銀河の果てより、貴方へ。
【土星の要請】
仙道からの連絡は、あれから二日に一回くらいのペースで届くようになる。常は、授業でどうだった、部活でこうだった、というような何気無い話題ばかりだった。向こうも練習量の多い強豪校だ。まず部活の無い日が珍しいし、互いに予定を合わせるとなると、難易度は更に跳ね上がる。十月に入り寒暖差の狭間にいる最近もそれは続き、次の連絡は今週末かと予想していたが、実際に届いたのは少し先の翌週水曜日だった。
『たすけてください』
平仮名のみが並ぶメッセージに一瞬、良からぬ事を想像してしまい狼狽えた。だが恐らく、本当の非常事態であるならまず家族に連絡をするだろう。そうでなくとも、仙道の周囲にも相談出来る人間はいる筈だ。
『どうした』
『すんません、ちょっと付き合ってほしいんすけど』
『いいぞ。いつだ?』
『金曜日の夕方。放課後なんすけど……練習、ありますよね?』
自室で明日の支度をしていた牧は、携帯の画面をそのままにして、練習スケジュールを確認する。指定された金曜日は確かに放課後から練習はあるが、全体練習は普段より早く終わり、自主練習の時間が多く割り当てられている日だった。監督も全体練習後に用事があるらしく、帰ろうと思えば帰れる日だ。
『練習はあるが、十九時までだ。その時間でも良ければ』
『あざっす、お願いします』
メッセージを送ってから、一分も経過していない。藁にも縋るとはこの事だろうか。しかし、これ程即座に返信をする用事とは何だ。肝心な部分を聞き忘れていた。
『ところで、金曜日に何かあるのか?』
『ちょっとスポーツショップに行かないといけなくて』
『スポーツショップ? 金曜じゃなくても行けるだろ、次の休みとか』
『そうなんすけどね……今週中でこっちの時間がある時って、金曜しかなくって』
『ただ買いに行くだけだろ?』
『……怒らねぇすか?』
『怒らせるような事を言うのか?』
『……多分?』
『言ってみろ』
電話の方が早いのではないか。そう思うような速度での言葉の応酬は、牧からの催促を最後に一時休戦した。揃えたままにしていた教科書を鞄に仕舞い、明日の部活スケジュールを再度確認して、携帯の通知に気付く。
『部活の備品の買い出しっす。ホントは一年が当番制でやってるんすけど、色々あって今回はオレが行くようになって……今週中に行けって言われてました』
二、三度目を擦りもう一度確認したが、そこに並ぶ文字列が変わる事は無かった。
仙道が挙げたスポーツショップは、牧も利用した事がある店だった。自分が必要な消耗品を揃えたり、部で使う物も幾つか買ったりしており、他校の選手やマネージャーを見掛ける時もあった。しかしその中に仙道の姿は無かったように思う。今日は店内での待ち合わせに決めた。自動ドアを通り抜け、店内を見渡すと、特徴的な髪型が目に留まった。
「待たせたな。順調か?」
「わ。お疲れ様っす。あと……もうちょいっすね」
手元のリストを揺らしながら、仙道は答えた。カゴの中身ともうちょいという言葉を信じるなら、陵南高校へ運ぶのも一人で十分そうだ。そう時間もかからないだろうと思い、店内を散策する事にした。目立つ場所に展示されている新しいバッシュに、その隣に置かれたリストバンドやタオルは、プロバスケットボール選手が実際に使用したそれぞれの使い心地がキャッチコピーとして書かれている。それから店内を一周して、仙道の付き添いであった事を思い出した。もう会計も済ませてしまっているかもしれない、そう思いレジ付近を見渡したが見付からない。不思議に思い最初に会った場所へと引き返せば、そこから一歩も動いていない仙道がいた。
「……仙道?」
「あ、やべ」
「カゴの中身、増えてねぇじゃねぇかよ……」
「へへ……すんません」
