はぐれ巫女の鬼子
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「……。」
「……。」
数週間後の現在、僕は飛行機の中。
学校は公休扱いになってて、ユキちゃんは河野くんに預かって貰ってる。
行き先は、香港。
ベルターの住む家を襲撃し、ユキちゃんを殺そうとした仇を返してやろうという、そういう作戦。
仲間となった人は、コニアくん、ベリコちゃん、ハリスさん、…そして、安倍くん。
隣に座って、座席に設置されたモニターで、じーっと映画を見てる。
なんでだろうなぁ…どうしてこうなるのかなぁ…と思いはしたものの、ぶっちゃけ、そりゃこうなるよな…と考えてる自分がいることも確か。
そもそも、なんで安倍くんと香港に向かうことになったのか、事情は数週間前、コニアくんと話し合った日から始まる。
「まず自己紹介からですね。ガランド・ルーの遺産継承者、コニア・ルーと申します。ベリコは専属妖怪、ハリスは僕の専属メイドです。」
「薄々分かってたけど、やっぱり関係者の人だったんだね。」
つい数時間前まで、香港へ行く話が出てたのに、まさか向こうからこちらにやって来るとは…。
「貴方は強い。ベリコを手玉に取るその手腕は確かなもの。恐らく、この継承戦を参加している妖怪の中でも、群を抜いているでしょう。」
「……。」
「ですが、貴方一人が強くても、この“戦争”には勝てない。“情報”と“協力者”が足りてませんから。」
ぽす、と窓際の縁に座り込み、神妙な顔をするコニアくん。
「僕がその足りない穴を埋めましょう。貴方はベルターに、並々ならぬ執念を抱いている。ならば“情報”と“軍資金”、それと“適切な舞台”を用意しましょう。」
「いや、ごめん…ちょっと待って、話が美味すぎる気がするんだけど、君、本当に味方?」
何か、良からぬことにカッコつけて寝返らないとも限らないような条件なのだが。
「ルー家の筆頭『ガランド・ルー』、その長兄『ブライド・ルー』。この二名を僕はど〜〜してもブッ殺したいんです。」
ガランド・ルー…聞いたことのある名前だ。
「二人を斃すには、戦力が必要。ですが僕にはそれがない。故に貴方のその類稀なる『鬼』の力をお貸し頂きたいのです。貴方の復讐の助力は、その『鬼』の力への賃料とお考え下さい。」
「………。」
「元々、マフィアの連中は全員殺すつもりでした。信頼のおける部下に任せても良かったんですがね。やるなら自分の手で徹底的にやりたい。それは貴方もそうでしょう?お兄様?」
ふむ…と僕は少し考える。
事の顛末的に、ルーの一族も敵ばかりではないようで。
少なくとも彼は兄弟を殺すために、僕の力を利用したいらしく、悪い条件ではないはずだとそう言った。
「どうです、ここはひとつ、手を組みませんか。」
「…条件的には良いと思うんだけどね。ごめんね、コニアくん、正直、不安要素は拭えないかも。」
「…と言うと?」
「端的に言えば、僕が殺したいと思ってる、ベルター・ルーの専属妖怪と、僕の力の相性が極端に悪いんだ。最悪そこで命を落とす可能性がある。」
僕がそう呟くと、コニアはくんは少し思案しながら話を続けてくる。
「ベルター、と言うと、専属妖怪は雪女のセツナ・アンデルセンですね。この女がどう貴方と相性が悪いんです?」
「知っての通り、僕はベリコちゃんと同じ、ゲームで例えるなら木属性の力を持ってる。」
「ちょっと待て!!、さっきからベリコちゃんって何だよ!?」
俺、男だぞ!?と外野から野次が入ったが、スルーして話を続ける。
「で、セツナはいわゆる、ゲームで例えるなら水属性、木と水なら、大抵は木の属性が強いけれど、セツナの場合はそれを凌駕する力を持ってる。何せ、雪と氷を操るからね。」
「確かに、セツナは寒冷地に属する妖怪ですし、その妖術も氷や雪に関することだと存じています。しかし、それの何が、貴方と相性が悪いんです?」
「生き物は、絶対零度の世界では生きられない。セツナにはそれが出来るから相性が悪いの。僕の能力だと、セツナの技のクオリティで押し負ける。」
「…つまり、貴方の操る術の使い方だと、どうしても大地に眠る生命の力を頼らざるを得ない。けれど、セツナの場合、それを能力で止めてしまえる力がある。そう言いたいんですね?」
頭の回転が早いらしく、僕の言いたいことをすぐに理解してくれるコニアくん。
