はぐれ巫女の鬼子
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
やらなきゃならないことが山積みな今日この頃。
一番に優先すべきは、とりあえずユキちゃんを守ること。
つくづく理解が出来ないけれど、海の向こうへ渡った先、遺産相続による兄弟殺しの発端から、ユキちゃんの命が危ない事態になった。
前に戦った、あの雪女の女性。
アレを取り逃して倒せないようじゃ、この先、ユキちゃんを守れない。
自分の戦闘能力について、疑問を抱く日々だけれど、手合わせをしてくれる人なんかいないし……。
それに、安倍くんが言っていた、別件の話。
あれもまた、もしかしたら、ユキちゃんに関連することなのかも。
出来ることなら調べたいけど、うーん……。
「__、おっすぅ。どしたぁ?、なんか考え事?」
安倍くんとの交戦から翌日の朝。
通学路で、さっきの通り、安倍くんの話が気になって考え込んでいたら、河野くんが話しかけてきた。
「ああ、おはよう。河野くん。なんか今日いい匂いするね、朝風呂?」
「おっ、分かる?ボディーソープ変えたんだよ、モテる男はやっぱ香りからでしょ〜。__から見てどう?俺、モテそう?」
ん?ん?と反応を伺ってくる河野くん。
正直、どこにでもいそうな健全な男子という感じなので、反応に困った僕は、曖昧に言葉を濁した。
「にしてもさぁ、最近、一日に一回はああ言うの見るようになったよなぁ。」
僕の反応を気にした様子もない河野くんは、住宅街を見回して次の話題へと移る。
「またテレビの人来てるね……」
あまり映像に映らないようにしながら、僕は困ったような顔をする。
「やっぱ、例の事件についてだよなぁ。少女連続失踪事件。」
「うん……。」
最近、この街は若い少女達が行方不明になる失踪事件が相次いでいる。
ユキちゃんだって関係ない話にならない以上、特に気をつけるように言ってるけど、大丈夫かな……。
もしテレビにユキちゃんの姿が映ったら、それこそ厄介なことに……。
「初めの被害者はホームレスだった。」
不意に、後ろから響くあまり聞きたくない声。
「半年くらい前、とある森林公園で、男の遺体が発見された。遺体はかなり損傷が酷く、臓物が丸ごと抜かれていた。」
「……。」
「状況から見て野犬の仕業ではと、一時巷を賑わすも、目立ったことを嫌った犯人は、死体を残さない方法で、今も狩りを続けている。」
「安倍くん…。」
河野くんとの間に入って来た安倍くん。
今日も今日とて、ぎょろぎょろとした赤い目に、白い肌、指定の学生服をキチッと着こなしている。
正直、昨日のこともあるのであんまり関わりたくない。
「それでも最初は、比較的事件になりずらい者を狙ってた。今日に至るまでに、ホームレスが六名。でも、最近になってから犯行がエスカレートしてねー、健康的な若い女性を狙い始めた。」
「あの……」
河野くんが手を挙げるも、構わず続ける安倍くん。
「犯人は同一犯によるものではないかと、警察側は睨んでる。」
「あの、なんでそんなに詳しいんスk……」
そう河野くんが言い終わる前に、困惑気味の顔にバチィン!と凄い勢いで何かを叩きつける安倍くん。
「あわばばばば…ッ…!」
「河野くん!?」
バチバチと音が鳴っているソレは、術がかけられた御札。
河野くんに作用しているらしく、白目を向いて、その場で痙攣して動かなくなってしまった。
「ちょ、ちょっと!安倍くん、これ取ってよ!!何してるの!?」
「二人で話すのに邪魔だったから。でねー、僕ら陰陽師の間では、この事件は、妖怪の仕業なんじゃないかって話になってね、」
こっちの気も知らずに、安倍くんは一方的に話を続けていく。
「最初は君と『ソイツ』が事件を企てるのかと思ってたんだよねー。もう一回聞くけど、本当に無関係なんだよね?」
もしそうじゃないなら……みたいな圧をかけてくる安倍くんに、私は首を横に振って再度否定した。
「全くの無関係だよ…、むしろ、ユキちゃんに犯人の手が伸びたら危ないから、探ろうと思ってたくらいだし……。」
ていうか、彼が転校して来たのって、そう言うこと……?
