はぐれ巫女の鬼子
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ホテル滞在三日目。
この日は、いよいよコニアくんとの作戦通り、ベルターの所へ乗り込む予定だ。
時間が来るまで、僕は部屋で待機している。
“なぜか”この日、晴華くんが部屋に訪ねてくることはなかった。
それならそれで好都合だと、僕は目立たない黒っぽい服に着替える。
そして、ちょうど、着替え終わった段階で、コニアくんから電話がかかってきた。
「お兄様、前日の予定通り、ベリコがライデインとの戦闘を開始しました。ビルの爆破も七割がた完了しています。」
一度外を見て下さい。と言われ、僕は締め切ったカーテンの隙間から外を覗く。
コニアくんの言う通り、外には複数のビルからもくもくと煙が上がっており、爆発音がここまで聞こえてくる。
「爆破箇所は僕の持ちビルや、買収済みの廃ビル。爆発事態も、音と煙がド派手なだけのもの。周辺の被害を加味しつつ、他継承者の足止めをしておきます。」
「分かった。ありがとう、コニアくん。」
「部活の皆さんも、ホテルに居る限りは安全です。ーー行ってください、お兄様。」
ぷつ、と電話を切り、僕は最後に帽子を目深に被る。
さて、用意は出来た、覚悟も充分。
あとは、アイツを、ベルターを殺すだけ。
窓の外をチラリと見つめ、ギュッと拳を握った後、僕は部屋を後にした。
………。
…………。
『お、やっと反応したー。部屋に置いていったあの式神、メモ代わりとしてカモフラしてたけど、バレなくて良かった。これでペアの式神が導いてくれる。』
『全く、お転婆娘めー。目を離すとすぐに何か企んで、どこかに行こうとするんだからー。もう逃がさないよ、__ちゃぁん。』
■■
ホテルを出てすぐ、僕は小走りでパニックになっている人の間を縫って駆け抜ける。
自分もまるで逃げてますよ!と言う感じを装ってるが、ベルターの屋敷を目指す以上、逃げてる人とは逆の方向へと向かうことになる。
とは言え、人間に魂を入れ替えている以上、あまり大っぴらに怪しいことは出来ない。
「マジで!?、人間じゃないの?コイツ?」
「ッ!?」
ヒュッ!と顔面目掛けて張り手を食らった。
瞬時に顔を真横に逸らしたが、それよりも早く隙がなかった。
明らかに戦闘慣れした手札の使い方だ。
「熱ッ!!」
しかもだ。
飛んできた張り手には爆発効果があったらしく、気が付いた頃には、顔が溶けていた。
「えー、魂も気配も全部人間なんだけどなー。まあ、お前が言うならそうなんだろうな、“エンラ”。」
くそ、もうバレた。
どっかで見られてたのか…?!
確かに、一旦“野暮用”を片付ける為に、ここまで走ってくる際に地下鉄の駅を経由した。
もしかしたら、そこで何か勘づかれたのかも。
だがこうなった以上、溶けた顔を元に戻して、破裂した眼球を復元しないとマトモに戦えない。
入れ替えないと…。
そう思ったのも束の間、同じ方角から別の攻撃が飛んでくる。
「ッ!!」
今度はなんだとそちらを見れば、ゾロゾロとこちらに向かってくる敵の中に、声による“衝撃波”を術としているであろうヤツがいた。
「さてさて、初めましてぇ、だよな。可愛らしい鬼子ちゃん、悪いがここが終着点。とゆーか、“デッドエンド”だ。」
「…。」
面倒くさいのがゾロゾロと…。
目測で見ても、おおよそ『六人』は確認出来る…。
一人一人の妖怪としての格は訳ないけれど…戦闘経験は向こうの方が上の粒ぞろい…。
その中で指揮を取ってるのは恐らく、あのヘラヘラした白い煙の男だな。
「嫌だな…、もう。」
「__ちゃん、とでも呼んだ方がいいのかな?セツナがエラくご執心でね。会ったらすぐに連絡をくれと言われたんだ。」
「…貴方がこのグループのリーダーですか。セツナと繋がってると言うことは、ベルターともグルっぽいですね…。」
「おおっと、ボク、そんなに強くないんですよ?」