その幼さで、それだけの頭を手に入れるのに、どれだけの時間と努力を有したのだろうか。
「もし、彼女に氷で出来た密室なんかに閉じ込められたら、術を発動するまでにそれだけ時間がかかる。その間に殺られる可能性も否めない。ハッキリ言って、今の僕だと正直勝てる見込みが少ないんだ。」
対策を練るなら、セツナに関する対策をしっかり練らないと、どう頑張ったってこっちが不利になる。
その点をどうにか出来ないかと、僕はコニアくんに交渉を入れてみることにした。
「もしベルターを打つなら、セツナとの戦いは避けられない。だから、なるだけ善戦を組めるよう、戦略を練ることは出来る?」
「分かりました、考えてみましょう。この先貴方に死なれては困りますし、作戦をいくつか考えます。」
少しだけ時間を下さい。とコニアくんにそう言われ、準備が出来次第、すぐに出発できるようにしますと、彼から連絡先を渡された。
コニアくんと別れて、家に戻る頃には空は白んで、寝る時間もそこまでないことが確定した僕は、欠伸をしながら数時間の睡眠を貪った。
朝になると、少しだけ遅めの起床。
ご飯を作り、身支度を整えて、学校に出る準備をする。
ユキちゃんが起きてくると、ご飯を食べてる間に髪の毛をやってあげて、それが出来たら郵便物を取りに家を出る。
ゴソゴソと家のポストを漁っていると、不意にトントンと、肩を叩かれた。
え?と振り向くと、
「ぃよ!」
と、軽快な挨拶と共に片手を上げた安倍くんがいた。
「………。」
「一緒に学校行こうよ。迎えに来たんだー。」
「スゥ…あんまり、人にこういうこと言うの良くないんだろうけどね…君、もしかしてストーカー?」
河野くんに聞いたんだろうか…、それにしたってよくここに住んでるって分かったな、おい。
前に送ってもらった時は、家の近くの住宅街までだったから、そこから割り出したのか?
「酷いよー、ストーカーじゃないよー。」
「…、」
ジト目で安倍くんを睨むが、安倍くんはどこ吹く風。
「だって君、気になる内情を全然教えてくれないじゃないー。妹ちゃんの事も気になるし、教えてくれないなら、後ろから着いて行くまでだと思ってー。」
「ストーカーじゃん!このむっつりスケベ!」
「それ狙ってやってるのー?可愛いねー。」
「可愛くない!」
とうとう家までやって来た安倍くんにカッカしながらも、僕はも〜…と郵便物を取り出し、ポストの蓋を閉じる。
バタバタと玄関に郵便物を置いて、僕は忘れ物がないか、学校用のカバンを確認する。
その内、ユキちゃんも準備を終えたようで玄関までやって来た。
「お兄ちゃん、私行くから…って、ソイツ誰?」
ユキちゃんからしてみれば、知らない学ランを着た男子が玄関で立っているので、そりゃ警戒もする。
怪訝な顔をして、安倍くんを睨んでいた。
「君が__ちゃんの妹ー?、初めましてー、__ちゃんと同じ学校に通ってます、安倍 晴華ですー。仲良くしてねー。」
「何コイツ、胡散臭ッ!」
ズカズカと玄関まで入って来て、ユキちゃんの方へと寄っていくので、ユキちゃんは引き気味に警戒している。
とりあえず、僕はユキちゃんと安倍くんを引き剥がし、唸りながら猫みたいに威嚇するユキちゃんには、先に学校に行ってもらった。
「あの子、霊感はないみたいだねー。小学生?」
「そうだよ…、ユキちゃんに変なことしたら許さないからね。」
「君の角とかも視えてないよねー、あれ。本当に、何の力もないただの女の子だー。」
「視えてはないけど…、でも、そういう力があるって言うのは、薄々分かってるみたいだよ。」
一目見ただけで、ユキちゃんの霊力の有無を感知したらしく、ペラペラと冷静な分析を述べる安倍くん。
のらりくらりしてるように見えて、鋭いんだよな、毎度毎度。
本気なのか、そうじゃないのか、未だに全然分からん。
「あんまり__ちゃんに似てないけど、雰囲気はそっくりだねー。」
我があって、すっごい警戒心強い所とか。と、安倍くんは僕の方を見ながらそう呟く。
「お陰様で、君みたいなのに着いて行かないように口酸っぱくして言い聞かせてるからねッ。」
何かイラッとしたので、青筋を立てながら皮肉を呟くも、安倍くんは気にした様子もなく。
「怒ってる顔も可愛いねー、学校行こっかー。」
「えっ、ちょっと!!」
何、当たり前のように手ぇ繋いでんだ!
