短編
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「最悪だよ!」
幼なじみの特権というやつなのか、バンッと突然部屋に上がり込んできたかと思えば、
最初に発した一言目は、何とも不機嫌満々な怒鳴り声だった…
________
「キラも殴り返しちゃえば良かったのに」
「…それ本気で言ってる?」
「んー…半分だけ冗談かな、」
キラが乱暴に部屋に上がり込んで来るのは今日が初めてでは無い。
どちらかと言えば常習犯なだけに、ソラの対応も手慣れたもので…
「ぅ、いった…っ!!」
「あー…切れてる…、そんな強烈なビンタだったの?」
いつも此処へ訪れるのは彼女に振られた時ばかり。
まぁ、正確にはキラが冷たく振って、それに元カノ?が逆上してビンタをお見舞いするって感じらしいけどね…
「っ違うよ、爪に何か飾り付いてて、それが痛かった。」
「爪ピアスかなー、口の中は?切ってない?」
「切ってないよ、あの暴力女ホント最悪だよ!」
「女の人なんて、そんなもんでしょ…」
「でもソラは違う。」
まるで子供のようなキラにソラは思わず溜め息が漏れる…
今回も同じパターンらしく、ビンタをお見舞いされたそうなのだが、
元カノが場所を誤ったのか、はたまたキラの運が悪かっただけなのか、
キラの口元には爪ピアスに引っ掻かれた痛々しい傷跡が残されたのだった…
「キラってさ、ホントに来るもの拒まず去るもの追わずだよね」
「…人を遊び人みたいに…」
「事・実・でしょ!ったく…」
キラという幼なじみは、顔はいいし勉強もできるしスポーツもできるし、
ハッキリ言って女の子に困った事など無いくらいモテる。
ただ彼の問題点と言えば、性格がアレなのだ…。
「誰とも付き合った事ない人に言われたくないね」
「ちょ、私を遊び人のキラと一緒にしないでよー!付き合うのは結婚する人だけって決めてるの!」
キラは目の前のサイドテーブルに肘をついて、大声で主張するソラを呆れ顔で見上げた。
「ソラ、親切な僕が忠告しておいてあげるよ。」
「な、なにを…?」
構えるソラなどお構いなし。
「絶対に騙されると思う」
「う、…;;;」
キラの痛恨の一撃だった…
(痛い…何かこの妙に説得力のあるこの言葉が痛いわ…!)
実際、過去に一度だけ、その一度だけなのだが、
心を開きかけた一人の異性に裏路地に連れられて、押し迫られた経験もあるだけに、
ソラは恋愛の事ではキラに頭が上がらないのだった…
「二度も都合よく助けてあげられないからね」
そして、その蜘蛛の巣に引っ掛かっていたソラを助けたのは、
偶然通り掛かった事になっているが、実はソラの事が気になって、
密かに尾行していたキラだったのだ。
「むぅ、…大丈夫だよ…私、あれから男の人と…二人きりとかなってないし…」
あまり過去の嫌な思い出をほじくり返してほしくないソラは、
少しむっとしながら言葉を返すも、
その何気ないソラの一言に反応したキラは、聞かずにはいられなかった。
「それってさ、僕を男として見てないってコト?」
そのキラの鋭い一言に、ソラは一瞬顔を強張らせ、
背中を冷や汗が流れるような感じがした…
それから歪んだ顔を見られないように、少し俯いて、そしてポツリと呟いた。
「そんな事、言わないでよ…そんな事言われたら私…キラとどう接したらいいのか、分かんなくなっちゃうよ…」
膝の上でぎゅっと握りしめるソラの手は、力を入れすぎて色が変わっている…
そんなソラに気付いたキラは、ソファに座るソラの目の前にしゃがみ込んで、
そっとソラの手に自分の手を重ねた。
「?!」
「…僕が、怖い?」
わざと意識させるようにソラに尋ねるキラは、ソラの知ってる【幼なじみ】の優しい表情で…
「怖く、ないよ…だって、知ってるもん私、キラは…本当は優しい人だって…」
キラの瞳をじっと見詰めながら言うソラに、
キラはソラの膝に置かれた手を、そのまま上に…
今度はソラの頬にその手を添える…。
「じゃあソラは、優しい人なら皆、怖くないんだ」
「ちが……ッ!」
ソラの言葉を待たずに、そのままソラの唇に自分のそれを重ねたキラは、
唇が離れると、きゅっとソラを抱きしめた…
「嘘…ごめん、ちょっと意地悪言い過ぎた…」
「キラ…?」
「違うんだよソラ…君の言ってる事も、ちゃんと分かってるんだ。」
それこそ幼馴染の特権というやつで、
いつしか隣に居る事が当たり前になってしまった二人はまるで家族同然。
互いに互いを信頼し合っているからこその『安心感』。
