『芽生え』夏吉春帆さんに提供させていただいたものです
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ショタ独白『あの黒い瞳を思い出すと胸の奥をグジュグジュと押されるような感覚になる。スイカのように真っ赤でざらりとした心の柔らかいところを遠慮なしにあの人は踏み潰した。僕の心を、蟻と一緒に!
その人はよく知らないおじさんの三回忌に訪れた田舎の家で、泣きながら天ぷらをあげていた。涙が溢れては油の中に落ちるから、たまに大きな破裂音がした。外はよく晴れて蝉が大きな声で泣いているくらいなのに、台所だけ雨が降っているように暗くて不気味だった。全身黒の知らない後ろ姿の女の人が、悲しみに暮れながら天ぷらをあげている。少し猫背で、油の弾ける音の中に悲しみを混ぜ込ませながら立っていた』
「・・・うう、ううっ悲しいことよね。本当に悲しいこと・・・」
『あの、大丈夫ですか』
思わず声をかけると黒い瞳がこちらを見つめる。薄い化粧の上から数筋、涙の跡があったけど僕を見つめると急に笑顔になった。
「ねえ私のことわかる?はじめましてじゃないんだけど(嬉しそうに)」
「あー! 知らない、って顔してる。悲しいなあ、私は君のこと大好きなのに。ねえ遊ぼうよ」
『その人はコンロの火を止めると急に僕の手を取って縁側に走り出した。その手はお母さんの手とは違ってサラサラで、あんなに油のそばにいたのに冷たかった
一つだけあったぼろい大きめのサンダルを僕に恭しく履かせると自分はストッキングの薄い膜一つ、つまりほとんど素足で土の庭に飛び出した。太陽を眩しそうに眺めている。』
「なーんもないよねえ・・・でも私この家が好きなの。みんな集まるこの家が。心臓と同じなのよこの家は。血を送り出すの。君にも入ってる。私とおんなじ血が。君と私の構成物は限りなく近いの。これは愛するに値するよねえ!自分に近いものって怖いけどでもさ、その怖さって他の人じゃ味わえないのに。ああなんでおじさんは死んじゃったんだろう!」
「夫の時はこんなに泣かなかったのになあ。夫とは血を分かっていないから。死んでも特にね、何にも思わなかったのに。やっぱり三年ってもおじさんの死は悲しいなあ。っ。うう、なんで死んじゃったのぉ、みんなぁ・・・」
『勝手に喋りはじめてまた勝手に泣き出そうとしている。不安定で怖い。圧倒されて縁側に僕はまだ座り込んだままだった。俯いて悲しみに体をよじらせているその人は、急に楽しそうにさけんだ。
「あ。ありだ!」
プチ 足をちょっと動かして蟻を踏み潰す。つま先を軸に踵を浮かせて、ぎりぎりと執拗に蟻を踏んだ。
「ねえおいでよ、楽しいよ。」
『手を引かれた。蟻の小さい影を僕の大人用サンダルの大きな影と足のサイズと同じくらいの中くらいの影が追いかけては潰した。背筋に小さな清涼感が走る。サイダーを開けたときのようなあの煌めきとすっとする感じ。頭上では彼女の楽しげな声が聞こえた。黒い瞳と僕の目がかちあう。どこまでも楽しそうに彼女は笑う。』
「キャハハは」
『家に帰ってもあの爽やかさが忘れられなかった。食事をしている時も、ベッドにいる時も背筋がなんだかじっとりしてたまらなかった。
夏休みの終わりが近づいた日、どうしても息苦しい感じがして庭に飛び出して見つけた蟻をスニーカーで踏みつけた。清涼感は訪れなかった。ただあの人の黒い瞳と笑い声が頭の中に浮かび上がった。目の前には風が吹けばどこかに行ってしまうような小さな死が転がっていて、その事実が背筋に寒気を走らせた・・・』
その人はよく知らないおじさんの三回忌に訪れた田舎の家で、泣きながら天ぷらをあげていた。涙が溢れては油の中に落ちるから、たまに大きな破裂音がした。外はよく晴れて蝉が大きな声で泣いているくらいなのに、台所だけ雨が降っているように暗くて不気味だった。全身黒の知らない後ろ姿の女の人が、悲しみに暮れながら天ぷらをあげている。少し猫背で、油の弾ける音の中に悲しみを混ぜ込ませながら立っていた』
「・・・うう、ううっ悲しいことよね。本当に悲しいこと・・・」
『あの、大丈夫ですか』
思わず声をかけると黒い瞳がこちらを見つめる。薄い化粧の上から数筋、涙の跡があったけど僕を見つめると急に笑顔になった。
「ねえ私のことわかる?はじめましてじゃないんだけど(嬉しそうに)」
「あー! 知らない、って顔してる。悲しいなあ、私は君のこと大好きなのに。ねえ遊ぼうよ」
『その人はコンロの火を止めると急に僕の手を取って縁側に走り出した。その手はお母さんの手とは違ってサラサラで、あんなに油のそばにいたのに冷たかった
一つだけあったぼろい大きめのサンダルを僕に恭しく履かせると自分はストッキングの薄い膜一つ、つまりほとんど素足で土の庭に飛び出した。太陽を眩しそうに眺めている。』
「なーんもないよねえ・・・でも私この家が好きなの。みんな集まるこの家が。心臓と同じなのよこの家は。血を送り出すの。君にも入ってる。私とおんなじ血が。君と私の構成物は限りなく近いの。これは愛するに値するよねえ!自分に近いものって怖いけどでもさ、その怖さって他の人じゃ味わえないのに。ああなんでおじさんは死んじゃったんだろう!」
「夫の時はこんなに泣かなかったのになあ。夫とは血を分かっていないから。死んでも特にね、何にも思わなかったのに。やっぱり三年ってもおじさんの死は悲しいなあ。っ。うう、なんで死んじゃったのぉ、みんなぁ・・・」
『勝手に喋りはじめてまた勝手に泣き出そうとしている。不安定で怖い。圧倒されて縁側に僕はまだ座り込んだままだった。俯いて悲しみに体をよじらせているその人は、急に楽しそうにさけんだ。
「あ。ありだ!」
プチ 足をちょっと動かして蟻を踏み潰す。つま先を軸に踵を浮かせて、ぎりぎりと執拗に蟻を踏んだ。
「ねえおいでよ、楽しいよ。」
『手を引かれた。蟻の小さい影を僕の大人用サンダルの大きな影と足のサイズと同じくらいの中くらいの影が追いかけては潰した。背筋に小さな清涼感が走る。サイダーを開けたときのようなあの煌めきとすっとする感じ。頭上では彼女の楽しげな声が聞こえた。黒い瞳と僕の目がかちあう。どこまでも楽しそうに彼女は笑う。』
「キャハハは」
『家に帰ってもあの爽やかさが忘れられなかった。食事をしている時も、ベッドにいる時も背筋がなんだかじっとりしてたまらなかった。
夏休みの終わりが近づいた日、どうしても息苦しい感じがして庭に飛び出して見つけた蟻をスニーカーで踏みつけた。清涼感は訪れなかった。ただあの人の黒い瞳と笑い声が頭の中に浮かび上がった。目の前には風が吹けばどこかに行ってしまうような小さな死が転がっていて、その事実が背筋に寒気を走らせた・・・』
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