23話:ヒミツの容認

 学校の授業が終わると同時に鳴るチャイムは、いつしかとっくに聞きなれてしまっていた。それと同時に騒がしくなる室内の中、僕はと言えば一人帰る準備を進めている。
 放課後なんて、部活にさえ入っていなければ特に残っている意味も無いわけだから、さっさと帰ってしまったほうが遥かにマシで賢い選択だろう。強制的に部活をやらされるシステムじゃなくて良かったと、その点に関しては安堵を示さずにはいられない。
 いわゆる帰宅部という存在しない部活に所属しているわけだが、少なくとも、僕は今もこれから先もどこかに籍を置くということは考えていない。運動部なんてのはもってのほかで、文化部も別にそこまでして入る気には到底なれないし、幽霊部員というのも気が引ける。そこまで考えないといけないのなら、いっそ入らないほうが清々しいというものだ。
 こうして極力人間関係を築かないように努力しているはずなのだけれど、想定外の事態というのは常につきものだというのを、ここ最近は痛感している。

「相谷くん!」

 放課後すぐに僕を訪ねてくる人物が存在するという状況を作ってしまったのは、完全に僕の落ち度だろう。部活をしていないにも関わらず訪ねてくる人物がおり、それがしかも同級生ではなく先輩ということに、当然周囲は不思議がっているに違いない。「あの相谷に」と、恐らく誰もが思っているはずだ。

「な、なんですか……?」

 放課後に橋下さんが訪ねてくるということはどういうことかなんて大方検討はついているが、来る度に毎回こうして訪ねてしまう。と言っても、毎日放課後に現れるというわけではないから、まだ慣れるに至っていないというだけなのかも知れないが。

「図書室、一緒に行こうよ」
「嫌です……」
「もうちょっと考える姿勢が欲しいよオレは」

 もしかすると、これから先そう遠くない未来に慣れてしまう日が来るのだろうか? ……正直なところ、想像は難しい。

「早く行こっ。先輩たちが居るかは知らないけど」
「ちょ、ちょっと……!」

 勝手に教室に入ってきては、僕の荷物を勝手に取って行ってしまう。残されてしまった筆箱を手に、僕は急いで後を追った。こうなるともう、諦める他なくなってしまう。
 しかし諦めるということは、多少なりとも受け入れてしまいつつあるのだろうということに、僕は意図的に気付かないふりをしているのだ。
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