「うーん、まあ嘘着いてたら分かるしねー。僕はこの事件で、市民の庇護を目的として潜入調査してる。陰陽師は国家権力とも繋がりがあるから、現行法では裁けない、『妖怪』による事件の調査、処理を一任されてるんだ。」
「そ、そっか…。」
国家権力なぁ…、まあ、ポンと簡単に転校して来れる時点で、何かしらあるとは思ってたけど……。
「それで…一応聞くけど、目星は着いてるの?ユキちゃんが心配だし、出来ることなら、早く犯人捕まえて欲しいんだけど……。」
「僕は透視が出来る訳じゃないからねー、見分けは着くけど、人目の付かない屋内、地下、森の中、そういった所に隠れられたら、見つけるのも一苦労だよ。」
「ん゛ーー…ッ」
任せっきりじゃ、やっぱダメかぁ…。
目頭を押さえながら、僕は怪訝な顔になる。
「そんなに心配?」
「え?」
かくん、と安倍くんに首を傾けられ、僕はそりゃそうだと頷いた。
「そりゃ、もちろん…前にも言ったじゃん、ユキちゃんを守りたいって。少なくとも、『ユキちゃんの継承権』がどうにかなってくれれば……」
「ンー?」
「…近い近い!」
ぎょろ、と顔を覗き込まれ、僕は安倍くんの顔を押しのける。
「継承権ってなにぃ?__ちゃんの妹に何かあるの?」
「…あることにはあるけど……、君には話さないよ。無関係の人間は巻き込みたくないし。」
「…やっぱり、ゴリ押しで付き合っちゃえば良かったねー。そしたら無関係とはいかなくなるのにぃ。」
本気で言ってるのか、ふざけてるのか、安倍くんは住宅街を飛んできた蝶々を目で追ってる。
イラッとしたので、素早く否定して、お行儀悪く河野くんを指差した。
「付き合わない!、早く河野くんを戻して!」
「僕より河野くんの方がいいのー?」
「そういう問題じゃないでしょ!、これ本当に大丈夫なの!?」
「大丈夫だよ、元は対妖怪用なんだからー。」
そう言うと、安倍くんは河野くんに貼り付けたられた御札をベリッと剥がした。
けれど、河野くんが正気に戻る寸前、安倍くんは、僕を人気のない路地裏へと引っ張り込み、河野くんの様子を伺っている。
「はっ!…?、あれ、俺今、__と…、あれぇ?、」
キョロキョロと周りを見渡して、僕を探している河野くん。
すぐにでも出て行きたいが、口を塞がれて、壁に押し付けられてるので、彼の様子を伺うことしか出来ない。
やがて、河野くんは、同じ同級生の女の子達と出くわし、通学路を行ってしまった。
「行ったかな。」
「むー!」
いい加減離して!と安倍くんを睨むと、割とすんなり離してくれたが、何なんだと僕は軽く咳き込む。
「ケホッ、ちょっと何!?、河野くん行っちゃったじゃん!」
「行っちゃったねー、しょうがないから二人で登校しよっかー。」
「……。」
絶対狙ってただろ!、わざとらしい演技すんな!
そうキレたかったけど、もう反応するのも疲れたので、僕は大人しく安倍くんの隣を歩き出す。
「ちょっと疑問なんだけどさ、」
「何さ藪から棒に…」
「普段、__ちゃん、髪長いよね?神社にいる姿が本当の姿でしょー?、綺麗なのに、なんで伸ばしたままにしないの?」
「別に理由なんかないよ。僕、体は男の子だし、プライベートと人前に出るんじゃ、また別でしょ?」
サラリと口説いてるのかそうじゃないのか、よく分からないことを言う安倍くんに、僕は毛先をいじりながら呟く。
「ていうかちょっと待って、なんで僕が神社に住んでるって知ってるの???」
僕、そんなの話した記憶ないんだけどっ!
