氷龍の巣

レオが亡くなっていや、昇華してもう二年になる。彼の最期の贈り物は真実を映す氷。嘘偽りのものに向けると全て真実の通りに映すことが出来る。例えば幻影術で幻覚を見ている時も本来の風景を鏡のように映す。それなのにその氷は私に向けるとただの氷だったかのように何も映さない。不思議な魔力でいつまでも溶けぬ氷は彼の心のようだ。私のことを写したがらないのも彼が私を見つめるのが嫌いだったからではなかろうか。彼の魂が最期に残したこの氷は我が息子アギトを勇ましい龍として映し私を映さない。
「父上は私にこうなってほしいのでしょうか」
「かもしれぬな」
久しぶりに会いに来た息子が覗き込んで驚きながらも面白そうに氷をつつく。
「"真実"を映すのではなく正しい道を示してくれるのかもしれんな」
「父上はいつも頼もしかったですがとても心配性でしたからきっと私の身を案じて下さっているのですね」
あれから修行に励むアギトはパパ、パパとついてきたあのころとは比べられないほど逞しく、そして礼儀正しい子になった。まだまだ未熟だと謙遜する姿は正に親父に似ていて度々重ねてしまうほどであった。
「アギト、もう行くのか?」
「申し訳ありません父上。私は任務がありますので……また時間を作って逢いに来ます」
あの日以来人生の輝きを失ってしまった。レオと過ごした日々がもう帰ってこない。あんなにも楽しかったというのに。私は孤独で悲しくなり涙を流した。逢いたい。命を断とうかと何度も思った。しかし子供を置いて行けない。まだ若い息子2人を置いて逝くのはあまりにも可哀想なのだ。
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