はぐれ巫女の鬼子
夢小説設定
ご利用の端末、あるいはブラウザ設定では夢小説機能をご利用になることができません。
古いスマートフォン端末や、一部ブラウザのプライベートブラウジング機能をご利用の際は、機能に制限が掛かることがございます。
“いつか、妖怪と人間が共生出来るようになればいいね。”
それが母と、父の口癖みたいなもので、僕の母は人間で、父は鬼の妖だった。
僕は、人と鬼の間に生まれた子供。
かつて、母は、巫女さんで、凄く強い力を持ってた。
元々、母の家が、強い浄化の力を持つ家で、例に漏れず、母もとても強い巫女の力を持ってる。
でも、ある時、浄化の対象である妖、『鬼』と恋に落ちた。
鬼は不器用で優しい男だった。
禁断の恋だったらしい。
それでも、二人慎ましやかに、穏やかに生きて行けたら、と人生を共に歩み、小さな幸せと共に、僕が生まれ、さあこれからって時に、__父は殺された。
他殺だったようなのだ。
何者かに、首を刈り取られ、晒し者にするかのように、 鬼の証である額から生えていた角が折られ、血の海に溺れていた。
どうして殺されたのか、なぜ死なねばならなかったのか。
分からないし、その当時、僕はまだ小さな子供。
母は父をとても愛してた。
だから、父が死んでしまったその苦しみに耐えきれず、長く長く苦しんだ末に、自殺してしまった。
僕が十四歳の時だった。
不幸は続くもので、母が死んだその後、何か良からぬものが動き始めたようなのだ。
母が死んですぐ、母の妹、つまり、僕の叔母に当たる人の娘さんが、僕の家を訪ねてきた。
僕の家は、街から少し外れた小さな神社で、厄祓いを主に請け負っている神社だった。
叔母さんの娘は、ユキと言って、先天性の疾患を抱えている小さな女の子だった。
なぜ、僕の元を訪ねてきたのかと言うと端的に言えば、叔母さんも、何者かによって殺されたから。
叔母さんは、母とは違って、性に奔放的な人で、父親の分からないユキちゃんを生んでから、何かに吸い寄せられるように他殺体となって発見された。
ユキちゃんは身寄りがなく、親戚の家にたらい回しにされそうになっていた所、たまたま僕の家が近くにあると聞いて、駆け込んできたようだ。
もちろん、そんな状態の子を放って置けるはずもない。
何もかも、お互いボロボロ、失うものを失い、全てが一からの過酷なスタートだった。
ユキちゃんと暮らし始めてから、僕はまず散らかり放題な家を清潔に整えることを目指した。
ユキちゃんの疾患は、臓器のいくつかが成人するまでに持たないと言う内容のもの。
だから、下手に興奮させたり、無理をさせると臓器を酷使することに繋がるから、出来るだけユキちゃんには家でゆっくりして貰えるよう、気を付けること。
ホコリひとつなく、身の回りを綺麗にして、清潔な空間を作ることを心がけた。
清潔にすることを念頭に置いて、僕はユキちゃんを養うために、アルバイトも始めた。
全てを自分で賄わなければならない、僕に残してくれた、親の遺産はあるけれど、いつまでもそれに頼って生きていけないのは分かっていた。
学校にも行かなきゃいけないし、学生の醍醐味を疎かにしてはいけない。
やらなきゃならないことは山積みだ。
足りないものの方が多かったけど、ユキちゃんはそれを不便だなんて微塵も思ってないようで。
ユキちゃんは、足りない僕を選んでくれたから。
大事に、大事にしていけたらなって、そう思ってる。
「ねーえー、お兄ちゃん、ご飯まだー?」
「ちょっと待ってね、すぐに出来るよ。」
その日の夕飯は肉じゃが。
お金に余裕があったから、お肉をユキちゃんに食べさせてあげたくて、奮発しちゃった。
ふんふん鼻歌を歌いながら、お鍋をぐるぐるとかき混ぜていると、
「お兄ちゃんさ、お姉ちゃんみたいだよね。その格好とか、お化粧とかさー、いいなぁー、ユキもしてみたい!」
と、そんな声が。
