はぐれ巫女の鬼子
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「珍しいな、__が俺より遅く登校してくるなんて。」
あの後、結局学校に着いたのは時間ギリギリ。
席に着けたは良いものの、隣の河野くんに不思議がられて、僕は曖昧に笑ってその場を濁す。
「…あのさ、もしアイツのせいとかなら言えよ?、話聞くからさ……。」
「へ?、あ、ああ、大丈夫大丈夫、たまたま登校時間が被っただけだよ。」
安倍くんをちらりと見た後、河野くんがそう呟くので、僕は慌ててそんなんじゃないと否定する。
一緒に登校して、安倍くんと教室に入ってきたので、何かあると思われたようだ。
「ならいいけどさー、なんかあったら言えよ?、アイツ、妙にお前に突っかかって来てるからさ……。」
「うん、ありがとね、河野くん。」
凄い光属性だな、河野くん…、いい子だ…。
裏表がないから、三平ちゃんのこともあった分、どうにも癒されてしまう。
そんなちょっとした癒しも束の間、朝のチャイムが鳴り、一時間目は数学の時間。
数学は先日の小テストの返却から始まり、僕も河野くんも赤点はギリギリ回避。
安倍くんは満点だった。
なんでだよ、この間も休んでたのに、やっぱり良い家の子は、頭の出来が最初から違うのか?
悶々とどうでもいいことを考えながら、順調に授業を終えてお昼休み。
「__〜、一緒に飯食おうぜ〜って、いない?!」
「__ならさっき転校生と教室出てったぞ〜、仲良いよな、アイツら〜。」
「ええ、速ッ!目を離した隙にもういない!!」
弁当を持って立っている河野くんの声を背中で聞きながら、僕は昼休みを迎えた途端、安倍くんに手を引かれて教室を出ていた。
「…君って、結構ヤキモチ妬きなの?」
「お餅は好きだよー、だからかもねー。」
と、ふざけながらもヤキモチを妬いたことには、否定を入れない安倍くん。
「いや、話すくらい許してよ…」
そもそも付き合ってもないのに……、
「君ってすぐ人を誑かすからねー、見てないと危なっかしいよー。」
「人聞きが悪いな…そう言う君だって、女の子から密かにモテてるの知ってる?河野くんが言ってたよ。」
「ンー?僕がー?」
本人は自覚ないかもしれないけど、安倍くんは顔立ちの整った美少年系の男の子だ。
大きな赤い瞳に、整った鼻筋と薄い唇。
地毛では珍しい銀髪の髪と、その白い肌は見るからに触り心地が良さそうで。
その上、身長もクラス内じゃ大きい方だし、学ランから伸びたスラッとした長い足が、余計に彼を引き立てる。
意外にもウエストは細めで、しっかりとした筋肉に覆われた体をしてるから、女の子からしてみれば、魅力的な体付きをしてるんだろう。
彼の事を知らない、他クラスの女の子や、同クラスの女の子もそう。
密かに彼をカッコイイと思う女の子がいるのだ。
「なんで君がモテるのか不思議がってたよ、河野くん。」
河野くん情報によれば、近いうちに、告白してくる女の子が現れるかもとのこと。
女の子が安倍くん宛てに、手紙を書いてるのを見たと目撃情報があったらしい。
「心配しなくても僕は__ちゃん一筋だよー、こう見えて結構一途なんですよー。」
「一途な人は、自分のことを一途って言ったりしないんだよ、安倍くん。」
「また安倍くんって呼んでるー、いい加減晴華くんって呼んでよー、記号で呼ばれるの嫌なんだってー。」
何となく気になっていたが、苗字が記号ってどういうことだ?
どうでもいいことなんだろうが、個体識別番号って言うのもなんか気になる…。
「…て言うか、晴華くん、今どこに向かおうとしてるの?」
安倍くんが向かった先は、いつぞやに行った、ほぼ使われてない第三化学準備室。
お昼ご飯を食べる為だけに、まさかこんな遠くまで来た訳ではあるまい…。
「んー、悪い所。」
「……つまり?」
「午後の授業サボっちゃう魂胆ですー。」
「…サボりはダメだよ。何しようとしてるのさ。」
ちょっとねー。と安倍くんは詳細を説明しないまま、準備室に入るよう促してくる。
「それでねー、朝のこと覚えてるー?」
「朝のこと?」
バタン、と準備室のドアを閉めて、もれなく鍵もかける安倍くん。
「__ちゃん、知られたくない事があるクセに、強く突き放さなかったでしょー。」
「いや、…強く突き放した所で、結局割り込んでくるつもりだっただろうに……」
元から監視という名目で、執念深く絡んでくるのは安倍くんの方だろう。
そこで僕が何を企てたいのか知りたいと同時に、僕に対して異性に抱く興味を抱いていることは確かなのかもしれないけれど。
「それはそうなんだけどねー。されどこっちとしては、拒絶されずに弄ばれて今、宙ぶらりんになってるんですよー。」
「はぁ…?」
そう言うと同時に、彼は件の妖縛帯なるお祓い道具を手にぐるぐると巻き付けている。
「幼気な少年を誑かす魔性ちゃんに、ちょっと噛み付いてやろうと思ってー。」
「……何する気。」
て言うか幼気ってなんだよ、お前みたいな幼気な少年いねえよ!