その口調が、普段よりも遅く感じられる。そうして欠伸を一つ。……既に飽きているのかもしれない。仙道は無事に買い物を完了出来るのだろうか。
「なんだ、もうギブアップか?」
「そういうんじゃねぇんすけど……一年の頃の買い出し当番の時に、リストにあるのを選んでカゴに入れてたんすよ。そしたら、なんか違う種類のを入れちまってたみてぇで……一緒にいた奴に、ちゃんと箱読めって言われたんすよね」
「それは……そうだな」
「んで、読んでたんすけど……今度は眠くなっちまって……」
「……オイ、リスト貸せ」
「あ、はい」
この調子では、閉店前に買い揃えるのは至難の業だ。帰宅するのも何時になるか分からないが、手を貸した方が少しはマシだろう。しかし、何故自分が呼ばれたのだろうか。チームで使うのなら、チームメイトと来た方が良かったのではないか。浮かんだ疑問は、帰りがてら聞く事に決めた。
「どこまでいったんだ?」
「えーと、もうちょいっす」
「………………分かった。あ、お前これ違うぞ。こっちだ」
「え、マジっすか」
「次は……こっちでこれとこれ……このリスト分かりやすいな」
「それ、データ収集が得意な奴が作ったんす。纏めるの上手いっすよね」
「そうなのか、感心だな……。よし、次行くぞ」
「うっす」
リストと照らし合わせ、仙道の持つカゴへと一つずつ放り込んでいく。店頭にある分で必要数に足りた為、仙道はレジへと向かった。会計の様子を後ろから見ていると、何処と無く親心というようなものが分かる気がしてしまう。まだそんな歳では無い筈だと軽く頭を振り、仙道を待った。
「すんません、お待たせしました」
「おう。ちゃんと買えたか?」
「牧さんに選んでもらった分は大丈夫っす」
「……お前が選んでた分は?」
「大丈夫す。多分」
「多分かよ」
力強く言い放った後、ふにゃりと崩れた顔に呆れながらも笑ってしまった。ここ最近、コートの外での新たな一面を知るのが楽しいと感じている自分がいる。互いの共通点であるバスケ関連の話も弾むが、普段の様子はなかなか分からないものだ。それが、簡素なメッセージや何気無い会話で、少しずつ【仙道彰】の輪郭が見えるようになった気がする。とはいえ未だ油断ならない。仙道が本当に宇宙人だったらどうするのか。その問いには、答えられずにいるのだから。
「ん? そもそも、仙道達が使うなら、何故オレを呼んだんだ」
「あー……それは……」
代わりに店内で浮かんでいた疑問を投げ掛けた。敢えて他校である自分を呼ぶくらいだ、何か相応の理由があるに違いない。仙道の鮮やかなプレーに影響が出てしまうのなら、ほんの少しでも取り除いてやりたかった。
「言いづらいか? 無理に言わせる気はねぇが……」
「えっ、全然! そんな事は……ねぇす……」
「そうか?」
視線を左右に揺らして、仙道は悩んでいる。どうしても聞き出したかったのではないが、話してくれるのならば聞きたかった。
「……一応はウチの中で誰か行けないかって聞いたんすけど……委員会とか用事とかで、誰もいなくて……」
「つまり今日オレを呼んだのは……監督役ってとこか?」
「監督……んー、それよりは、牧さんと会いたいのもあったんで、どうかなって……」
数度後頭部を掻きながら言われる。眉尻を下げる仙道は、悪戯がバレた時の大型犬に見えて、笑いそうになった。
「やっぱり、文字だけより直接会えた方がいいっすね。今だって牧さん笑うの我慢してるんでしょ。そういったのも分かるから……今日、来てくれて嬉しかったっす」
バレないように振舞っていたつもりでいたが、見破られてしまい、少し悔しい。しかし仙道の楽しそうに話す姿は、確かに直接会わなければ知らなかった。……どうにも照れ臭いから、それは言わずに仕舞い込む。
「……全く、お前にまで監督扱いされたかと思ったじゃねぇか」
「え、そんな事があったんすか?」