えっ?と振り向くと、ニヤニヤ顔のユキちゃんが背後に立っていた。
「お兄ちゃん、本当は女の子なんじゃないの?」
「そうは言われても…僕は、性別も戸籍も男だからねえ…。」
困ったように頬をポリポリと掻くも、ユキちゃんのニヤニヤ顔は止まらず。
確かに、僕はどちらかと言うと、父より母に憧れを抱いてたタイプ。
だから、装いも、母の着ていた巫女服を『動きやすく』仕立て直して、アレンジしてある。
現代風にアレンジしてるから、巫女服が上下にパックリ別れてて、へそが出る装いになってる。
下は赤い袴で、外に出る時は草履を履く形だけど、ユキちゃんには、それが巫女風のコスプレみたいに見えるみたい。
実際、そう言われても仕方ないんだけど、一応、そういう風にアレンジした理由はある。
お化粧に関しては…、まあ、うん、趣味です、はい。
赤い紅を瞳と唇に引いて、薄く粉を顔に叩いてる。
髪も、家にいる時は長いし、外に出る時は短く出来る術を僕は持ってるので、それを活用して、普段は過ごしてる。
さて、そんな僕をからかってか、ニヤニヤ顔のユキちゃんをどう切り抜けようか考えているうち、ピンポン、と家の呼び鈴が鳴った。
呼び鈴が鳴った瞬間、嫌な予感がした。
ユキちゃんをキッチンに残し、鍋の様子を見ててと言って、僕は玄関に向かった。
宅配も頼んでないし、学校から何が来るような連絡も来てない。
さて、となれば。
僕は音を立てないよう、すり足で廊下を歩いていく。
こういうことが、何度かあったんだ、ユキちゃんが来てくれた日から。
向こうの狙いは、多分ユキちゃん。
何でかは分からない。
「はーい、どちら様ですか?」
「!?」
ガラリと引き戸を開けた瞬間、飛んでくる、鋭いナイフ。
それを見切った僕は、巫女服に仕込んでいた五寸釘を相手の首に突き刺し、すぐに相手の口を塞ぐ体勢を取る。
「…まあ物騒、強盗ですか?」
首に刺さった五寸釘は、引き抜けば大出血は免れない。
脅し代わりにそれに手をかけてやれば、相手は信号機のように青い顔をして僕を見てくる。
僕はしーっ、と大きな声を出すなと言う合図と共に、今し方僕を殺そうとした男の口から手を離す。
「色々聞きたいんですけど…まず、貴方は誰ですか?」
男は口を開かない、いや、パクパクしてるから話す気はあるみたいだけど、震えて声が出ないみたい。
と言うか、さすがにここじゃ目立つかと思い、僕はズルズルと男の首を引き摺って、人気のない場所へと移動する。
キチッとそこで、拘束もさせて貰って、改めて、尋問を開始。
「はい、じゃあ続きから。貴方は誰ですか?」
「お、俺、俺は…」
「ああ、勘違いしないで、名前を聞いてるんじゃありません。どうしてユキちゃんを狙っているのか、それを教えて欲しいから、貴方の経歴を聞いてるんです。分かりますか?」
「わ、分かってる…!、話す、話すから、手を、手を退けてくれ…!!」
首に刺さっている五寸釘は、一刻も早く処置を施した上で引き抜かないと、それ即ち死を意味する。
男に残された時間は少ないからこそ、全て話して見逃してもらおうという魂胆なんだろう。
その図太い精神は見習わないと、何か役に立つかも知れない。
僕がそう思っていると、男はひゅーひゅーと危ない呼吸を漏らしながら、ぽつりぽつりと自らの経歴を語り始めた。
男が言うには、自らは、香港を渡ってやって来た『雇われの殺し屋』。
中国の裏社会を牛耳るマフィアのボスが危篤状態で、その命も残り僅か。
だから、そのボスは、生きている内に親族たちへ向けた、自分の遺言書を読み上げたのだ。
自分の財産は、自らの死後、等しく分配される。
その継承権を持つ者の中に、ユキちゃんの名前があったのだと言う。
かつて日本に訪れた際、水商売をしていた母親と、マフィアのボスの子供。
それがユキちゃんだった。
