はじまりの出会い
名前変換
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――――⋯⋯⋯
高い位置にあった太陽が西に傾きだし夕暮れとまではいかないが空が僅かに朱色を帯びだした頃
ようやくカカシの自宅に到着した二人
「着いたぞ。ここだ」
『……』
そう告げるカカシの隣でスイは目の前に建つカカシの家を何も言わずただ見上げる
「………」
火影邸の応接間で顔を合わせてからここに来るまでまだ一言も喋らないスイの無反応にカカシもすでに慣れた
そしてカカシが何も言わずとも歩き出すとスイが大人しくその後を付いて来るのもお約束事のようになっていたー
―――⋯⋯
ガチャ…
ドアノブを回しドアを開けるカカシ
「ほら入れ」
促されたスイはカカシが開けるドアを通り玄関に足を踏み入れるもそこで立ち止まりカカシの家の中を見回す
スイが中に入るとカカシは自分も入ってドアを閉め壁に手を付きながら靴を脱ぎ先に上がった
それを見て真似るようにスイも脱ごうとするが見るからに真新しい靴にまだ慣れていないのか上手く脱げずに苦戦している
「…………」
見かねたカカシはスイの前に屈むと小さな足に手をかけ靴を脱がしてやる
「脱げたぞ」
脱がしてもらったスイは一瞬だけ僅かに驚いたように目を見開いてカカシを見た
一方そんなスイの一瞬の変化を見たカカシはというと今まで無表情だったスイの初めて見せる表情に内心驚いていた
「(そんな顔もするんだな……)」
てっきり感情がないのだとばかり思っていたがどうやらそうではないようだ
もしかするとこれからの関わり方次第ではスイの表情にもう少し変化があるのかもしれないと感じたカカシ
「(だとしても…どうせ明日までだ……)」
しかしスイを引き取る気がない上に明日までの短い時間に何かが変わるとも思えず結局は無駄だと結論づけてしまう
それからカカシは脱がしたスイの小さな靴を玄関の隅に置き部屋の奥へ行くとそれに続くようにスイも付いて行った
短い廊下を過ぎると右に台所、左には居間のあるこの家で一番広い空間に出る
「疲れただろ。とりあえずそこに座ってろ」
カカシは居間に置かれたソファーを指差し立ち尽していたスイに言うと台所へ向かう
『………』
素直にソファーに座ったスイはゆっくりと部屋を見渡した
一人暮らしには少し広い家だが全体的に掃除はしっかり行き届いており周りの物等もきちんと整頓されたきれいな部屋だった
また居間と台所のある部屋の奥にはさらに部屋があるらしく扉が二つある
その内一つは扉が閉まっているがもう一つの扉は開いておりおそらくカカシの寝室なのだろう部屋の中にベットがあるのが見えた
『…………』
そしてスイはふと台所の反対側にあるベランダに目を向ける
ベランダの窓からは暖かい陽が差し込み電気の点いてない部屋を照らしていた
その陽の光をただ見つめるスイ
「お茶だ…飲むか?」
するとそこへカカシがやって来てお茶の入ったコップを差し出す
コップを両手で受け取ったスイはお茶を飲む
半分程飲むとコップから口を離しコップを持つ手を膝の上に置く
少しはひと息つけた様子のスイを台所側にあるダイニングテーブルの椅子に座って見つめるカカシ
「(さて…これからどうしたものか……)」
スイを引き取るかどうか考える猶予を一晩貰いはしたもののどうするか考える以前にカカシにはスイを引き取るつもりはない
しかしこのままスイと話さず彼女のことを何も知らないまま明日を迎え三代目に断りを告げるのも気が引ける
スイのことを知る必要がある
「スイ⋯⋯いくつか聞きたい事があるんだけどいいかな?」
未だに名前を呼び慣れず口にするのにも僅かに戸惑いつつ話しかけるカカシ
コップを手にしたままのスイは返事はしないがカカシの方を見た
それを肯定と受け取ったカカシは再度口を開く
「いつからあの町で暮らしてたんだ?」
カカシの問いに対しスイは首を小さく横に降るだけ
「わからない……憶えてないってことか…?」