そう睨まないで。と初手で殺そうとしてきたヤツが何か言っている。
「ましてや三本角の鬼子と戦うなんて、ボクの力じゃとても無理だ。月狼で一番強いのは『パイル』って筋肉ゴリラなんですよ。ボクの能力はソイツと比べれば、戦闘向きじゃない。」
「だったら、最初からその人を出せば良かったのに。ここにはいないんですか?」
手の内を明かす時点で、明かしてもここでは出せないみたいな雰囲気を感じた僕は、人間から鬼に成り代わり、周りを警戒する。
「たった今、地下の方で三体ほど妖怪がベルター邸に向かっているのを『感知』したので、その対処に向かってもらってます。」
白い男からそう言われた時、そういえば、ここにはイーシャ・ルーの送り込んだ妖怪がいたな…と、僕はコニアくんの話を思い出す。
「これでも一家言、あるんですよ。」
「……」
「半径一キロ圏内を薄い煙で覆い、その中で起こる全てを煙の“ゆらぎ”で感知出来ます。右往左往する民衆の中で、君だけがベルター邸に向かっていました。」
民衆に紛れるカモフラージュのために、一旦地下鉄を利用してたみたいですけどね。とヘラりと笑われ、僕は軽く鼻を鳴らす。
別に、紛れるためのカモフラージュではないのだが…これは言う必要はないか。
「あとは…セツナから聞いていた風体と照らし合わせた感じですね。」
「なるほど、つまり、貴方の前では逃げ隠れが全て無駄に終わると。」
カツン、と靴を鳴らし、僕は白い男に一歩近づく。
男は未だ不気味なほど穏やかに微笑んでいるが、おもむろに左腕を宙に向けて振り上げた。
ボッ!と音が出ると同時に、その左腕が紫色に揺らぐ。
「…紫の、…狼煙…?」
何かに信号を送るように、断続的に紫の煙を上げ、かと思えば白い男はスマホを操作している。
「狼煙かよ、随分レトロなことするじゃねーか、エンラ。」
すると、作戦を知っているであろう別の男が、エンラと呼ばれた白い男の隣で笑っている。
狼煙をあげるってことは…まだいるよな、仲間が。
この場にいるのは五人。
僕が六人だって感知した時点で、遠方から見てる仲間がいるんだ。
多分、ここからそう遠くない位置に。
「中々、優秀な探知機能を持ってるようで、鬼子ちゃん。」
エンラがいる位置から、ちょうど真後ろ。
その先に、エンラの煙に応えるように、何かがチカチカと動いている。
そして、そのチカチカとしている先に、僕はもう一人の妖気を感じていた。
じっとそちらを凝視していたからか、エンラの口角が少し下がった気がする。
「さて、どーします?、鬼になったはいいものの、その牙が果たしてボクらに届くかどうか……」
と、エンラが言い終わるか終わらないか、その間に、僕は両手を胸の前で組み、そのまま人差し指と親指同士で輪っかを作った。
「『鬼術 爪紅之弾丸(つまくれないのだんがん)』」
三本角の鬼が術が使える、と分かった時点で、エンラの判断は早かった。
「撃て、アラク。今すぐ。」
スっと宙に上げていた左腕を前へ倒し、待機していたアラクに命令を出す。
だが、術を起動した時点で、それすらも遅い。
バァン!!と、最初の一撃が鳴った瞬間、それに共鳴するように次々と爆音を立てる。
僕の周辺に出現した“モノ”達が、一斉に弾け飛び、近辺にいた敵達へ向けて、発砲されていく。
それは数十秒続き、地面や建物を巻き込んで、埃や煙を発生させた。
「“煙”、良い学びを得ましたね。」
トッ、と軽く音を立てて、僕は目的地まで辿り着く。
目的地は、六人目の妖怪がいる場所。
つまり、エンラの真後ろに建っていたビルだ。
「爆煙というか、まあ近しいもので周りを覆ってしまえば、“貴女からは”向こうの僕達が見えなくなりますもの。」
スナイパーと思わしき女型の妖怪が僕の前にいた。
すぐに予備の銃を向けてくるが、単純な腕力で腕をもぎ取り、僕は六人目の首の骨をへし折った。
ゴキ、と鈍い音がしたかと思えば、その妖怪は地面に倒れ伏せ、もう二度と動かなくなった。