そしてその関係を壊したくない一心でキラは数々の恋愛を繰り返すようになったのだ。
「ソラは駄目だから。少しでも似てる誰かを…って」
「え、・・・」
ソラに少しでも類似する彼女を求めて、
最初は容姿から始まって、性格や趣味、仕草、
全てはソラを求めて色んな人と付き合ってきたキラ。
「だけど違くて…僕の好きなソラはソラだけでどれも違うって…」
「・・・っ?!」
いくら容姿が似ていても、性格や趣味や仕草が似ていても、
それはソラではなく別の人。
結局はどれも長く続かずに付き合っては別れての繰り返し。
「バカだよ僕…」
ソラを抱きしめていた腕を開放すると
キラは苦笑しながらソラから身体を離した。
「キ「ごめんねソラ…」」
そしてソラがキラの名前を呼ぶと同時にキラから謝罪の声。
キラはそのまま立ち上がると出口に向かって足を進めるつもりだった…
だけどそれは頭の中だけで、実際は1センチも進んではいなかった。
それを阻止しようとソラがキラの手を掴んだから…
「ソラ…?」
きっと自分を軽蔑した。嫌いになったに違いないと思っただけに
正直、手を掴まれるなんて思いもせずに驚きを隠せないキラ。
戸惑いながらソラの方へ振り向けば、
そこには顔を赤く染めて必死で涙を堪えるソラの姿。
「キラのばか…私、ちゃんと言ったじゃん!」
ソラのキラの手を掴む力が緩まると同時に
ソラの瞳からは溢れた涙が重力に従って頬を伝った。
「キラの事…どう接したらいいか分かんなくなっちゃうって…!!」
確かに聞いた。
しかもほんの5分程前の出来事だったと思う。
「僕を男として見たら…怖い…って、思うん、でしょ…?」
確かにそうだ。会話の流れとか内容的に
ソラの言った言葉の意味は間違っていないはず。
キラはそう考えていたものの、肝心のソラの答えは違うらしく、
キラのバカ!鈍感!おたんこなすび!と怒り出す始末。
「私がいつキラの事なんか怖いって言ったのよぉ!」
「え、だってさっきの会話の流れ…から…?」
「私、キラなんてこれっぽっちだって怖いって思った事なんて無いんだからっ!」
バッカじゃないの?!と右手の人差し指と親指の隙間をキラに見せ付けるソラに
キラはポカン…と今の状況を理解するのに必死。
「何年一緒に居ると思ってんのよバカキラ!」
「む…それはソラだって同じじゃないか」
「キラがそこまで乙女心を理解できないって思ってなかったのよ。」
「乙女心なんて人それぞれだし、言ってくれないと分からない。」
「なによ、彼女いっぱいいたって意味ないじゃん!」
「ちょ、僕が何股もかけてるような言い方しないでよ!付き合った人数が多いだけだよ!」
「そんな自慢しないでよ!私へのあてつけ?!」
「違うし!てか、さっきまでの僕の話、聞いてた?」
「聞いてたわよ!私は駄目って勝手に決め付けて、私に似た人探してたんでしょ?!」
「勝手にって…!」
「だって、キラに好きとか付き合ってなんて一回も言われてないのに駄目って勝手に決め付けたじゃん!」
まるで小学生のような言い合いに、先に冷静を取り戻したのはキラの方。
キラはソラの最後の言葉に聞かずにはいられなかった…。
「じゃあ、告白したら、付き合ってくれてたの…?」
その冷静なキラの言葉に冷静さを取り戻したソラは
再び顔を赤くしながら俯き、小さく答えた。
「だって…普通、そうでしょ?意識したら、分からなくなるでしょ…?」
幼馴染として過ごしてきた時間が当たり前すぎて離れていても平気だったのに
「好き」と自覚してからは全然違う。
いつも気になって、離れている時間が惜しくて惜しくて仕方ない。
「好きって意識したら1分1秒でも長く、キラの傍に居たいって…キラが傍に居て欲しいって…」
やっと理解できた。
そのソラの言葉を聞いたキラはそう思った。
それと同時に夢にも見なかった事が目の前で起きた事に驚きを隠せない。
キラは今度こそとばかりにソラの手を引いて
その細っこいソラの身体をぎゅっと抱きしめた。
「傍に居てくれるの…?僕がソラの傍に居て…いいの?」
「今更離れられても…困るもん…」
「うん、これからもずっと一緒だよ」
自分の腕の中に閉じ込めたソラは
ぎこちなくも自分の背に腕を回してくれた事に更に喜びを感じるキラ。
「もう幼馴染じゃなくて『恋人』なんだよね、僕たち…」
「親達が知ったらどうするかなぁ?」
「いつかビックリさせてやりたいね」
クスクスと笑いあいながら
二人は開いた時間を埋めるように未来の話に花を咲かせた…。
(今更なんだけど、恥ずかしくなってきた…//)
(僕がソラの彼氏だからね。彼氏。)
(07.11.03)