「前とは違って殺す気はないよー。でも、君がやろうとしてる事は吐いてもらうつもりー。」
「……。」
単純な取っ組み合いによる交渉かよ……。
僕が負けたら、何をしようとしてるのか吐かせる気でいるらしく、律儀に人が入って来れないよう御札まで貼り始めてる。
「あの時、ちゃんとぶっ飛ばしてくれたらねー、自分で調べよーってなったんだけどー。」
「何さ……」
壁やドア、窓に御札を張り巡らせながら安倍くんは呟く。
こちらに背を向けているので、安倍くんが今どんな顔をしているのかは分からない。
「あんな脈アリな反応されたら、諦めきれないよー。その顔で河野くんなんかと仲良くされたら、翻弄されちゃうのも仕方ないよねー。」
「君が諦め悪いだけでしょ…、僕何もしてないもん…。」
「何にもしないからダメなんだよ。八方美人は勘違いの元だよー。特に僕みたいなのにはねー。」
「……。」
大変不服だ。
八方美人でいるつもりなんかないし、僕自身、仲良くしている人にしか、善意を返さない。
なんで、安倍くんの感じてることを僕のせいにされなきゃならないんだと怪訝な顔になる。
「仮にさ、もし僕が吐いたとして、君どうするの?」
「元となる根源を潰して、全部終わらせたいねー。でも、そうじゃないんでしょー?強い結界に、継承戦と言う、デカそうな規模。もっと根底に、何かが絡みついてる。」
「ふぅん…。」
「信用ないなー。信じてませんって顔してるー。」
まあ、正直。
信用に値する段階ではないと思ってる。
向こうもそれが分かってるから、得意の肉体言語でどうにかこうにかしようとしてるんだ。
「身体強化の呪紋は組ませてもらうけど、前みたいに姑息な手段は使ったりしないよー。完全な肉体だけの取っ組み合いー。」
動きやすくするためか、はたまたこれ以上の仕掛けがないことをアピールしたいのか。
学ランを脱いで、白シャツと制服ズボンのみになる安倍くん。
学ランはそこら辺の棚に引っ掛けるつもりらしく、白シャツから、安倍くんの背中が少し透けていた。
「……ん…?」
だが、そこでふと気付く。
シャツからチラリと透けて覗いた、安倍くんの背中に刻まれている身体強化の呪紋らしきもの。
あれ…、どこかで見たことがある気がする……。
どこだっけ…?