代わりに余計な事を口走ってしまった。
「……なんでもねぇ」
「気になるなぁ……教えてくんねぇすか?」
大柄な体を少し曲げて尋ねる姿に、つい当時の事を話しそうになる。しかしこのまま流されてしまっても面白くない。
「一人でお遣いが出来るようになったら話してやる」
咄嗟の言葉にしては、頓智が利いていたと我ながら思う。目を丸くした仙道が数回瞬きをして、喉の奥で笑う。それから肩まで震えだした。
「いやー、確かに。それじゃあお遣い出来たら連絡するんで、そん時に聞いていいっすか?」
「その時までオレが覚えていたらな」
「厳しいなぁ、頑張ります」
「スポーツショップにはあまり寄らないのか?」
「オレすか? 必要な物があったら、てくらいすかね」
「新商品が出たら見に行ったりはしないのか?」
「うーん……釣具屋の方がよく行きますね」
顎に手を当てて自らの行動を思い出しているようだが、返答通りの行動を辿っただけに終わる。そうして、何を思ったのか吹き出した。
「……何か可笑しかったか?」
「いや、なんつーか……やっぱり牧さんの方がオレにたくさん質問しますね」
「そうか?」
「自覚無いんすか?」
「……言われれば、そうかもしれねぇが……あ、そうだ」
牧はその場で立ち止まり、部活道具が入った鞄を開けた。仙道の不思議そうな視線を真隣に感じる。そうして新品のテーピングテープを見付けた。
「自己管理もエースの仕事だぞ。それにいつか使うかもしれねぇだろ、持っとけ」
「え、でもこれ牧さんの」
「気にすんな、まぁ使わないに越したことはないが……念の為、な」
「あ……あざっす」
「おう」
部室へ持っていく用の袋とは別に、仙道は自分の鞄へとテープを仕舞う。本人が必要無いと言うのなら、渡す必要も無かったとは思うが、牧がそうしたかったからそうしたのだ。コートの中で、万全な状態の仙道と試合をしたい。きっと、それだけだ。多分。
仙道からの連絡は、あれから二日に一回くらいのペースで届くようになる。常は、授業でどうだった、部活でこうだった、というような何気無い話題ばかりだった。向こうも練習量の多い強豪校だ。まず部活の無い日が珍しいし、互いに予定を合わせるとなると、難易度は更に跳ね上がる。十月に入り寒暖差の狭間にいる最近もそれは続き、次の連絡は今週末かと予想していたが、実際に届いたのは少し先の翌週水曜日だった。
『たすけてください』
平仮名のみが並ぶメッセージに一瞬、良からぬ事を想像してしまい狼狽えた。だが恐らく、本当の非常事態であるならまず家族に連絡をするだろう。そうでなくとも、仙道の周囲にも相談出来る人間はいる筈だ。
『どうした』
『すんません、ちょっと付き合ってほしいんすけど』
『いいぞ。いつだ?』
『金曜日の夕方。放課後なんすけど……練習、ありますよね?』
自室で明日の支度をしていた牧は、携帯の画面をそのままにして、練習スケジュールを確認する。指定された金曜日は確かに放課後から練習はあるが、全体練習は普段より早く終わり、自主練習の時間が多く割り当てられている日だった。監督も全体練習後に用事があるらしく、帰ろうと思えば帰れる日だ。
『練習はあるが、十九時までだ。その時間でも良ければ』
『あざっす、お願いします』
メッセージを送ってから、一分も経過していない。藁にも縋るとはこの事だろうか。しかし、これ程即座に返信をする用事とは何だ。肝心な部分を聞き忘れていた。
『ところで、金曜日に何かあるのか?』
『ちょっとスポーツショップに行かないといけなくて』
『スポーツショップ? 金曜じゃなくても行けるだろ、次の休みとか』
『そうなんすけどね……今週中でこっちの時間がある時って、金曜しかなくって』
『ただ買いに行くだけだろ?』
『……怒らねぇすか?』
『怒らせるような事を言うのか?』
