このサイトは1ヶ月 (30日) 以上ログインされていません。 サイト管理者の方はこちらからログインすると、この広告を消すことができます。

御影玲王

「玲王くんって、王子様だったりする?」
「……ん?」




言ってる意味が伝わらなかったのか、不思議そうに大きな目を丸くした彼は私の後ろで椅子を引いたまま動きを止める。

まぁ自覚はないんだろうなって思ってた。





「何だよ急に」
「玲王様だもんねぇ」
「待て、凪だな?」
「ないしょー」





くすくす笑う私とは対照的に、ちょっぴり苦い表情をした彼の自然なエスコートによって着席させられる。私が座ったのを確認したら、彼もようやく向かい側に腰を下ろした。





「んで。何だったんだよ、さっきの」
「なんか言動が王子様みたいだなぁって思って」
「……そうか?」





片手で頬杖をつきながらやっぱりピンときていない様子の彼だけど、なんだか少し嬉しそうにも見える。もしかしたら“王子様”って響きは気に入ったのかもしれない。
あ、でも玲王くんなら“王様”の方が好きかなぁ。
跪いて女の子の手にキスをする彼も、王冠を被って堂々としている彼も、容易に想像できる。





「ちなみにどの辺が?」
「私が壁側になるように歩くよね」
「前見てねぇやつがぶつかったりすんじゃん」
「段差で手差し出してくれるし」
「毎回無視されっけどな」
「それは……」





玲王くんが手離してくれなくなるから、と文句を言おうとして、緩められた瞳に気付き思わず口を噤んでしまう。





「他にもあんの?」
「え、えっと……こないだ体調悪いときにお姫様抱っこで医務室運んでくれた……のも、王子様っぽかった、です」
「あー軽すぎてびっくりしたやつ」





女の子の日でちょっとしんどかっただけなのに、それに気付いて「無理すんな」って私を抱き上げた彼は、誰がどう見ても圧倒的に王子様だった。
あんなの絶対、みんな好きになっちゃう。
それぐらい様になっててかっこよかった。

背中と膝裏に回された意外とがっしりした腕も、いつもより近くで聞こえた低い声も。

思い出すだけで顔が熱くなる。





「れ、玲王くんって誰に対しても優しいもんね」
「お前が俺にどんな印象持ってんのか知らねぇけどさ」





机の上に置いていた左手に彼の右手が重なってびくりと跳ねる。それに小さく笑った彼は、手のひらを掬うように指を絡めて最後にぎゅっと握ってきた。
私の心拍数は徐々に速くなって、苦しくて。
玲王くんに心臓まで掴まれちゃってるみたい。





「俺は好きな子にいい顔したいだけの、普通の男だよ」





指先に柔らかい唇の感触。

食むように何回も口付けてくる彼から甘ったるい空気を感じてくらくらする。
彼に酔ってしまいそうだ。





「嫌がってくんねぇとさすがに調子乗るけど」
「……やだったら、とっくに振り払ってる」





一瞬目を見開いた彼がじわじわと笑みを深めていく。恥ずかしくて見ていられなかった私の耳に、また彼の笑い声が聞こえた。





「俺のお姫様は恥ずかしがり屋だな」
「……からかってる?」
「いや、マジで可愛いなって思ってる」





手の甲にリップ音を残した彼は、やっぱり王子様にしか見えなかった。
3/3ページ