はじまりの出会い
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手を繋ぎ“自分達の家”へと帰るカカシとスイ
火影邸を出た時のようなカカシが先を歩きその離れた後ろをスイが追いかけることはない
カカシとスイ二人一緒に並んで歩く
「(こんなにもゆっくりだったんだな…)」
並んで歩いて初めてスイの歩調を知ったカカシ
大人と子供とでは歩幅も歩く速さも違うことはわかっていたが実際に手を繋いで並んで歩くとその違いは想像していたよりも大きかった
「(父さんもこんな風にオレに合わせて歩いてくれたんだろうか……)」
カカシはスイを見つめながら自分の子供の頃を思い出しては思わずそんなことを考える
三代目から頼み…スイを引き取り育てるという決心はついた
勿論これからのスイと二人の生活に心配や不安がないわけではない
それにまだ幼いスイの将来を考えるならやはり父親と母親となる里親を探した方が自分よりもいいのかもしれない
しかしそれよりもスイを知らない場所で一人にさせたくないという気持ちの方が強い
この先もし…里親を探すことになってもせめてスイがこの里に馴染み安心して暮らせるようになるまでは面倒を見るつもりだ
「……ん?」
そう考えながら歩いていたカカシはふと隣を手を繋いで歩いていたスイの足取りが重くなったのに気付く
「スイ…?」
カカシはスイへ目を向け呼びかける
最初は呼び慣れずにあまり口にしなかったこの名前もいつの間にか抵抗もなく口にするようになっていた
一方カカシに呼ばれたスイからは返事はなく顔は力なく俯いていた
「どうした?」
屈んでスイの顔を覗き込むカカシ
コク…コク…ッ
『………』
見るとスイの目は眠そうに目蓋が半分ほど閉じており頭はコクコクと前に揺れていた
余程疲れたようで意識はほぼ睡魔に侵食されているがそれでも何とか眠ないようにと頭が前に大きく傾くと閉じていた目を開け必死に睡魔と戦っていた
「フフ…」
そんなスイの様子を見てカカシは思わず小さな笑みが溢れた
幼い体で歩き回りまた知らない場所で気を張り続けていたのでは無理もない
「…スイ乗れ」
船を漕ぐスイの前に背を向けて屈み乗るように言うカカシ
カカシのその言葉に意識はほぼ眠っていながらもスイの体は無意識に反応してカカシの背中にしがみつく
「よっ…と」
スイが背に乗るとゆっくり立ち上がったカカシはしっかりと背負いなおし再び歩き出す
スイの歩調に合わせてゆっくり歩く必要はなくなったが背中で眠るスイを起こさないようにとカカシの足取りは自然といつもよりゆっくりになるのだった
――――⋯⋯⋯
ガチャ…
自宅に着いたカカシはドアを開けた
そして薄暗い玄関に入ると背負っているスイの靴を片手で器用に脱がしていく
ズル…ッ
「おっと…」
最後に右足の靴を脱がしてるとスイが背中から僅かに落ちかけ再び背負いなおす
「…よく寝てるな」
だが起きる様子のない背中のスイに呟くカカシは自分の靴も足だけでこれまた器用に脱ぎ部屋に奥へと進む
短い廊下を抜けると月明かりに照らされ僅かに明るい居間に着く
床には家を飛び出した際には放ったままの荷物が転がっていたがそれを無視し居間の奥にある自室へ向かう
月明かりを頼りにドアが開いたままの自室へ入るとカカシはベットにそっとスイを降ろす
熟睡しているようで降ろしてもスイに起きる様子はなく静かな寝息を立てている
そんなスイに布団を掛けてやりふと眠っているその顔を見た
「寝顔だけ見れば普通の子供だな」
感情のない虚ろな目を見せていた時とは異なり寝ているスイの寝顔は年相応のあどけない表情をしていた
「フッ……」
それを見て思わず小さな笑みを溢したカカシが枕元の窓を少し開けるとそこからは暑くも寒くもない心地良い初夏の夜風が優しく吹き込みカーテンを揺らす
一応スイの様子がわかるようにドアは閉めずに半分ほど開けた状態にしてカカシは部屋を出た
そして居間へと戻ると床に放置されてた荷物を拾っていくカカシ
寝室になるべく明かりが入らないようにと寝室正面にある居間の電気は付けず代わりに隣の台所側の電気だけを付けた
「(明日はスイを連れてまた三代目のとこへ行かないといけないが昼頃ぐらいでいいか)」