『……多分?』
『言ってみろ』
電話の方が早いのではないか。そう思うような速度での言葉の応酬は、牧からの催促を最後に一時休戦した。揃えたままにしていた教科書を鞄に仕舞い、明日の部活スケジュールを再度確認して、携帯の通知に気付く。
『部活の備品の買い出しっす。ホントは一年が当番制でやってるんすけど、色々あって今回はオレが行くようになって……今週中に行けって言われてました』
二、三度目を擦りもう一度確認したが、そこに並ぶ文字列が変わる事は無かった。
仙道が挙げたスポーツショップは、牧も利用した事がある店だった。自分が必要な消耗品を揃えたり、部で使う物も幾つか買ったりしており、他校の選手やマネージャーを見掛ける時もあった。しかしその中に仙道の姿は無かったように思う。今日は店内での待ち合わせに決めた。自動ドアを通り抜け、店内を見渡すと、特徴的な髪型が目に留まった。
「待たせたな。順調か?」
「わ。お疲れ様っす。あと……もうちょいっすね」
手元のリストを揺らしながら、仙道は答えた。カゴの中身ともうちょいという言葉を信じるなら、陵南高校へ運ぶのも一人で十分そうだ。そう時間もかからないだろうと思い、店内を散策する事にした。目立つ場所に展示されている新しいバッシュに、その隣に置かれたリストバンドやタオルは、プロバスケットボール選手が実際に使用したそれぞれの使い心地がキャッチコピーとして書かれている。それから店内を一周して、仙道の付き添いであった事を思い出した。もう会計も済ませてしまっているかもしれない、そう思いレジ付近を見渡したが見付からない。不思議に思い最初に会った場所へと引き返せば、そこから一歩も動いていない仙道がいた。
「……仙道?」
「あ、やべ」
「カゴの中身、増えてねぇじゃねぇかよ……」
「へへ……すんません」
その口調が、普段よりも遅く感じられる。そうして欠伸を一つ。……既に飽きているのかもしれない。仙道は無事に買い物を完了出来るのだろうか。
「なんだ、もうギブアップか?」
「そういうんじゃねぇんすけど……一年の頃の買い出し当番の時に、リストにあるのを選んでカゴに入れてたんすよ。そしたら、なんか違う種類のを入れちまってたみてぇで……一緒にいた奴に、ちゃんと箱読めって言われたんすよね」
「それは……そうだな」
「んで、読んでたんすけど……今度は眠くなっちまって……」
「……オイ、リスト貸せ」
「あ、はい」
この調子では、閉店前に買い揃えるのは至難の業だ。帰宅するのも何時になるか分からないが、手を貸した方が少しはマシだろう。しかし、何故自分が呼ばれたのだろうか。チームで使うのなら、チームメイトと来た方が良かったのではないか。浮かんだ疑問は、帰りがてら聞く事に決めた。
「どこまでいったんだ?」
「えーと、もうちょいっす」
「………………分かった。あ、お前これ違うぞ。こっちだ」
「え、マジっすか」
「次は……こっちでこれとこれ……このリスト分かりやすいな」
「それ、データ収集が得意な奴が作ったんす。纏めるの上手いっすよね」
「そうなのか、感心だな……。よし、次行くぞ」
「うっす」
リストと照らし合わせ、仙道の持つカゴへと一つずつ放り込んでいく。店頭にある分で必要数に足りた為、仙道はレジへと向かった。会計の様子を後ろから見ていると、何処と無く親心というようなものが分かる気がしてしまう。まだそんな歳では無い筈だと軽く頭を振り、仙道を待った。
「すんません、お待たせしました」
「おう。ちゃんと買えたか?」
「牧さんに選んでもらった分は大丈夫っす」
「……お前が選んでた分は?」
「大丈夫す。多分」
「多分かよ」