一回手ぇ繋いだことあるからって、馴れ馴れしいぞ!!
「離してよ!、馴れ馴れしいな!」
パシン!と振り払おうとするも、晴華くんの力は強い。
痛いくらい指や手のひらを握り締めて来て、手全体が潰れそうになる。
「嫌?」
「嫌だよ!僕達、表立って手ぇ繋ぐくらい仲良くないじゃん!」
「仲良くぅ?」
「ゔっ…!」
近い近い!
ぎょろりとした赤い目が、僕を覗き込んでくる。
安倍くん、黙って動かなきゃ、凄い美少年なのに、どうしてこう、良い素材を焦がそうとするかな…。
「僕が聞いたって、なーんにも教えてくれないのにー。」
「はぁ…?」
「何を隠してるのかなー、継承戦然り、あの強い結界然り、まるで妖怪絡みの何かがあるみたいじゃないー。」
「……。」
目的はやっぱりそれか……。
「なんて言うかねー、あの大河童の事件に関しても、不可解な点があるんだよー。初対面なのに、僕のことを知ったような口で聞いてきたりだとかさー。」
…そう言えば、確かにあの事件で、ビクニは安倍くんの顔を見た瞬間、激昂して自分の子供を呼んだ。
安倍くんの顔が引き金になっているなら、言われた通り不可解な点が残る。
「けど、ビクニの件については知らないよ、僕…。そっちだけで関与してることなんじゃないの?」
「腕がねー、無くなってたことと何か関係があるのかなーって思ったんだけど、はぐらかされちゃってー。」
「…?、はぐらかされた?」
「大河童の件が片付いた後、本家に戻って、現当主のお父さんに聞いてみたんだけどねー。」
上手くはぐらかされちゃったんだー。と、安倍くんは相変わらず僕の手を引きながらそう呟く。
「…もしかして、それで今日なんかイライラしてるの?」
強引に手を繋いできたり、家まで迎えに来たり。
上手くいかないからイラついているのかと、直球に聞いてみると、安倍くんはぴく、と反応して一度歩を止める。
「あー、あー……、そうなのかなー。」
考えるように視線を上に向けて、安倍くんはよく理解していない口調で肯定してくる。
「…自分で分かってないの?」
「道具だから、感情なんか持ってなかったつもりなんだよー。言われて初めて、そうなのかもって思ってー。」
「…はぁ」
まあ、安倍くんも安倍くんで、色々と忙しいし、上手くいかないことがあるのかもしれない。
お互い余裕がなかったかもな…。
「とりあえず、離してよ。安倍くん。」
痛いよ。と手をゆらゆらとさせれば、するりと名残惜しげに手が離れていく。
なので、今度は優しくしてねと、自分から手を差し出してみる。
「痛かったから優しく握って。」
「嫌なんじゃなかったのー?」
女心はよく分からないよー。と、手をちょうどいい強さで握り返してくる安倍くん。
「恥ずかしいから学校までね。」
「放課後はー?」
「ちゃっかり放課後も一緒に帰るつもりか…」
いや、別にいいんだけどさ…と、困り顔になる僕。
「僕のこと好きなんだね…君。」
二人で歩き出しながら、確認するように呟けば、安倍くんはチラリとこちらを一瞥する。
「__ちゃんはどうなのー?」
「…僕?」
「僕のこと、どう思ってるのー?」
どう思ってるって…。
……。
「…分かんない。僕もまだよく分かってないんだ。他者を深く愛すること。」
「妹ちゃんはー?」
「ユキちゃんは家族だもの。深く愛してるけど、それは男女とか、そう言う関係の愛とは違うでしょ?それこそ、君はお父さんの事とかどう思ってるのさ?」
「お父さんはお父さんだよー。秘密主義な人だけどねー。あんまり話したこともないしー。」