いやはや、敵の煙を扱う術で学びが得られるとは思わなかった。
『鬼術 爪紅之弾丸(つまくれないのだんがん)』
モチーフはホウセンカという花から来ている。
ホウセンカは、朽ちた後、次の種を残すため、その種を遠くまで飛ばす特性を持っている。
種が入った実が弾け、一メートル先まで種を飛ばすため、この術では、その種を飛ばすという点に重きを置いている。
言わば、この術は簡単に言えば『強力な散弾銃』。
「術で咲かせたホウセンカの実は、ちょっとした刺激にすら過剰に反応する。」
例えば、強い妖怪の妖力とか。
「それを周囲に群生させることで、妖力に反応したホウセンカの実が一斉に弾け、発砲射撃。」
僕自身の妖力を込めたその実は、妖怪にとってはほぼ機関銃にも等しい威力を持つ。
「そして、周囲に一斉発砲を促しているので、煙や埃が巻き上がるのは当たり前。視界を奪い、隙を突いて移動。」
視界を奪っているから、仲間が混乱して動き回る分、誰がどの動きをしてるのか、すぐには分からない。
故に、僕が移動してる間、どこにいるか分からなくなった。
「うふふ、戦闘経験はあれど、やはり格下は格下。ベルターに雇われた私兵など、この程度か。」
うふふ、うふふ。
酷く高揚してるのが分かる。
もうすぐ、あと少し。
あと少しでベルターの首に、この手が届く…!
この場にいる五人、そして次はセツナ。
果てはベルター。
あの男さえ殺せば、“僕は…!!”
「……、ぼく…?」
あ、れ……違う…、ベルターを殺すのは、僕のためじゃない。
ユキちゃんを、守るためだったはず……、なんで今、僕って……。
「なに、考えてたっけ……?」
何、言おうとしたんだ、今…。
「アラクは?」
「あじゃっぱー…首折られてら、殺られてるね。」
「!」
ハッとして、今はそれどころじゃなかったと正気に戻る。
もう殺し合いの最中なのに、敵の接近を許してた。
「勿体ねぇ…いい女だったのに。」
とはいえ。
近付いてきたのは、二人。
さっきの鬼術を使ったお陰で、何人かは巻き添えで身動きが取れない位置に、攻撃を当てられていたようだ。
近付いて来た一人はエンラ。
ただ被弾はしていたようで、右肘から下がなく、ポタポタと鮮血を滴らせている。
二人目は、さっき僕の顔を溶かした爆発の術を持ってる妖怪だった。
「…あと一人は……逃げたのかな。」
そう言えば、攻撃が当たる直前、エンラの隣にいた男が頭を低くして攻撃を避け、その間、何か術を発動させていた気がする。
僕の気のせいならいいけど、今この場にいない時点で、被弾したのかな。
「他の奴らも…もう手遅れか。三本角やべぇ〜、チートかよぉ。」
「…すまない。」
「バハハハ!らしくねー。気にすんなよ、仕事だ。」
もうこの時点で勝機は無いと確信したのか、二人は顔を見合せている。
そして、前に出て来たのは二人目の男。
爆発に関する術を使う男だ。
「九分九厘、君は死ぬ。今までありがとう。楽しかった。」
「おう!居心地良かったぜ。行けよ、エンラ。早くセツナ達に、この事伝えに行かねえとな。」
「爆…」
引き止めそうになる声を噤むエンラだったが、すぐに踵を返し、僕がいる場所とは、反対方向へ煙となって飛び去って行こうとする。
当然、逃がさないよう、僕は追いかけようとするワケだが……。
「逃がさねえよ、鬼子チャン!!」
ボムッ!!とさっきとは威力の桁が段違いの爆発が、顔目掛けて飛んでくる。
だが、術が発動している箇所は、恐らく手から。
それ以外の場所からは、多分爆破の術は使えないようで、蹴りや身体での攻撃で爆発が起こる、なんてことはないらしい。
なれば解決法は簡単。
もう一度攻撃を受けて、腕をへし折ってしまえばいい。
だって顔が溶けても、僕は鬼の半妖。
痛みはあるけれど、何度だって再生することが出来る。
「まあ、つまり、貴方に僕を殺せるほどの威力は出せない。」
ベキベキベキ…ッ!