何も話さないスイの仕草から答えを予想し再度尋ねるカカシ
コクン…
『……』
当たっていたようで今度は頷いた
「……いつから一人なんだ?」
今度の質問に対しても「わからない」といった様子で最初と同じく横に首を振る
「じゃあ……前からずっと一人であの町で暮らしてたのか?」
コクン…
『………』
次は頷いたスイ
「(いつから一人であの町にいたのか憶えてないってことは…物心つく前のもっと幼い時に親と離れたのか………)」
「(でもそんな幼い子供が一人だけで生きていけるものか…?)」
人にもよるが物心つく年齢は大体3歳程度だと言われている
それぐらいの幼い子供が何もかもが乏しい貧民街で親も誰もいないたった一人で生きていけるとは思えない
そしてもう一つ“スイ”という名前にも疑問が残る
「その“スイ”って名前は…?誰がお前をそう呼んだんだ?火影様か…?」
物心つく前に親と別れ一人で生きてきた子供が自分の名前を知っているなど矛盾した話だ
この子のことを“スイ”と名付け呼んだ人間がいるはずだ
「(火影様が名付けたのなら納得いくが………)」
そう思いスイの返事を待つカカシ
『…………』
一方スイは少し考えて首を横に振った
「火影様じゃ…ないのか?」
まさかの答えにカカシは困惑する
するとー
『………わたし…』
「…!!」
出会ってから一言も喋らなかったスイが俯いたままか細く覇気のない声ながらも初めて口を開いた
『親も…家も…知らない……
いつからひとりなのか…知らない……けど…』
『わたしの名前は“スイ”
……それだけは知ってる』
顔を上げ驚くカカシを見つめるスイの目は出会った時と変わらず虚ろで生気を感じないが最後のその言葉にはスイにとって自信という唯一の感情があるように感じた
「(名前は知ってるが他は知らない…。もしかしてこの子には孤児になる以前の記憶がないのか……)」
こちらを見るスイを見つめているとある結論がカカシの頭に浮かぶ
もしそうだとしたら全ての疑問や矛盾に納得がいくが同時に新たな疑問がまた一つ出てしまう
「(何故記憶を失ったんだろうか…?)」
思わず考えるカカシだが記憶喪失とはいっても原因は様々ありまた症状も本人が憶えている記憶の時期や内容によって大きく異なる
そういったことの専門でもない…ましてや医師や医療忍者でもない自分にはこれ以上の考えを巡らせても原因究明は無理だろう
「そうか。ありがとう…色々答えてくれて」
『………』
カカシはそう言うと座っていた椅子から立ち上がりスイに背を向け再度台所へ行く
「(気になることはまだあるが…まぁいいか。あの子に関して重要なことが一つだけだが分かったんだ。これ以上詮索しても無駄かもな……)」
「(……にしても火影様も人が悪い。知っていたのなら教えてくれれば良いものを)」
引き取りを頼んだ三代目はカカシに肝心なスイの事に関してほとんど何も話さなかった
まるで自分からスイ本人に聞けというかのよう
そして気になるのは三代目のあの言葉ー⋯
「この子の適任者は
お前しかおらんと思っておる」
三代目の意図がわからない
長いこと暗部として忍の闇の世界を生きてきた自分が子供を引き取って面倒を見る適任者とは全く思えない
自分はこのまま忍として任務の為に、里の為に生きて…そしていつかは“彼ら”のように戦いの中で死んでいくと思っていた
自分の手は誰かを育てる事はおろか守る事さえ出来ない…ただ命を奪う為だけにあると思っていた
それが変わるのだろうか…?
この子を…スイを引き取ることで……
「(いや…無いな。そんなこと……)」
ほんの一瞬ながらもスイと一緒の生活を考えたカカシだがハッと我に返り否定する
そして手を掛けたままで止まっていた冷蔵庫の扉を開けた
「あ……」
開けた冷蔵庫の中を見た途端にカカシの表情はどこか少しやつれる
中には夕飯になるような食べ物がほとんどなかった
「(そういえば最近は任務続きでろくに買い物に行ってなかったな…)」
二人分どころか一人分の夕飯も出来ない冷蔵庫の中身に買い物に行くことにするカカシ