ふうん。と相槌を打ちながら、あまり親子仲は良くないのかな?と思案する。
僕の両親は仲良しだったし、僕も父と仲が良い方だったから、なんて言うか安倍くんの家って、凄く淡白な印象を受ける。
「…あの、安倍くんの家ってご両親は仲良いの?」
「さぁー?、一緒にいる所見たことないものー。前に言ったっけー、血統付きの人間ほど、多く種をばら撒かなきゃいけないってー。」
「…お金持ちにありがちな、あのドロドロお家事情か…。」
まるでドラマみたい。
てことは、安倍くん以外にも腹違いの兄弟みたいなのはいるんだろうか…?
「兄弟とかはいるの?」
「それも知らないねー、興味がなかったからー。」
「そっか…。」
まあ、そうだよな…。
妖怪退治一筋で、陰陽師の教育を受けてきた子が、家族ともろくに接してないのに、親族のことなんか一々気にかけたりするはずがない。
「__ちゃんは一人っ子ー?」
「うん、そうだよ。一人っ子。でも、今はユキちゃんがいるから、一応兄妹かな。」
「気になったんだけど、妹ちゃんって、どこの子なのー?」
「僕のお母さんの、妹さんの子。血縁関係でいえば、僕とユキちゃんはいとこだね。」
へえー、そうだったんだー。と何気ない感じで思案する安倍くん。
「その妹さんって、何か特殊能力、持ってたりするのー?」
「んー…力はあったみたいだけど、母みたいに巫女さんの仕事はしてなかったね。…なんか、性に奔放的な人だったみたいで、ユキちゃんのお父さんも分からないんだ。」
「ふーん、そうなんだー?」
「…何さ、その目。」
じーっと探るような目で、僕を見る安倍くん。
別にー?と口では呟いてるが、どうにも納得がいっていない様子だ。
(継承戦の話が云々って言ってたのに、妹ちゃんの父親が分からないなんてことあるか…?妹ちゃんの母親が、継承戦に発展するほどの財産を持ってるなんて考えにくいし…。)
「…良くないこと考えてるでしょ、安倍くん。」
負けじとこちらも怪訝な顔をすれば、安倍くんはパッと白々しくとぼけ出した。
「考えてないよー、信用ないなー。それに僕、安倍くんじゃないしー。」
「いや、安倍くんでしょう…」
「安倍くんじゃない。」
そういう呼び方をしろって言ってるんじゃない。
言い方的に、こう言われた気がして、僕は言い淀む。
「“安倍”っていうのは、陰陽師で言うところの個体識別番号と一緒だよー。好きな子に“記号”で呼ばれるのは好きじゃないんだー。」
「本気で好きな子なら、初対面の時殺そうとしないでしょうに。」
「まだ怒ってるのー?」
「ずっと怒り続けるよ。痛かったし、死ぬかと思ったのは事実だもの。」
曖昧になっていたが、あの時の事を、まだ許した訳じゃないぞ。と、そう訴えかければ、真紅の瞳が僕を見下ろしてくる。
若干、安倍くんの方が身長が高いから、並んだ時にどうしても目線が上に行く僕。
視線が合ったまま、数秒、間が空いた。
「あー、んー、」
「…色事の術か何かと勘違いしてたから、容赦なかったのかは知らないけどさ。」
ぐ、と安倍くんの心臓に手を置く僕。
「君、人を愛せるような育てられ方してないから、無理だよ。」
「……。」
「君はきっと、僕の欲しい愛情をくれない。そういうタチじゃないもの。家の言う通りに、ただ種を撒いて、子孫を増やすやり方の方が、よっぽど性に合ってる。」
……。
言ってしまった事とはいえ、ここで続きを話すには内容が重過ぎる。
もう行くよと、僕は歩き出そうとした。