「河野くんに聞いたらあっさり話してくれたよー?、__ちゃん、元々神社に住んでて、プライベートでは巫女さんの格好してる、髪の長い男の子なんだってねー。」
河野くん!、なんてことを!!
「厄払いの神社なんでしょー?今は妹ちゃんと二人で住んでるみたいだけど、あそこ凄いねえ。僕の眼でも視認出来るくらいの、強力な結界が張ってある。最近になって張り出したの?」
「まあね……、最近、色々物騒だし、せめて家だけでもって思って。」
結界を張っておかないと、またいつ刺客がユキちゃんを狙ってくるか分からない。
ベルター・ルーの手先である雪女の動向も気になるし……。
「それって、妹ちゃんにも関わることー?」
「……。」
本当食えない性格してるな、安倍くん…。
隙あらば探りを入れて、核心を突こうとしてくる。
「無言は肯定と受け取るよー。薄々勘ぐってたけど、やっぱり妖怪絡みなんだね。今回の事件とも関係ある事なのかなー。」
「何が言いたいのさ…。」
「ンー、こういう時なんて言えば、君からいいよって言ってもらえるかなー。」
「普通に言えばいいじゃん、言わせたいの?」
ジト目で睨むと、安倍くんは顎に手を当てて、セリフを言い直そうとしている。
「えー、じゃあ今日暇?暇なら僕とデートしませんか?」
「ナンパ風にしなくていいからハッキリ言ってよ…」
余計訳分かんないことになってるよ……。
どうせふざけてるだけで、本心じゃないだろうに……。
「どうせ、僕が言わなくても探るんでしょー?お互いに協力し合った方がいいと思うんだー。」
「そのセリフを言うまでに、遠回りし過ぎだよ……」
要は、僕もユキちゃんに危険が及ぶのを避けたいから、事件の真相を探りたい。
安倍くんも事件のことを調査しなくちゃいけない訳だから、協力し合った方が、お互い有益じゃない?ってこと。
「分かったよ、協力する。僕とデートしよう。」
ようやく目的の要件を引き出した僕は、ため息混じりに安倍くんのノリに合わせる。
「これがプライベートだったらなー。」
「そういうのいいから…て言うか、この事件終わったら、君、また転校しそうな勢いだけど、陰陽師ってやっぱそんな感じなの?」
彼を見てる限り、結構忙しそうな印象を受けるし、国家権力が絡んでる事案なら、なおのことそうだ。
「転校するかどうかは別だけど、まあ、そうだね。任務が済み次第、本部には戻るよ。」
「仕事人だね……、人の事を好きになれるタチには見えないや。」
読めないし、食えないし、本当に人を好きになるような質なのか?と疑ってしまう。
僕が半妖である分、その疑心は何倍にも膨れ上がるし、元々殺そうとしてきた殺伐な展開からこうなっているのだ。
「本当に僕のこと好きなの?」
「好きだよ。」
しかし、僕の疑心を他所に、あっさりと好意を示してくる安倍くん。
「僕は道具じゃなくて、人間だって、君に証明されちゃったからねー。でも、よくよく考えてみたら、人って単性生殖出来ないし、やっぱり一定数感情は必要だと思うんだよ。」
価値観のアップデートは大事、うんうん。と一人で納得している安倍くん。
「開き直ってるじゃん…」
自分は等身大のお祓い道具とか言ってたくせに……。
「陰陽師同士で子供作って、子孫を繋いで、今の僕達がある訳だから、感情なくして子供なんか生まれないでしょー?」
「そうだけどさ…君、陰陽師の生まれなら、女の子と付き合った方がいいんじゃないの?僕、曲がりなりにも男なんだけど…。」
子供云々のことで子孫を繋ぐってんなら、僕と彼とじゃ子供は出来ない訳だし、彼は陰陽師の生まれだ。
