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花葬

 彼女の最期は本当に美しいものだった。今でもあの光景を夢に見る。
 ベッドの上が花で溢れ、完全に彼女の姿は見えなくなってしまっていた。僕は医者たちを呼びに行き、大勢の使用人たちが呆然と立ち尽くすのを後ろから見ていた。数日経ってから彼女の死体は部屋から運び出され、ささやかな葬儀が行われた。
 僕はそこで久しぶりに父親と顔を合わせた。まともに顔を合わせるのは、僕がその屋敷に引き取られて以来初めてだった。その男は、「すまなかった」とか「これからはどうするつもりだ」とか聞いてきたが、僕はそこに留まるつもりはなかった。
 あれからもう何年も経つ。僕は彼女の最期の願い通りに、彼女の『種』を持っていた。彼女の死後、心臓の真上に咲いていた花が落としたものだ。種を残したのは、多くの花の中でこの一輪だけだった。小指の先ほどの、血のように赤い種だった。僕はその種を持ち、屋敷を出て行った。
 今僕が住んでいる所は、あの屋敷のあった街から随分離れた小さな村だ。そこに一人で暮らしながら、僕はこの日を待ち続けていた。
 昨日、庭の木が薄桃色の花を咲かせた。外の景色はすっかり春だ。僕の心臓に根付いた彼女もきっと喜んでいるだろう。あの花が咲くのを、とても楽しみにしていたから。
 ペンを握っている手に力が入らなくなってきた。花が満開になるまで、とても待てそうにない。それだけが残念だが、仕方ない。日記を書くのはこれで終わりにしよう。





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