力強く言い放った後、ふにゃりと崩れた顔に呆れながらも笑ってしまった。ここ最近、コートの外での新たな一面を知るのが楽しいと感じている自分がいる。互いの共通点であるバスケ関連の話も弾むが、普段の様子はなかなか分からないものだ。それが、簡素なメッセージや何気無い会話で、少しずつ【仙道彰】の輪郭が見えるようになった気がする。とはいえ未だ油断ならない。仙道が本当に宇宙人だったらどうするのか。その問いには、答えられずにいるのだから。
「ん? そもそも、仙道達が使うなら、何故オレを呼んだんだ」
「あー……それは……」
代わりに店内で浮かんでいた疑問を投げ掛けた。敢えて他校である自分を呼ぶくらいだ、何か相応の理由があるに違いない。仙道の鮮やかなプレーに影響が出てしまうのなら、ほんの少しでも取り除いてやりたかった。
「言いづらいか? 無理に言わせる気はねぇが……」
「えっ、全然! そんな事は……ねぇす……」
「そうか?」
視線を左右に揺らして、仙道は悩んでいる。どうしても聞き出したかったのではないが、話してくれるのならば聞きたかった。
「……一応はウチの中で誰か行けないかって聞いたんすけど……委員会とか用事とかで、誰もいなくて……」
「つまり今日オレを呼んだのは……監督役ってとこか?」
「監督……んー、それよりは、牧さんと会いたいのもあったんで、どうかなって……」
数度後頭部を掻きながら言われる。眉尻を下げる仙道は、悪戯がバレた時の大型犬に見えて、笑いそうになった。
「やっぱり、文字だけより直接会えた方がいいっすね。今だって牧さん笑うの我慢してるんでしょ。そういったのも分かるから……今日、来てくれて嬉しかったっす」
バレないように振舞っていたつもりでいたが、見破られてしまい、少し悔しい。しかし仙道の楽しそうに話す姿は、確かに直接会わなければ知らなかった。……どうにも照れ臭いから、それは言わずに仕舞い込む。
「……全く、お前にまで監督扱いされたかと思ったじゃねぇか」
「え、そんな事があったんすか?」
代わりに余計な事を口走ってしまった。
「……なんでもねぇ」
「気になるなぁ……教えてくんねぇすか?」
大柄な体を少し曲げて尋ねる姿に、つい当時の事を話しそうになる。しかしこのまま流されてしまっても面白くない。
「一人でお遣いが出来るようになったら話してやる」
咄嗟の言葉にしては、頓智が利いていたと我ながら思う。目を丸くした仙道が数回瞬きをして、喉の奥で笑う。それから肩まで震えだした。
「いやー、確かに。それじゃあお遣い出来たら連絡するんで、そん時に聞いていいっすか?」
「その時までオレが覚えていたらな」
「厳しいなぁ、頑張ります」
「スポーツショップにはあまり寄らないのか?」
「オレすか? 必要な物があったら、てくらいすかね」
「新商品が出たら見に行ったりはしないのか?」
「うーん……釣具屋の方がよく行きますね」
顎に手を当てて自らの行動を思い出しているようだが、返答通りの行動を辿っただけに終わる。そうして、何を思ったのか吹き出した。
「……何か可笑しかったか?」
「いや、なんつーか……やっぱり牧さんの方がオレにたくさん質問しますね」
「そうか?」
「自覚無いんすか?」
「……言われれば、そうかもしれねぇが……あ、そうだ」
牧はその場で立ち止まり、部活道具が入った鞄を開けた。仙道の不思議そうな視線を真隣に感じる。そうして新品のテーピングテープを見付けた。
「自己管理もエースの仕事だぞ。それにいつか使うかもしれねぇだろ、持っとけ」
「え、でもこれ牧さんの」
「気にすんな、まぁ使わないに越したことはないが……念の為、な」
「あ……あざっす」
「おう」
部室へ持っていく用の袋とは別に、仙道は自分の鞄へとテープを仕舞う。本人が必要無いと言うのなら、渡す必要も無かったとは思うが、牧がそうしたかったからそうしたのだ。コートの中で、万全な状態の仙道と試合をしたい。きっと、それだけだ。多分。