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龍楽

 真っ白な白銀の世界で、黒のロングコートを纏い先を歩くのは、雪のように綺麗な白い肌に、月の光を閉じ込めたかのような輝きのある月白色の髪。そして美しすぎるかんばせを携えた、大層麗しい美丈夫だ。
「楽、待って」
「あ、悪ぃ」
 そんな美丈夫を呼び止めたのは、まるで雪のように真っ白な美丈夫と相反し、健康的で美しい褐色の肌に、太陽の輝きを纏ったかのような琥珀色の瞳。そしてこちらも大層端正な顔立ちの伊達男である。
「ごめん、雪を歩くのに慣れてなくて……」
「いいよ。こっちこそ悪かったな。ん、」
 黒革の手袋が着装された大きな手のひらが、褐色の伊達男の前に差し出される。
「……いいの?」
「大丈夫だ、誰もいやしねぇよ」
「……そうだね」
 差し出された手の上に、恐る恐る褐色の伊達男が手を乗せる。すると、そのまま握られた手は真っ白な美丈夫のコートのポケットへと導かれた。
「あったけぇな」
「……そうだね、あったかいね」
 手袋越しなのに、触れ合う指は、手のひらは、先ほどまでとは打って変わり温かだ。
「……引き返すか?」
「まさか。もう、決めただろ?」
「……後悔、してないか?」
「してないよ、大丈夫」
「……わかった」
 たったこれだけの短い会話の後、二人はゆっくりと前をへと歩みを進める。目に映る世界は真っ白で、感じるのは恐ろしいほどの寒さと、それに相反するように互いが触れている箇所の温かさのみである。
 ——この白い世界が、楽にぴったりだと思ったのに
「楽、ごめん」
 突如歩みを止めた褐色の伊達男は、隣を歩く真っ白な美丈夫へと謝罪する。
「……やめるか?」
「うぅん、違う」
「じゃあ、どうした?」
「海にしないか?」
「……海?」
「あぁ、……出来れば、真夏の海に」
「……夏か、随分遠いな」
「二人で過ごせば、きっとあっという間だよ」
「……そうか、そうだな」
「引き返せるかな?」
「……どうだろうな、足跡が消えてたら、難しいかもな」
「その時は、ココ・・で」
「……わかった」
 そして、二人は足跡を頼りにまた歩き出す。
「ねぇ、今日何食べたい?」
「……考えてなかった」
「ふふっ、俺はねぇ、あったかいのがいいなぁ〜。鍋とか……ラーメンとか!」
「あー……ラーメンいいな、豚骨食いたい」
「いいね! 食べいこっか」
 あれだけ先を行く時は静かだったのに、引き返す道のりは、とても賑やかだ。
 あと少し。季節が変わり、その時までは、
「今日、抱いてもいい?」
「……元気だな、本当」
「ふふっ。手繋いだらね、楽の体温、恋しくなった」
「そっか……なぁ、」
「ん?」
「やっぱり、やめるか?」
 先ほどと、同じ言葉を問われてしまう。けれど、返す言葉は決まっていた。
「俺、還るなら海で、楽と一緒がいい」
「……わかった」
 真っ白な美丈夫が、ふ、と優しい笑みをつくる。雪のように可憐なのに、その笑みだけで、褐色の伊達男は心まで温かくなった。
「今日、絶対に抱くから」
「なんの宣言だよ。……さっさと戻るぞ」
「うん」
 ——夏がくるまで、それまでは、
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