妾とは言え、血を分けた娘だからこそ、温情として財産を渡そうとしたのか…どちらにせよ、今回の件は、遺産の取り分を多くしようとしている輩達による間引き目的だった。
お金がこれからユキちゃんに入ろうとしていたのに、皮肉にも、それがきっかけで命を奪われそうになるなんて。
何ともまあ、向こうも自分本位で、無粋ですこと。
「事情は分かりました。ではもうひとつ、ユキちゃんを殺したことは、もう貴方の依頼主に伝えたのですか?」
「つ、伝えてない……、」
「本当ですか?、では、貴方の他に、ここへまた、襲って来そうなお仲間はいらっしゃいますか?」
「い、いや、今回はガキ一人だと聞いていたから、俺以外は来てない……」
「あら、そうですかぁ。」
「な、なあ、もういいだろ!?見逃してくれよ、今回の件からは手を引く!、もう二度と関わらないって約束するよ!!家族がいるんだ!、お、俺が稼いでやらねえと……!」
「いいえ、貴方にはもう少し利用されて貰います。」
うふふ、と否定の言葉を並べると、男はひ、ひ、と息を荒らげたまま、どうして…!と言いたげな表情を浮かべている。
「死にたくないんでしょ?、人の命を奪おうとしておいて、自分だけ助かろうなんて……、殺すなら、同じようなリスクを犯して貰わないと、割に合いませんから。」
お前に大事な家族がいるように、僕にもユキちゃんと言う守らねばならない存在がいる。
決して、死なせはしないし、痛い思いもさせない。
__君には僕がついてる。
あの日、彼女とそう約束したから。
僕は脳裏に過ぎるユキちゃんの笑顔を想像して、目の前の男にある提案をした。
「ねー、夕方何してたの?お兄ちゃん。」
場面は変わり、自宅にて。
不意にユキちゃんにそう聞かれ、僕はお風呂上がりのユキちゃんの髪を拭いてやりながら、こう呟く。
「んー…変な押し売りが来てたんだよ、なんか、新聞いりませんかって。」
「新聞?ナニソレ?」
「僕も分かんない、最近暑くなってきたから、変な人が多くなる季節なんだよ、ユキちゃんも気を付けなよ。着いてっちゃダメだからね。」
「着いてく訳ないじゃん!!そんな怪しいオッサン!」
キーン!と大声で叫ばれ、ははは……と苦笑を落としながらむすくれるユキちゃんの背中を見て、僕は『あの後』起きた事を思い返していた。
結局、あの男は見逃してやることにした。
もちろん、条件付きで。
自国に帰る時までに、ユキちゃんと似た子を探し出して、殺したように見せ掛け、依頼主に写真付きで送ること。
無論、対策の為に、僕にも送るよう言っておいた。
ユキちゃんと似た子に関しては、殺す必要はない。ただ気絶させた後、殺したように見せかけ、後は何事も無かったように自宅に送り届けること。
その条件を着けて、処置を施したあと、刺さっていた五寸釘は抜いてやった。
男が逃げれば、どちらにせよ依頼主からは良くない反応を貰うだろうし、僕を裏切れば、どこかで報復が待っている。
吉と出るか凶と出るか、ある種、これは賭けであった。
なんと言っても、こんなことが、男が来る前も、結構な回数あったのだ。
その度にユキちゃんに気付かれずに追い返すのにも苦労したし、いい加減対策を考えねばならないと、僕はここいらで動くことにした。
結果、賭けは上手く行った。
その日の深夜、男はわざわざ僕の家までやってきて、一枚の写真をくれた。
ユキちゃんとよく似た風貌の女の子だ。
きちんと誤魔化しが効くよう、ウィッグや、化粧を施して、限りなくユキちゃんと似た少女に仕立てあげた後、血糊を使って、その子を殺害したように見せかけている。
その子に関しては、気絶させた後、一連の流れを終えて、彼女の家の前に置いてきたと報告を受けた。
これで一旦は、ユキちゃんを死んだと見せかけて、追手から暫くは逃れられるだろう。
僕は約束通り、男を逃がしてやった。
裏切るようなことがあれば、必ずお前を殺すと呪詛も付け加えて、ね。
1/11ページ
