【サゴマキ】His back 2

 牧から届く就寝時のメッセージが普段よりも遅い時間になって、三週間が経過した。スポーツ選手には睡眠が不可欠だろうと思い尋ねてみたところ、試合や練習で見えた改善点を話し合い、実践し、また話し合いと繰り返しているうちに遅くなってしまうのだとか。ついでに得た情報だが、牧は夕食を所属チームの食堂で摂っており、同じく食堂に集まった面々と話しているうちに更に遅い時間となり……といった日々を過ごしているそうだ。チームでの事については、高砂も口を出せないのは分かっている為、健康を気遣う返信しかできずにいた。

『今起きた』
『風邪ひいた』
 この日は珍しく、牧からの連絡が無かった。今日も練習で忙しいのかもしれないと思い、朝の挨拶を送るのみに留めておいて様子を見る。休憩中にも確認したが、メッセージを見てもいないようで。心配ではあったが引き続き待ってみると、退勤時刻の一時間前に返信が届いた。連絡がついた事に安心しつつも、内容は予想外のもので。あと一時間で退勤時間になる旨と、必要なものがあれば帰宅ついでに買っていく申し出を送り業務に戻る。どのような要望であっても叶えられるように、定時で退勤すべく手を動かした。
 その甲斐あって、スムーズに退勤できた。バスを待つ間に携帯を確認すると、新しくメッセージが届いている。
『それなら、スポドリを頼む。食べ物は買ってある分でどうにかできそうだ』
『もし買えたらでいいぞ。無理はしないでくれ』
『ドアノブに掛けておいてくれれば取りにいくから』
『あ、すまん、ゼリーもあると助かる』
『ぶどう』
 要望と気配りが並ぶ内容を見て、自然と頬が緩む。心配は勿論しているが、頼ってもらえた嬉しさが勝った。普段通りのバスに乗り、アパートの近くにあるスーパーに寄る。牧ご所望のスポドリとゼリー、それから牧も元気が出たら食べられそうなものと、ついでに自分の夕飯も購入した。帰宅後に自分用と牧用とで振り分け、ビニール袋に入れて指示通り牧の部屋のドアノブに掛けた。その場でメッセージを送り部屋に帰ろうとしたが、病人に外まで取りに来させるのはやはり心苦しく。かといって呼び鈴を鳴らせば、結局外に出てきてもらうようになる。合鍵があれば室内に置いて帰ることができるが……と悩んでいると、目の前のドアノブが動いた。
「………………高砂?」
「あぁ、大丈夫か?」
「ただの風邪だ、心配かけ、」
「おっと……一旦部屋に戻るか」
「……頼む」
 片手で牧の腰を支え、空いている反対の手で食料を運ぶ。触れる脇腹から伝わる牧の体温は、普段よりも高く。一旦ソファへ座らせて、食料はテーブルに置いた。こちらをぼんやり見つめる牧に目線を合わせると、ビニール袋を指差す。買ってきたものを見せると、中からパウチのゼリーを取り出した。
「すまん、重くなかったか?」
「このくらい平気だ。今はゼリーでいいかもしれねぇが、病み上がりだと、外に出るのも何か作るのも大変だろうと思って色々見てみたんだが、大丈夫そうか?」
「……完璧じゃねぇか。これなら治った後もどうにかなりそうだ、ありがとな」
 中身を一通り確認してから、ビニール袋を再びテーブルに戻し、牧はゼリーを開けた。何も食べられない状態ではないそうで、喉越しが良いものを今一番食べたかったそうだ。それから処方された薬を飲んで、一息。
「いや〜、風邪なんて何年振りだ?」
「高校の頃は鼻風邪程度じゃなかったか?」
「そうだった気がするな……今日はミーティングもあるし、練習場にも行ったんだが、なんか体が上手く動かなくてな。チームドクターに言われて初めて気付いたんだ。風邪薬を貰ってオレはそのまま強制帰宅で、集まってたメンバーには手洗いうがいの徹底の指示が出たらしい。他の奴等にも悪い事したなぁ」
「本気なのは良い事だが、休養も大事だってサインだろ。……長居は今日は良くないか。そうだ、鍵は……」
「そこの、玄関の近くの壁に掛けてある。……ドアにポスト付いてるだろ。そこに入れていってくれ」
「分かった。薬は飲んだし……後は眠って早く治す事、だな。買ってきた物は冷蔵庫に入れておくから、好きに食ってくれ」
「サンキュ、助かった……ふぁあ、」
「……疲れもあるんだろ。オレは適当に帰るから、気にしないで寝ててくれ」
「あぁ……会えてよかった。見送れなくて悪いな、おやすみ」
「おやすみ、お大事にな」
 ベッドへと移動し、横たわった牧から寝息が聞こえる。すぐに寝入ってしまうくらいに疲れていたのだろう。……こうなる前にもう少し手助けができたらとは思うが、牧がどこまで望むか分からない。もどかしさはあるが、こうして牧の近くにいられて本当に良かった。穏やかに上下する胸元を見て、高砂も帰宅しようと立ち上がる。食品を冷蔵庫へ仕舞い終え、部屋を出る前に一目と振り返った際、バスルームが視野に入ってふと思い立った。
「……タオル、あった方がいいか……?」
 高砂にとっては快適な室温ではあるが、体温自体が上がっている牧にとってはどうだろうか。枕元に二枚くらい置いておけば、必要に応じて使うかもしれない。部屋の構造が同じなら、家具の配置も近い筈だ。タオルなら戸棚のどこかに仕舞っていると考えられる。無許可で物色するのは心苦しいが、タオルを求めて彷徨わせるよりはマシだと思う。そしてこれはただの直感だが、恐らく上から三番目辺りに仕舞って……。
「………………は?」
 無かった。厳密に言うと、タオル自体はあった。だが、何かを覆い隠すように広げられていた。タオルを隠す為にタオルを? とは思ったが、なんの躊躇いもなく捲ってしまった。それがいけなかった。高砂の目に飛び込んできたのは、所謂大人のオモチャだった。一目見ただけで分かってしまったそれに対し、タオルを掛け直して深呼吸をする。本来の目的だった汗を拭う為のタオルは、一段上にあった。手前から二枚取り出し、再び寝室へと戻って牧の枕元に静かに置く。物音を立てないよう慎重に玄関まで辿り着き、牧に言われた通りに施錠後は鍵をポストに投函した。高砂自身も自室に辿り着き、細く息を吐く。……さっきこの目で見たものはなんだ。いや、何かは分かっている。しかし、実物を見るのは初めてだった。牧はアレをどのように使っているのだろうか。目測ではあるが、中には高砂のものに近い大きさのものもあったように思う。女性相手に使用するには禍々し過ぎるし、仮に性別問わず使う相手がいるなら、高砂と関係を持つ意味はない。ならば牧自身に使用しているとでも言うのだろうか。アレらを、牧が、自ら。そこまで考えて、いつの間にか下半身に熱が集まっている事に気付く。牧が風邪で苦しんでいる時に何を、とは思うが、やむおえず処理する為にトイレへと向かう。頭の中には、先程見たアレらで自らを慰める牧が浮かんでいた。
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