飛んできた片方の拳を顔に受け、半分溶けた顔でその腕をへし折った。
「へっ…!、化け物が…ッ!!」
金で雇われてるとはいえ、最終的には、ユキちゃんの殺害を助長させしようとしてる連中が何を今更。
「化け物なのは、貴方達もでしょう?」
もう一本の腕も容易く引きちぎりながら、僕は冷淡な声で呟く。
「貴方達が仲間と楽しく生きたかったように、僕もユキちゃんと生きたかった。」
ペッ、と両の腕を放り投げ、攻撃手段を無くした妖怪を見やる。
彼はその場に膝を着き、項垂れた様子だったが、すぐに僕の肩に噛み付こうとしてくる。
「そうか、なら道連れだ。」
「嫌です、潔くそのまま死んでください。」
「!!」
「『鬼術 火山花(かざんばな)』」
彼が噛み付く寸前、鬼術を発動しておいた。
それも、火属性の敵に有効なヤツ。
彼が今巻き添えを狙って噛み付いたのは、ゆらゆらと赤い炎で燃えている低木。
モチーフはバンクシア。
元々は山火事を利用して繁殖する植物で、鋸歯状の葉を持っている庭木の一種。
そして、バンクシアは元より大量の蜜を生成する特性を持ち、種は山火事の熱が刺激となって周囲に弾け飛ぶ。
この術における特性は、低木中央の穂状花序に蓄えられた蜜が妖力に反応し、爆発を手助けするガソリンになるということ。
何度も言うが、相手は爆発を術とする妖怪で、実力のある粒という事実に変わりはない。
「貴方がソレに噛み付いた時点で、着火剤は巻かれた。貴方が自爆しようがしまいが、爆発オチは変わりませんよ。」
彼にはもう用は無い。
視界を逃げて行ったエンラに移し、背後の大爆発を背に、僕はエンラの後を追うべく、もうひとつの“術”を発動するのだった。
■■
さて、__がエンラを追うべく動いている同時刻。
「もう一度言う。『__』について、知ってることを全て答えろ。」
ヒューヒューと、危ない呼吸が自らの口が漏れている。
視界は自分の鮮血で赤く、目の前には、自らを阻んで通してくれない二人の敵。
なぜこうなったのか。
他人事のように、安倍晴華は頭の片隅で回想していた。
__と別れたホテルにて、また何かをやらかそうとしている彼を追うべく、手の甲に乗せた式神を発動させていた。
追いかけるうち、佐敦駅まで姿を確認出来たは良いものの、混乱する人混みのせいで、晴華は肝心の__を見失ってしまったのだ。
やれやれ、お転婆なんだからと言うには、流石に流暢にもしてられない。
視界から消えた時点で、早く追わねばマズイ。
彼に貼り付けた式神に従い、道を右左と突き進んで行けば、いつの間にやら地下鉄まで降りてきてしまった。
そして、ようやっと式神がここだと教えてくれた先まで辿り着けば、待っていたのは謎の男二人。
「(しかも妖怪と…あと一人はなんだ…?)」
ン?と違和感を感じ、走る速度を落とす晴華。
どれだけ辺りを見渡しても、__の姿はなく、式神は二人の男を指している。
「あれ?」
男達に近付きながら、晴華は僅かに首を傾げた。
そして、晴華に気付いた男達も、なんだコイツ?と言いたげに彼を見やる。
「おかしいーなー、__ちゃん以外の妖怪を指し示すようにした覚えないのにー。」
んー?と更に首を傾げながら、晴華はふと気付く。
二人のうち、妖怪だと思わしき筋肉隆々の大男の方。
ソイツの足元に、ヒラヒラと小さな何かがなびいている。
「ん?、なんだコレ?」
晴華の視線に気付いた男が、足元を確認すれば、穿いていたジーンズから、スルリと晴華の元へ戻ろうとする式神が姿を現した。
瞬間、晴華はメモ代わりにしては露骨過ぎたかと察した。
「うーーわ。まただよぉ、まぁた誑かされたーー。」
晴華本人が__を見失った時点で、ずっと囮を追わされていたのだ。
「最近勝てたと思ったら、どーしていつもこーなるかなぁー。やられたねー。」
晴華自身、この事態を予想してなかった訳じゃない。
滞在期間中、__の泊まるホテルにて、彼に適当な理由を付けて、抱擁しようとした時に式神を背中に貼り付けるつもりだった。
だが、その事を勘ぐられてか、ひらりと交わされてしまった上、この後の展開で、むしろもっと__の沼にハマる事態に。
何をしても、結局は最後、__に一枚上手に回られてしまうため、騙されることも薄々予期はしていた。
なので、この際失敗はいい、それはそれとして__を追いかけなくては。
「__ちゃんを地下で見失ってからそう時間は経ってない。今から追いかければまだ……」
「__、と言ったか?」
……日本語?
