穏やかな破壊とあなたの祈り
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「今日はエクボいないのモブくん、話したいことあったのに」
みんなに背を向けてお茶をいれる準備をしながらそう声をかけた。あなたは上級悪霊だと自分では胸を張って言う。確かにちょっと、他の悪霊とは違うような気もする、とても人間臭い仕草とか優しさとか。
相談所が静かなのは少し珍しい。あくびをしてしまうほどやわらかいひだまりの中、たわいもない話をしているその横でゆっくりと時間は流れた。あなたは意外と寂しがり屋だから、大抵ふよふよと相談所のなかでは誰かと喋っていた。最近は芹沢さんの勉強を見てあげていることが多い。小言を言いながらも、人に頼られることにちょっとした喜びを感じているのが可愛かった。
「苗字、」
霊幻さんが私に声をかけたので振り返る。一呼吸置いてこう口を開いた。誰かが息を呑む音がした。
「エクボは、消滅した」
手から湯呑みが滑り落ち、音を立てて果てた。モブくんが超能力で止める間もなかった。
急に呼吸が浅くなる。白い闇に突き落とされた。私は白い紙に一滴落ちた墨のようにじわじわと今度は黒い闇に飲み込まれていく。黒い闇が広がりきるとゆっくり幕を開け、私の頭を現実に引き戻していった。
「え、」
明るいいつもの相談所がとても色褪せて映る。それは目に涙の膜が出来ているからなのかはわからなかった。
「エクボが……、消滅したって。ね、そんな冗談やめてくださいよ」
芹沢さんとモブくんは気まずそうに下を向いて口を閉ざしていた。霊幻さんは私の目をじっと見て、逸らした。そして一言だけ「本当だ」とだけ床に向かってつぶやいた。
私はしゃがみ込んだ。本当は崩れ落ちただけだった。三人を背にしてかけらが目に入ったから何も考えずにそれらを集め始めた。手を陶器の破片が刺す。湯呑みは緩やかな曲線を保ったまま散り散りになっている。頭の中で同じように大好きなあなたが音もなく引き裂かれて消えた。
「く、ぅ、」
涙が溢れる。床に当たって弾けた。握りしめた手のひらから血が溢れる。床に当たってまた弾けた。
「名前さん僕片付けますよ」
モブくんが近づいてきて私の肩を掴んだ。思わず私は振り払い唇を噛んで、自ら失意の中にいた。私は私を保てなくなっていく。今日もあなたのためにしたメイクが崩れていく。壊れていく、私。
これで満足?私を置いてったこと。私が泣くこと、これがあなたのいう愛の証明になるのですか。
夕映えが差し込む暖かな相談所に、私の嗚咽が響く。陽だまりの中にあなたの影を探してしまった。あなたはもうどこにもいなくて、私は満ち溢れる光の中で捨て置かれたように無垢にひどく孤独だった。
みんなに背を向けてお茶をいれる準備をしながらそう声をかけた。あなたは上級悪霊だと自分では胸を張って言う。確かにちょっと、他の悪霊とは違うような気もする、とても人間臭い仕草とか優しさとか。
相談所が静かなのは少し珍しい。あくびをしてしまうほどやわらかいひだまりの中、たわいもない話をしているその横でゆっくりと時間は流れた。あなたは意外と寂しがり屋だから、大抵ふよふよと相談所のなかでは誰かと喋っていた。最近は芹沢さんの勉強を見てあげていることが多い。小言を言いながらも、人に頼られることにちょっとした喜びを感じているのが可愛かった。
「苗字、」
霊幻さんが私に声をかけたので振り返る。一呼吸置いてこう口を開いた。誰かが息を呑む音がした。
「エクボは、消滅した」
手から湯呑みが滑り落ち、音を立てて果てた。モブくんが超能力で止める間もなかった。
急に呼吸が浅くなる。白い闇に突き落とされた。私は白い紙に一滴落ちた墨のようにじわじわと今度は黒い闇に飲み込まれていく。黒い闇が広がりきるとゆっくり幕を開け、私の頭を現実に引き戻していった。
「え、」
明るいいつもの相談所がとても色褪せて映る。それは目に涙の膜が出来ているからなのかはわからなかった。
「エクボが……、消滅したって。ね、そんな冗談やめてくださいよ」
芹沢さんとモブくんは気まずそうに下を向いて口を閉ざしていた。霊幻さんは私の目をじっと見て、逸らした。そして一言だけ「本当だ」とだけ床に向かってつぶやいた。
私はしゃがみ込んだ。本当は崩れ落ちただけだった。三人を背にしてかけらが目に入ったから何も考えずにそれらを集め始めた。手を陶器の破片が刺す。湯呑みは緩やかな曲線を保ったまま散り散りになっている。頭の中で同じように大好きなあなたが音もなく引き裂かれて消えた。
「く、ぅ、」
涙が溢れる。床に当たって弾けた。握りしめた手のひらから血が溢れる。床に当たってまた弾けた。
「名前さん僕片付けますよ」
モブくんが近づいてきて私の肩を掴んだ。思わず私は振り払い唇を噛んで、自ら失意の中にいた。私は私を保てなくなっていく。今日もあなたのためにしたメイクが崩れていく。壊れていく、私。
これで満足?私を置いてったこと。私が泣くこと、これがあなたのいう愛の証明になるのですか。
夕映えが差し込む暖かな相談所に、私の嗚咽が響く。陽だまりの中にあなたの影を探してしまった。あなたはもうどこにもいなくて、私は満ち溢れる光の中で捨て置かれたように無垢にひどく孤独だった。
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