あと少ししたら、学校の校門が見えてくるはずだ。
そうすれば、安倍くんも素直に手を離してくれるだろう。
「…分かんないなー。」
「…ッ!」
ああ、まただ。
グイッと握っていた手を引かれたかと思えば、住宅街のコンクリート壁に押し付けられる。
「ぜんっぜん分かんない。何も教えてくれないのに、勝手に決め付けられても困るよー、殺そうとしたのは事実だけどさー。」
「痛いよ、離して…!」
「離したらどこかへ行っちゃうんでしょー?、僕だって思春期の男の子な訳ですよー、好きな子に“好き”を否定されるのはショックだし、拒絶されるのも嫌だ。」
ゴチっ、と額をぶつけられ、頭を固定される。
「僕ねー、君に上目遣いされると弱いんだー。可愛いから。」
「はぁ?、何の話しだよ…」
「お願いされたら逆らえないかもねー。なんて言うのかなー、こういうの、自滅?、それとも盲目とか?」
「何が言いたいんだよ、さっきから…」
ペラペラと聞いてもないことを呟かれ、要は何が言いたいんだと、僕は安倍くんの頭を押し返す。
「そこまで言うなら嫌いにさせてよ、突き放して。」
「…勝手に嫌いになれば良いじゃん…ユキちゃんを助けた後は、どうせ殺し合いになるんだから。」
「簡単にそれが出来たら苦労しないんだよー。」
安倍はそこまで呟くと、一度僕から視線を外す。
けれども、すぐに僕と目を合わせて、静かに呟くのだ。
「半妖である君が憎い。けど、八つ当たりなんだよねー、コレ。道具の癖に、簡単に人間に転じてしまった自分が一番憎いんだ。」
「……。」
「どう頑張っても、本能から君を嫌いになれない。君は、人を殺して悦に浸るような妖怪じゃないって分かるから。元々は妹ちゃんと静かに暮らせればそれで良かったんだって、言葉から滲んでるんだよ。いつも。」
妹ちゃんが、ただ健やかに楽しく生きられれば、それで良かったんでしょう?
そう言われ、僕は俯く。
何もかも失った時に現れた、小さな女の子。
僕を必要としてくれる、唯一の血縁関係がある子。
どんな理由であれ、必要とされて嬉しかったんだ。
だから、今度は失いたくないって、他者を害してでもって覚悟を決めた。
悪鬼となり、彼女の幸せのために生きると。
「陰陽師としての僕の本懐は、妖怪から人を護ること。その為なら、道具になることも辞さない。君は妖怪でもあり、人間でもある。」
ーーねえ、何を隠してるの、__ちゃん。
「…、教えない。あと、そこまで言うなら、ちゃんと謝って。」
ぐっ、と安倍くんの体を押し返そうとする僕。
どれだけ探られたとしても、無関係の人間を巻き込みたくない。
少なくとも、今の内は。
「話がどんどんズレてるよ、安倍くん。言ったでしょ、殺そうとしたのは許さないって。」
私情が挟まるのは分かってるけれど、そうそう許せるもんじゃないから。
殺そうとしてきて、やっぱり好きだなんて、身勝手にも程がある。
「安倍くんなんか、きらい。」
「なら、もっと強く押し返して。」
ーー 出来ないなら、僕を拒まないで。
そう言った安倍くんの顔は、どんな顔をしてただろう。
俯いてて分からなかったけど、それでも、手はずっと離されないまま。
ぎゅうっと強く手を握ったまま、安倍くんは僕の手を引いて歩き出した。
「僕は好きだよー、__ちゃん。」
「……。」
嫌いと言ったことに対する返答なのか、こちらを見ずにそう呟く安倍くん。
僕は黙って、安倍くんを一瞥した後、校門までの道のりを静かに二人で進んで行った。
