信乃は、この世界で何にも代え難い大切な存在なんです。信乃のいない世界だなんて想像出来ない」
「………」

言葉が重い。
そう思いながらも信乃は黙ってきいていた。
荘介の綺麗な瞳が俺を映していて、何かを訴えているその瞳がとても綺麗だった。

「ずっと信乃の側にいます。何があっても、必ず。」

そうだったらいいのに。
でもきっとそれは叶わない。
叶わない……願いなんだ。

「長く話すぎましたね。風呂、入りましょうか」

すると、荘介は四白に変わった。
ベッドから飛び降りようとする四白を信乃が突然抱きしめ、頭にキスを落とした。

「ど…どうしたんですか、信乃」
「さっきのお返し♪」

古那屋での荘介のおしおき?の仕返しである。

「忘れてました。帰ってきたら続きをするんでしたよね」

…余計なことしなきゃ良かった‼︎‼︎

「ま、いいでしょう。風呂入りましょう」

続きは風呂上がりでも出来ますから。

四白の横顔が笑っているように見えた。




風呂から上がると、四白を乾かし、元の姿に戻った荘介が信乃の髪を乾かした。
無言の作業。
荘介が慣れた手つきで乾かしていく中、信乃はこの後何をされるのかとソワソワしていた。
髪が全て乾き、立ち上がった信乃はグッと体を伸ばした。
と、次の瞬間、やや乱暴に引っ張られ信乃はベッドに倒れた。

「おい、そ………ん、…」

叫ぶ間も無く塞がれた。
抵抗しようと突き出した両腕も荘介の力には敵わない。
やがて気持ち良くなったのか、信乃の腕の力は抜けてゆき、荘介の腰にしがみつくように腕をまわしていた。

「信乃…」
「…なに?荘」
「…愛してます。世界で一番」
「……馬鹿じゃねーのっ」

微笑む信乃に、荘介は笑い再び唇を重ねた。
入り込んだ舌は口内を犯していく。
荘介は手を伸ばし、枕元にある灯りを消した。
窓から月明かりだけが2人を照らし、荘介の目には涙で潤んだ瞳を物欲しげにむける信乃が映った。

こんな風に、信乃に触れていれる時がずっと続いていればどれだけしあわせなのだろうか…?
「荘…どうした?」

信乃がニコリと無邪気に微笑む。

「いえ、何でもありませんよ」

このまま共に溺れていれるのなら、死ぬのも悪くないかもしれませんね。

そう思い荘介は、信乃と共に快楽の底へと溺れていった。



「嫌なやつだな、ホント」
「ヤキモチですかぃ、ダンナ」

むすっと不貞腐れながら、教会を見下ろす蒼と紺。

「あの子供のところにでも行って来たんですかぃ」
「まぁね。信乃に印つけてきた」
「印…?」
「所有印。」
「ダンナが言うと嫌な想像しか出来ねーんですが…」

紺は恐ろしい想像をしてしまう。

ダンナ…もしかして、それって犯罪じゃあ…

「考えてもみろよ、紺」
「なんですかぃ」
「お前は自分の大切なものを印もつけないで置いておくのか?」
「…まぁ、隠したりってのもありですが、印を付けておくのはわかりやす」
「だろ?しかも相手の見せしめにもなるし、付けられたものは相手のものだという自覚を持つ事が出来る。充分だろ?」
「完全にダンナ、それってアイツに嫉妬してるか………ぐっ、死……だ、ダンナ……タンマタンマ」

イラついた蒼は両手で紺の首を締め上げる。
2、3秒で離すと紺はゼエゼエ息を切らせながらその場にへたり込んだ。

「そろそろ迎えに行かないとなぁ……ねぇ、信乃」

ニヤリと笑う蒼の横顔から、琥珀の輝きを失い、青く輝く両目がじっと教会の一室を見つめていた。

「そうやって縋っていればいい…主役交代は目前なんだからさ…」

小さく呟かれたその言葉は、誰にも届いていなかった。

「行くぞ、紺」
「へいへい」

見てくれないのなら、見せるまで。
選べないのなら、選ばせるまで。

さぁ…信乃。

どっちを選ぶ?
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