ふと、晴華は違和感を抱く。
声を出したのは、デカイ方じゃない。
黒い髪をした、細身な体付きのもう一人だった。
「__は香港に来ているのか…?お前は__の仲間か?、それ、式神だよな?」
カツ、と音を立てて細身の男が前に出てくる。
何か並々ならぬ執念でも抱いているのか、男は酷く憤りを覚えている様子だ。
「陰陽師のよく使う術式だ、陰陽師ィ……セツナの綺麗な身体に“呪紋”を刻んだァ、陰陽師いぃぃ…ッ!!」
「…!」
呪紋を、“刻んだ”?
陰陽師が……?
『少し前、継承戦の関係者の中で、僕に接触を図ってきた子がいたの。』
『その子も、兄弟の中の一人ー?』
『そう。それでね、その子に付き従ってる専属妖怪の子が一人いたんだけど、…体に刻まれたモノが、安倍くんの体にある呪紋と酷似しててね。』
不意に、晴華の頭に過ぎる__との会話。
__の話では、継承戦に際して、継承権のある人間に、専属妖怪として加わっていた一人の妖怪がいたはず。
そして、その妖怪には、晴華と似たような呪紋が刻まれていたと話を聞かされていた。
ということは……。
コイツの言うセツナという妖怪が、__に接触してきた専属妖怪の一人なのか?
「答えろ、陰陽師。__とは何者だ?」
晴華は一度その場で立ち止まり、視線を彷徨わせる。
こちらも目の前の男に、聞きたいことが出来てしまった。
だが、それが聞きたいとなると、必然、晴華は__について話すことになる。
話せば長くなるし、__を追っているのに、そこまで時間を割いてられない。
「……、……、あーー、ごめん無理、急いでる。てゆーか、君、誰…………ッ!!」
質問に対して、晴華が答えられないと分かるや否や、男は突然、懐に納めていた刀を引き抜いた。
しかも、えらく早い。
抜刀に特化した攻撃方法を持つのか、晴華が避けきる頃には、男は刀を鞘に納めていた。
「氷…」
学ランに張り付いた冷たい固形物を見て、晴華はやはり妖怪の類いなのかと、細身の男を勘ぐっていた。
明らかに刀の攻撃から発生した冷気、軽く顔や手にまで被弾したような気がする。
「頼んでいるのではない。『答えろ』と命じたんだ。逆らうのなら、ーー端から順に落としていく。」
「…………。」
おもむろに、自らの左手を見れば、薬指と小指が欠けている。
肝心の落とされた指は、地面へ転がり、傷口は氷で覆われていた。
「痛みに気が付かなかったのはそういうことー。」
氷のせいで、その部分だけ血流が止まり、痛みすら感知出来なくなっていた。
痛みを感じれないとなると、重傷を負った時、引くか前に出るかの判断力が鈍る。
取り返しのつかない選択をしてしまう可能性が高まるワケだが。
「あー…便乗してるみたいでなんだけどよぉ。『__』がこっち来てんならぁ、ベルターの護衛を任されてる俺ら的にも、興味シンシンだなぁ♡」
そして、向こうは一人でなく二人。
氷の抜刀術を使う謎の男と、未だ何の技を使うのか未知数の男。
妖縛帯をクルクルと欠けた指に巻き付けながら、晴華は臨戦態勢を取る。
「これ、アレだよねー?、ハメられたって事だよねー?あの性悪妖怪ー。」
小学生のような恨み言を吐けど、現実は変わらない。
行く手を阻むなら、現状、肉体言語で退かすのみ。
それに、抜刀術を使う男に関しては、晴華にとって知りたい情報を持ち得ている可能性がある。
少々時間は食うが、無駄な戦いにはならないだろう。
「捕まえたら覚えてろよー、__ちゃんめー。」
目の前の敵を前に、晴華は腰を低く落とし、次の攻撃に備えるのだった。
