それは熱のせいにして
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雲のない空から、太陽はひたすらに地面を、そして遮るものの無い人を照らしていた。
外の広場から戻る途中の凌統が見つけたのは、さっきまで同じ集団演習をこなしていた名無しさんが座り込んでいる姿だった。
距離を詰めて、前方へ回り込む。
「名無しさん、こんなとこでどうしたんだい?」
「……軽い立ちくらみだと思ったんですけど、……どうしてか、動けなくて……」
答えはしたが、顔は伏せられたままだ。
脈拍を測るつもりで名無しさんの手首に触れて、その体温の高さに気づく。
「……こりゃ、暑さにやられちまったんだねぇ」
そう呟くと、凌統は背中と膝に腕を入れて名無しさんを抱え上げた。
「とりあえず中まで連れて行くけど、いいかい?」
「はい……すみません……」
腕の中で揺られながら、名無しさんは小さく呟いた。
名無しさんを抱えたまま自室へと戻った凌統は、奥の寝台へ座らせた。
「少し待ってな」
そう言って凌統は机へ向かい、その手に盃を持って戻ってきた。
「とにかく水を飲んでおかないと。口だけでも動かせるかい?」
日陰となる屋内へ移動できたとはいえ、体の重だるさは続いている。
凌統に言われるまま、口を開けた。
こちらへ体を乗り出してきた凌統が、名無しさんの唇に盃をつけて、水を流し込む。
コクンと、少しずつ飲み込んではいけるが、流れ込んでくる量がそれを上回り、名無しさんは口を閉じた。
それでも留められなかった水が口の端からこぼれ、首を伝い名無しさんの服を濡らす。
「……っと、悪いね、一気に飲ませすぎちまった」
盃を一度置いて、凌統は名無しさんから流れた水の跡を拭う。
そうして、ふと思った。
「……名無しさん、少しだけ口開けてくれるかい?」
そう言って、凌統は盃の水を自分の口に含む。
それから名無しさんの顎に手を添えると、小さく開いた彼女の口を自分の唇で塞いだ。
含んでいた水を少しずつ、名無しさんへ送り込んでやる。
「…………」
名無しさんはというと、自分の状況を頭の中で理解して、理解しながら混乱していた。
唇が離れてなお、名無しさんは凌統の顔をぼうっと眺めていた。
きっと、なかなかに間の抜けた顔で。
「苦しくないかい?」
表情の変わらない凌統の問いに、ただ頷いた。
それを受けて凌統は再び盃に口をつけ、同じように名無しさんの唇に触れ、ゆっくりと水を移していった。
「……これくらい水が取れれば、あとは大丈夫だと思うけどね」
盃が空になったのを確かめて、凌統は立ち上がる。
「ご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございます、……その、色々と」
「気にすんなっての。俺はこれからちょっと用があるから行くけど、名無しさんはそこでしっかり休んでいきなよ」
それじゃ、と離れていく凌統の後ろ姿を、名無しさんは見送った。
きっと、少し赤くなった顔で。
着替えを済ませ部屋を後にした凌統は、廊下を歩きながら、名無しさんと重ねた唇の感覚を思い出していた。
あれは水を飲ませるためにやったこと。
……そう思ってくれてればいい。
ため息をひとつ。
それから、ぽつり。
「嫌われてないといいけどねぇ……」
終
外の広場から戻る途中の凌統が見つけたのは、さっきまで同じ集団演習をこなしていた名無しさんが座り込んでいる姿だった。
距離を詰めて、前方へ回り込む。
「名無しさん、こんなとこでどうしたんだい?」
「……軽い立ちくらみだと思ったんですけど、……どうしてか、動けなくて……」
答えはしたが、顔は伏せられたままだ。
脈拍を測るつもりで名無しさんの手首に触れて、その体温の高さに気づく。
「……こりゃ、暑さにやられちまったんだねぇ」
そう呟くと、凌統は背中と膝に腕を入れて名無しさんを抱え上げた。
「とりあえず中まで連れて行くけど、いいかい?」
「はい……すみません……」
腕の中で揺られながら、名無しさんは小さく呟いた。
名無しさんを抱えたまま自室へと戻った凌統は、奥の寝台へ座らせた。
「少し待ってな」
そう言って凌統は机へ向かい、その手に盃を持って戻ってきた。
「とにかく水を飲んでおかないと。口だけでも動かせるかい?」
日陰となる屋内へ移動できたとはいえ、体の重だるさは続いている。
凌統に言われるまま、口を開けた。
こちらへ体を乗り出してきた凌統が、名無しさんの唇に盃をつけて、水を流し込む。
コクンと、少しずつ飲み込んではいけるが、流れ込んでくる量がそれを上回り、名無しさんは口を閉じた。
それでも留められなかった水が口の端からこぼれ、首を伝い名無しさんの服を濡らす。
「……っと、悪いね、一気に飲ませすぎちまった」
盃を一度置いて、凌統は名無しさんから流れた水の跡を拭う。
そうして、ふと思った。
「……名無しさん、少しだけ口開けてくれるかい?」
そう言って、凌統は盃の水を自分の口に含む。
それから名無しさんの顎に手を添えると、小さく開いた彼女の口を自分の唇で塞いだ。
含んでいた水を少しずつ、名無しさんへ送り込んでやる。
「…………」
名無しさんはというと、自分の状況を頭の中で理解して、理解しながら混乱していた。
唇が離れてなお、名無しさんは凌統の顔をぼうっと眺めていた。
きっと、なかなかに間の抜けた顔で。
「苦しくないかい?」
表情の変わらない凌統の問いに、ただ頷いた。
それを受けて凌統は再び盃に口をつけ、同じように名無しさんの唇に触れ、ゆっくりと水を移していった。
「……これくらい水が取れれば、あとは大丈夫だと思うけどね」
盃が空になったのを確かめて、凌統は立ち上がる。
「ご迷惑をおかけしてすみません。ありがとうございます、……その、色々と」
「気にすんなっての。俺はこれからちょっと用があるから行くけど、名無しさんはそこでしっかり休んでいきなよ」
それじゃ、と離れていく凌統の後ろ姿を、名無しさんは見送った。
きっと、少し赤くなった顔で。
着替えを済ませ部屋を後にした凌統は、廊下を歩きながら、名無しさんと重ねた唇の感覚を思い出していた。
あれは水を飲ませるためにやったこと。
……そう思ってくれてればいい。
ため息をひとつ。
それから、ぽつり。
「嫌われてないといいけどねぇ……」
終
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