人間を悪しきものから護る血筋なら、絶やしてはならないだろう。
「男色なんて昔からあるじゃないー。血を絶やさないようにって言うなら、女の人に子供生んでもらえば全部解決だよ。」
「君って割とクズだね……。親の顔が見て見たいよ…。」
「よくある事だよー、血統が高いほど種をばらまいてたくさん子孫作らないと、いざとなった時、血が途絶えないとも限らないしねー。」
実際そうして繁栄してきたから、今がある訳だしー。と、割と至極真っ当なことを呟く安倍くん。
確かに、陰陽師なら妖怪に狙われて、たくさんの死者を出す時代もあっただろうし、今だってそう。
その観点から言えば、子孫をひとつの母体に頼って残すのは悪手だろうなぁ……。
「聞きたくなかったなぁ…良い所のドロドロお家事情とか……。」
「でねー、それを踏まえた上で、君のことが好きかって話だったよねー?」
「…君の好きは友達としての好きじゃないの?」
逃げ道代わりに呟くも、それもあっさり切り捨てられた。
「違うねー。友達なら交わりたいとか思わないでしょー?」
率直な安倍くんの意見に、僕は黙る。
「……。」
「さっきも言ったでしょー?、絶やさないようにするには、絶対にどうしたって血を混ぜる必要がある。家でそう言う練習もさせられるんだよー。」
「練習って…」
まあそういう事なんだろうけど、淡々としてる感半端ないなぁ……。
普通、こういうこと話すのは恥ずかしいとか思うだろうに、人としての欠片が紛失してるって点に関しては、確かに道具みたいだ。
「そこに感情はいらないから、ただ黙って交わればいいって、よく言われてきたんだけどさー。」
「…。」
この場合、産まれてくる子供が可哀想だって、思う方が野暮なんだろうか。
「僕、その感覚がよく分からなくて、今までの交わりで成功した試しがないんだよね。どういう感覚なのか、未だに分からないけれど、君といたら何か変わる気がしたから。」
「……。それで自分達はお祓い道具なんて笑わせるよ。」
好き好んで、死に行くお祓い道具を生み育てたい人間なんか居ないだろうに。
彼の家の、『今』が異常なだけで、昔は多分もっと、マトモな理由で動いてたんだろうな。
「笑うよねー、笑っていいよー。でも逃げないでねー。」
「え?」
急にずいっと、顔を近付けられ、怖い目をする安倍くん。
「半妖が、道具であるべきものを、人間だって自覚させた代償は重いよー。」
「え、安倍くん、こ、怖い…」
「安倍じゃない。名前はちゃんと教えたでしょ。」
「……、は、晴華くん」
怖いくらいに視線を逸らすことを許されないまま、名前を呼ぶように催促された。
けど、素直に名前を呼ぶと、すぐに視線は逸らされ、
「学校着いちゃったねー。」
と、いつもの安倍くんが戻ってきた。
「じゃー、善は急げってことで。今日の放課後、一緒に帰ろうねー。」
安倍くんの一方的な約束に対して、僕はあまり反応が出来なかった。
彼のことが、よく分からない。
道具でいなきゃいけない気持ちと、僕に対する気持ちが混雑して、覗き込んだ彼の瞳が酷く澱んでいた気がする。
一瞬、彼は迷うように視線を横に向けたが、次の瞬間には、元の心情を読ませない眼に戻っていた。
「__ちゃーん、来ないのー?」
ふと、先を行っていた安倍くんに首を傾げられて、僕は視線をさ迷わせながら、歩き出す。
安倍くんに追いつくと、彼もまた歩き出し、他の生徒と一緒に学校へと歩んでいく。
今日もまた、変わり映えのしない学校生活が始まった。
