第16話:記憶の際限

 昼間、午後十四時過ぎの太陽がやけに眩しく感じるのは、恐らくは公園のベンチでぼうっとしているせいだろう。

「にゃ」

 左足を軸に足を組み、ベンチの手すりに右肘をつけて挙句には頬杖をついて、いかにも暇そうにしている一見すると貴族になんて見えない怪しい奴にちょっかいを出してくる存在なんて、猫くらいなもんだ。

「んだよ」
「うなっ」
「いちいち来るなって。そっち空いてんだろ」

 オレの言うことが猫に届いている気配はまるでなく、ずかずかと膝の上へと上がってくる。まるで自分の椅子がここにあるかのように、猫はわざわざオレの膝の上を陣取ったのだ。

「重……オマエ太っただろ?」

 オレの小言が聞こえているのかいないのか、茶猫は大きな欠伸をした。完全にリラックスしているということは、これは身体を動かそうもんなら猫に怒られるだろう。仕方なく、オレは猫の身体の上に空いていた左手を置いた。
 一口に本当に暇というわけではないのだが、恐らく周りからはそう見えるのだろう。それは強ち間違ってはいないというのもある意味では事実のひとつだ。

「あ、また猫と戯れてる」

 但し、それは所詮何も知らない市民の言い分でしかないということを、話しかけてきたこの男はきっと知らないだろう。気付けばベンチの手すりを返してすぐ右近くにまで迫っていたらしく、ようやく視線を話かけてきた人物のほうへと向けた。

「……またオマエかよ」
「いい加減、名前覚えてくれた?」
「知らね……」

 突っかかってくる人間がこういう奴だと非常に厄介で面倒だが、目的は正しくこういうことだと言っていい。

「あ、この前のクッキー食べた? リアが作ったって話したよね?」

 この質問にオレは答えなかったが、そんなことはお構いなしに「この人だよ。この前話したネイケルって人」と、後ろに向かってリオは声を発していく。よく見ると、確かに誰かがリオの後ろに着いているのが分かった。リオの背から顔だけ覗かせたのは、ひとりの女である。

「……リアとは、初めましてでいいんだよね?」

 その問いにも、オレは答えることをしなかった。

「こ、こんにちは」

 オレがリア・マルティアという人物に会ったのは、これが最初のことだと記憶している。もしそうじゃなかったとするのなら、オレはとんだ薄情者だと言われても弁解は無理だろう。
 そうじゃなければいいと切に願ったのは、どちらかと言えばまだ記憶に新しい。
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