明日のことを考えながら荷物を仕舞っていく
―――⋯⋯
その後軽く夕飯を取りシャワーまで終えたカカシはタオルで短い髪を拭きながら居間に戻る
先程半分開けておいた自室のドアから中のスイの様子を気にして覗いてみると最初と変わりなく静かにベットで眠っていた
それに小さく安堵したカカシは居間のソファーに腰を下ろした
「(これからはスイもこの家で一緒に生活していくのか…)」
「(そういえば……誰かと一緒の生活なんて随分と久しぶりだな。子供の頃以来か…)」
考えれば自分が丁度今のスイぐらいの歳の頃に唯一の家族だった父親を失って以来ずっと一人で生きてきた
もう今更この歳になって寂しいや悲しいなどという事もすでになく一人での生活が当たり前となった今、むしろ誰かと一緒の生活を想像する方が違和感を感じるくらいだ
「(まさか…オレみたいなのが孤児の子供を引き取るなんて…な……)」
どこか自嘲的にマスクの奥で小さく笑う
「(今のオレを見たら
お前はどう思う……オビトよ)」
背もたれに身を預け天井を仰ぎながらカカシは今は亡き親友へと問いかけたー
――――⋯⋯⋯
翌朝ー
ソファーで眠っていたカカシはふと目を覚ました
ベッドと違って狭いソファーで寝たせいかどこか気怠げに体を起こすと腕を伸ばし少し凝った体をほぐす
まだ完全に夜は明けておらず部屋はまだ薄暗いが近くの窓に目を向けてみるとすでに東の空は少しずつ白んできている
ちなみに時計の針は6時過ぎを指していた
「よいしょ…」
小さく呟きながらソファーから腰を上げるとスイの眠る奥の寝室へ向かうカカシ
この時間帯ではおそらくまだ眠っているだろうが昨日のこともある、様子を見ておかないわけにはいかない
「……!」
開けたままにした扉から起こさないようそっと寝室を覗くとカカシは僅かに目を見開いた
眠っていると思っていたスイが予想に反して何ともうすでに起きていたのだ
そんなスイはというとベッドの上でカカシに背を向け枕元の窓から外をただ眺めているようだ
「スイ」
カカシが静かに優しく声をかけるとスイは特に驚いた様子もなくゆっくりと振り返る
「よく寝れたか?」
コクン…
近づきながらカカシが尋ねると頷いて答えるスイ
「何してたんだ?」
『外…みてた……』
「外?」
ベッドへ腰を下ろしたカカシは「外を見ていた」というスイの視線を辿り同じく外を見たがカカシからすれば特に何か珍しいものがあるわけでもない見慣れたいつもの里の景色が広がっているだけだった
しかもまだ僅かに薄暗いこの時間では外を出歩く人影はいないのは勿論、周りはまだ寝静まっており眼下に見える建物の全ての窓はカーテンが閉め切られ明かりも灯っていない
唯一明るいとしたら東の空から少しずつ昇りだしてきている太陽だけだ
その太陽は暗かった空をゆっくりと赤色に染めて辺りに朝日を照らしていき、空は次第に赤から碧空へと変わっていく
『太陽が空にのぼるところ…はじめて見た』
スイはポツリと呟いた
『いつもせまくて暗い建物の間から小さい空を見てたから……こんなに大きい空はじめて見た』
「…………」
それを聞いたカカシには返す言葉が出てこなかった
太陽も空も自分にとっては日常の中で当たり前にあるありふれた風景の一つでしかない
でも過酷な環境にある貧民街で育ったスイにとっては何気ない日常の風景一つ一つが目に留まりそしてそれは珍しく尊いものに感じられる
『きれい…』
スイがそう呟くと開いた窓の隙間から緩やかな風が吹き込みカカシとスイ二人の似た銀色の髪を揺らす
「………」
カカシは一瞬たりとも逸らすことなく真っ直ぐ空を見ているスイの横顔を見つめた
スイの表情こそは出会った時と変わらず感情のない様子だがガラス玉のように大きな瞳には明けていく空が映り朝日を受けて光り輝くその臙脂色の双眸はとても綺麗だった
そしてスイと共に朝日が昇り明けていく空を右の目で改めてしっかりと見つめる
「そうだな。今日の空は特に綺麗だ」
スイの小さな頭を大きな手で優しく撫でながら静かに呟くとしばらく二人は朝日が空と里を照らしていく様を黙って眺めてた
その後ろには二つの影が浮かんでおりまるで寄り添うようにして部屋の奥に差していた