「……あの、安倍くん、」
「ンー?」
「これ、脱いで欲しいんだけど……」
途端、沈黙が二人を支配する。
えっ、ダメだったか?と__が困惑していると、
「僕、そういうつもりじゃないんだけどなー。」
と、ポリポリ頬をかく晴華。
「…何が?」
「大胆過ぎるよー、__ちゃん。いくら不可視と、消音と、退魔の札貼ってるからって、学校でなんて、不純異性交友だよー。」
「……。」
なんか勘違いされてるようだし、多分僕の言い方が悪かったんだろう。
「…いや、後でいいや……。」
突っ込むのが面倒臭いので、やっぱり後で良いと、僕は晴華くんから少し離れて、構えの姿勢を取る。
「じゃあ、お願いします。」
一応、いつでもいいと言う合図でそう呟けば、晴華くんも妖縛帯の調子を軽く確かめた後、同様に構えた。
お互いに数秒間、視線を合わせる。
踏み出したのは、ほぼ同時。
準備運動代わりに、妖縛帯側の拳が、僕の顔目掛けてストレートに飛んでくる。
顔を逸らして拳を避けると、飛んできた腕を掴んで、技を決めようとするが、その前に体ごと回されて回避された。
勢いはそのまま衰えず、飛びかかってくる晴華くん。
首に足を回され、絞められそうになるが、シャツを引っ掴んで床に叩き付ける。
しかし、これも叩き付ける前に蹴りを入れられ、体幹を崩されて回避された。
「……」
率直に、やっぱり強いなぁ…と思う。
ここまでの数十秒間で、明らかに体術の完成度が予想以上。
前に戦ったベリコちゃんみたいに、修行中です!みたいな真新しさがどこにもない。
戦闘の経験値がレベチ過ぎる。
「怖いねー、__ちゃん。掴まれてからの攻撃の速さが他とは桁違いだよー。」
「いや、避けられてるじゃん…」
「まあねー、__ちゃんが好きだから、こう来るだろうなーって言うのが何となく分かるんだよー。」
「なんじゃそれっ!」
よく分からん、惚気のつもりか。
いつも思うけど、おふざけなのか、本気なのかどっちなんだ、その発言は。
言い終わった途端すぐに攻撃してくるし、余計分からなくなった。
今度は体術に加えて、妖縛帯での捕縛。
足場を崩して確実に仕留めるつもりらしく、術が入った紙の帯が視界を占領してくる。
この場合やってはいけないのが、空中に飛び上がって回避すること。
一瞬でも体が浮いた瞬間、妖縛帯に捉えられて終わりだ。
「…ねえ、安倍くん」
「ンー?」
お互い、防御と攻撃の手を緩めることなく、会話を始める僕達。
「その、聞きたいことがあるんだけど、」
「なぁにー?」
妖縛帯が僕の足を捉えれば、逆に捉えられた足を引いて、安倍くんの体幹を崩し、緩んだ隙に抜け出す。
腕を捉えれば、腰を落として綱引きみたく妖縛帯を引っ張って、安倍くんを放り投げた。
「背中に入ってる呪紋って、どうやって入れたの?」
「どうしてそんな事聞くのー?」
それでも素早く準備室の備品に妖縛帯を引っ掛け、攻撃を入れる前に床に着地される。
一度、間合いを取るために、動きが静止する僕達。
「……安倍くん以外にも入ってる子、見たことあるの。」
戦っている内に、安倍くんとベリコちゃんの比較で思い出したことがある。
安倍くんの呪紋と、ベリコちゃんに刻まれていた呪紋のようなものが、酷似している。
まるで陰陽師からが、発祥だと言わんばかりに。
「同業者の子だったんじゃないのー?、序列の高い陰陽師にはほとんど入ってるよ、この呪紋ー。」
自分より強い相手と肉体で戦うなら、バフは必須でしょー?と首を傾げる安倍くん。
「……そう、なのかな。」
だとするなら、ベリコちゃんの体に入っていたあの呪紋って、ハリスさんが入れたものなんだろうか……?
話し合いの時、コニアくんが、彼女は出自を辿れば陰陽師の生まれだと言っていた。
あくまで仮説だけれど……。
安倍くんの言うように、序列の高い陰陽師であれば、妖怪に呪紋を入れられる人も、存在するのかも…?
「余所見しないでー、集中してー。」
「へ、うわぁ!」
考えていたら、いつの間にか妖縛帯で足を引っ掛けられ、空中に投げ飛ばされる。
ヤバい、つい考え事してた…っ!
「空中に浮いたら逃げ場ないよー、ほら、頑張ってー。」
「ふぐぅ…っ」
浮いた瞬間、ここぞとばかりに安倍くんは拳による攻撃を仕掛けてくる。
くっそ、やるからには公私混同しない真面目くんだから、タチが悪いぞ…!
