肉まんは続くよどこまでも
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「司馬懿さま、私の作った肉まんの試食いかがですか?」
執務室の扉を叩いたかと思えばこちらの返事を待たずに開け、高く上げた皿を片手にそう言い放った名無しさんを見て、あっという間に司馬懿の眉間にシワが寄った。
「何だ唐突に。私は忙しいのだ」
「そう言わずに、司馬懿さまも小腹の空く時間でしょう?それに、ただの肉まんではありませんよ?何といっても、奥様……張春華さまの直伝なんですから!」
少し前に亡くした妻の名前が出ると、眉間を押さえていた司馬懿の指がピクリと動いた。
「……春華の……?」
その反応を確かめ、名無しさんは肉まんの乗った皿を両手で大事そうに持ち直して、司馬懿の前へ運んでゆく。
「……生前、奥様から丁寧に作り方をご指導いただきました。司馬懿さまにお出しするのは初めてなので、味を確かめていただけたらと思います」
まだほんのりと温かく柔らかい肉まんの皮に、伸びてきた司馬懿の指先が沈む。
「ふん、そこまで言うなら、食べてやらぬこともない」
掴んだ肉まんを大きく一口、それをゆっくりと噛んで、飲み込んだ。
「お味、どうでしょうか?ちゃんと作れているでしょうか……?」
空いた皿を握る両手に力を込めて、名無しさんは答えを待つ。
「……そうだな。私のよく知る、……あれの作る味だ」
司馬懿から肯定の言葉が出ると、名無しさんは肩の力を抜いて、ほう、と大きく息を吐いた。
「ああ、それは……よかったです、本当に。これで安心して、奥様の墓前に報告ができます」
そう一人で安堵する名無しさんを前に、司馬懿も満足そうに肉まんを口に運んだ。
それから何日か後のこと、張春華の墓の前には、名無しさんと司馬懿の二人が並ぶ姿があった。
終
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