13話:不可思議に映ったもの

「一応聞きますけど、ああいうのが見えるってことで良いんですよね?」

 その問いに、おれは答えること躊躇した。知り合いが何かに巻き込まれてたのならともかくとして、今会ったばかりの人物にそれを問われたからといってそう簡単に「はいそうです」なんて言うのはただの馬鹿だ。
 仮に本当におれが幽霊が視えるのだと分かっていたとして、どうしてそういう結論に至ったのか疑問が残る。特別何かをしたわけでも無いはずなのだけれど、視えるモノ同士、何か分かるポイントというものがどこかにあるのかも知れない。生憎、おれにはそれが分からないのだが。

「……何で、おれが視えるって分かるわけ?」
「んー……いや、何となく?」

 どうやらそれを彼に聞いても無駄だったようで、軽い口調の如く言っていることもかなり曖昧で適当だった。
 本当に何となくで決めつけたのかという部分が信用できる材料がどこにもないせいでもう少し踏み込んだことを聞いても良かったのだけれど、正直そこまで首を突っ込みたくはない。……というよりも、彼の雰囲気のせいなのかどこか信用に欠けるところがあったから、単純に自分の何かを話すという行為に躊躇したのだ。

「いやーでも、見られてるとは思わなかったなぁ」

 でも、彼はそんなことはおれの気持ちなんてお構い無しに、おれが幽霊を視える側だと認識して勝手に話を進めていく。おれが言葉を発していないにも関わらず、相手はテンポよく口を動かしていた。それはまるで大きな独り言で、おれという存在が見えていないんじゃないかという錯覚に陥るほどだった。

「あ、オレは橋下って言うんですけど、名前聞いても良いですか? 多分先輩ですよね?」
「……宇栄原だけど」
「じゃあ宇栄原先輩、またどこかで会ったら宜しくお願いしますね」
「宜しくって……何を?」
「何をって、理由がなきゃ先輩と宜しくしちゃいけないんですか?」
「いや別に、そういうわけじゃないけど……」
「じゃあいいじゃないですか。オレ、まだ用があるのでこの辺で。あーでも、雪降るんでしたっけ? まあいっか」

 おれという人物に一連の流れを見られたということなんて気にもしていないような素振りで、言葉を口にしながら足早におれの横を通り過ぎる。

「じゃ、オレはこれで」

 言い終わると、足早に公園の外へと去っていく彼の後ろ姿を、おれはただただ見ていることしか出来ないでいた。でもそれは当然だろう。だって、今会ったばかりの人間を引き留めるに至る理由が何処にもないのだから。
 ――彼が居なくなった途端、辺りには静寂が広がっていた。強いて言うとするなら、風だけがおれの耳を掠めていったくらいだろう。

「……帰ろ」

 誰もいない公園に、残されたひとりの男の声が落ちる。
 風が酷く冷たく、コートを着ているのに芯から冷えているかのようだ。今日は本当に雪が降ってしまうのではないか? そう思わせるくらいのそれが頬に当たる。やっぱりマフラーは持ってくるべきだったか。などと思いながら足を進めるのは、そう遠くはない出来事だった。
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