「酷いことする気はないけど、一旦ぶん投げるね。」
地に足が着いた状態の安倍くんに、ガシッと胸ぐらを掴まれた。
しかも、妖縛帯で手足が封じられてるから、身動きも取れない。
「くぅ…!」
負けた。
背中から思いっきり床に叩き付けられ、一瞬、息が吸えなくなる。
ダイレクトな衝撃に、カヒュッと喉が鳴り、すぐには動けないことを悟った。
実戦の状況でこれに陥ったら、まず間違いなく死んでいただろう。
「はい、僕の勝ちー。約束通り、洗いざらい吐いてもらおうかなー。」
「んぬぅ……」
イタタタ……と床に寝転がったまま、唸り声をあげる僕。
やっぱ実戦経験って大事…、こうして執念深く隙を狙って、すぐに攻撃出来る術を持ってるヤツは強い。
「可愛い顔してもダメー。教えてよ、ほらー。」
「そんな顔してないし…っ」
「してるよー、この魔性妖怪めー。」
どんな顔だよ。
安倍くんの恋の琴線がまるで分からないまま、彼に助け起こされ、壁に凭れる形で座らされた。
そして、当然と言わんばかりに、安倍くんも隣に座ってくる。
相変わらず近いな……。
「弄んで、はぐらかしてばっかだと、いつかやり返されるよー?飴と鞭は程よく使わなきゃー。」
「………じゃあ、飴ちゃんあげる。」
「んー?……ッ!」
弄んでるつもりもないし、誑かしてるつもりもない。
でも、彼がそう言うなら、こちらもヤケクソでそれに乗ってやる。
負けた悔しさも相まってか、僕は安倍くんの白いシャツに手を掛け、ボタンをプチプチと外し始めた。
しかし、ボタンが三つ目に来た所で、パシッと両手を掴まれ、
「……本気なの?」
と、一言。
「…負けたのは事実だし、全部話すよ。ただちょっと、先にやりたいことがあるから。」
「…ダメだよー、ここ学校だよー?」
「その割には強く拒否して来ないね。それで縛ることも出来るのに、なんでやらないの?」
妖縛帯を指し示しながらそう呟けば、ギュッと両手を強く握ってくる安倍くん。
「うわ、痛い所突くねー。酷いなー、僕、半妖に犯されちゃうんだー。せっかく負かしたのに、結局弄ばれちゃうんだー。」
「犯さないよっ、良いから脱いで!」
「言動と行動が一致してないよー。止めてー、シャツを脱がさないでー。」
棒読みで、イヤン♡みたいな発言すな!
ぷりぷり怒りながら、安倍くんのシャツを脱がせて、背中を向けてもらう。
逞しい背中には、大きな陰陽師の呪紋が入っていて、恐らくだが、彼の呪紋は桃の花がモチーフだろう。
「これが身体強化の呪紋……桃の花かな、綺麗だね。」
ぺたぺたと安倍くんの呪紋に触れながらそう呟く。
「そんな事言われたの、生まれて初めてだよー、しかも半妖の子にー。」
「そりゃ悪かったね……この呪紋、陰陽師には皆入ってるの?」
「いやー?基本的には、位の高い陰陽師だけー。大体の主観だけど、“はの行”からは、呪紋が入ってる人達、極端に少なくなるかなー。」
「そう…。」
確か、ハリスさんは、元陰陽師で、『針須倍』と言う名前の人だった。
だとすると、あの人には呪紋が入っていないのかな…?
いやでも、それだとベリコちゃんの呪紋に説明が付かない……。
ヤバいな、謎が謎を呼んで、訳が分からなくなってきた。
「ん゛ー…」
「急に唸ってどうしたのー?、まだ納得いかないなら、もう一戦やるー?」
妖縛帯をヒラヒラさせながら、僕、全然いけるよー?とそう言ってくるので、丁重にお断りさせて頂いた。
「やらない。ちゃんと話すよ、ほらシャツ返すから、先に着替えて。」
「もういいのー?」
「……触って欲しいの?」
ぺたぺたと体を触るようなジェスチャーをすれば、「__ちゃんのえっち、この助平妖怪ー。」と、シャツを着始める安倍くん。
「じゃあ話してもらおうかなー、君が言ってる、妹ちゃんの継承戦のことについてー。」
ほぼゼロ距離で、隣に座り直す安倍くんに、僕は呆れ混じりに口を開いた。
「…元々はね、ユキちゃんの母親が、水商売をしていた時に取った客の中に紛れてたんだよね。継承戦が出来るレベルの財産を持つ父親が。」
「やっぱり、父親の正体知ってたんだねー。」
「うん。ユキちゃんの父親は、中国を拠点とする大規模なマフィアのボス。そのボスが、今危篤状態だから、財産分与の話があったみたいなの。」
その財産分与の中には、腹違いの兄弟達の他に、ユキちゃんの名前も存在していた。
果たしてそれが、どういう意図を持っていたのか、僕には未だに分からないけれど。
「今回勃発してる継承戦は、いわゆる自分の取り分を大きくするための間引き合戦。莫大な資産を取り合って、裏で兄弟同士殺し合ってるの。関係のなかった妖怪すら巻き込んでね。」
「……。」
今起こっている出来事が、人間の企てた自体だと話すと、安倍くんは複雑そうに口を引き結んでいる。
ここまで話せば、家に強力な結界を張ったり、ユキちゃんに祓いのお守りを持たせたり、あれこれしてたのにも理解が及ぶだろう。
「ユキちゃんは被害者だよ、こんな勝手な事で命を狙われて、血で血を洗う戦争の関係者になっちゃった。それについて、重荷を背負わせたくないの。」
だからこそ、関係のない人間を巻き込みたくないし、この事を安倍くんに話すつもりもなかった。
「…国を跨いで、海の向こうの話になるとスケールがあまりにも違い過ぎる。君にはちゃんと話したけど、この事は絶対に、他言無用にして。外に漏れたら、大量の血が流れることになる。」
「んー、__ちゃん、もう一つ聞いていいー?」
「何?」
「さっき、僕の呪紋を見たり触ったりしてたよねー?あれって何か関係あるのー?」
その事についても、次に話すつもりでいた。
「少し前、継承戦の関係者の中で、僕に接触を図ってきた子がいたの。」
「その子も、兄弟の中の一人ー?」
「そう。それでね、その子に付き従ってる専属妖怪の子が一人いたんだけど、…体に刻まれたモノが、安倍くんの体にある呪紋と酷似しててね。」
「!」
僕が冷静にそう呟くと、安倍くんは少し目を見開いた様子でこちらを見つめている。
「ひょっとしたら、君の所の関係者が絡んでるんじゃないかと思ったの。」
「本当に、呪紋だったのー?」
「安倍くんみたいな桃の花の模様じゃなかったけど、それでも形は同じだったよ。」
見間違いでは、ないと思う。
ハッキリと安倍くんにそう言うと、何か思う所があるのか思案し始めた。
「僕の勘違いなら良いんだけどねー、__ちゃん、もしかして、香港に行く腹積もりじゃないよねー?」
「!、え、いや、なんで……」
分かりやすく反応してしまった僕に、安倍くんは「あー、やっぱりー?」と、分かっていたような口調で呟く。
「ちょうどねー、本部の方で、結構な人数の陰陽師が妖怪退治の名目で、香港へ遠征に行ったんだよねー。なぜか本来の管轄が全員違う上に、共通点は、御当主様と何か計画しているってことだけー。」
それが妖怪退治における大規模な計画とかなら良かったんだけどー。と、安倍くんは話を続ける。
「君の話を聞いて、疑念が湧いた。今の話が本当なら、陰陽師達が香港で何をしようとしてるのか、凄く気になるねー。」
彼の所も、何かきな臭い流れが来ている。
元々怪しかった面子がいるらしく、把握しているだけでも、彼の父親である現当主を含めて軽く数百人規模。
安倍くんは僕の話を聞くまで、妖怪退治のための遠征だと思っていたようだ。
だが、僕の話と、陰陽師達の遠征で、何かが引っかかった。
「…あの、安倍くん」
しかし、それを踏まえた上で聞きたいことがある。
「なにー?」
「まさかとは思うけど、その…着いてくるつもりじゃないよね?」
嫌な沈黙が降りる。
そうして、数週間後。
飛行機の中。
「…デスヨネー」
話した時点で、なんか起こるとは思ってた。
その結果がこれだっただけ。
「何がー?」
「いや何でも……」
安倍くんの事は、コニアくんには知らせてない。
コニアくんは戦闘の準備を整えるために、先に香港に向かっている。
準備が出来次第、飛行機の搭乗券を送るとの事だったので、香港に着いてから連絡を取り合う手筈になっていた。
安倍くんは安倍くんで、家が金持ちと言うこともあってか、すぐに香港行きのチケットは手に入れられたらしく、こうして着いて来ている訳だ。
そしてもうひとつ、僕は安倍くんに伝えていないことがある。
「……。」
表向き、僕は彼に、ユキちゃんを継承戦に巻き込まないよう、元凶となったベルター・ルーと言う男に話を付けに行く腹積もりだと伝えてある。
決して、“殺しに行く”とは伝えていない。
今まではユキちゃんを守るための犠牲を払う上で、向こうから仕掛けてきた殺し合いに、仕方なく乗じている状態だった。
だが、今回に関しては明確な計画と殺意を持って、こちらから殺しに行く。
自発的に妖怪が人間を殺しに行く時点で、陰陽師からしてみればアウトだ。
安倍くん自身は、勘が鋭く、大雑把に僕がしようとしてる事も把握している。
薄々分かっていそうだが、陰陽師が関わっている以上、敢えて何も言わないのかも知れない。
飛行機が香港に近付くにつれて、並々ならぬ何かを感じながら、僕はぎゅっと拳を握るのだった。
