ファンルミ

何をしているか、その自覚くらいある。私が正気を保っているなら止められただろうか。
少し前までエヴァン達と軽いパーティーのようなものをしていたのだが酔いだけでは説明のつかない状態になってしまい、仕方なくファントムと宿屋に来た。どうせファントムが趣味の悪い薬でも混ぜたのだろうが、理性が砕けかけていた私は酔っているとしか思っていなかった。
酔いと薬のせいだろう。体が重く動かない。それをいいことに好き勝手に私を弄るファントム。寝台に重く沈み込む私の体と、私に覆い被さるように上にいる憎らしい顔。一番の不満は、この行為ではなく、憎らしいほど綺麗な顔でこんなことをするファントムにある。女性に愛想を振りまく時と同じくらい綺麗な顔のまま、私に触れてくるのがどうも気に入らない。ただ、どれだけ不満だとしても今の私には押し返すだけの力も、口論をする思考力も無い。理性さえあればどうにかしてこの場から逃げられたのだろうが、それすらもできない。
無駄に綺麗で長く華奢な指が肌を這う。不愉快極まりない。何故よりによってこんな奴に触られなければいけないのか。本当は文句を言ってやりたい。だが、今口を開けば声を漏らしてしまいそうで。
「そんなに嫌そうな顔するなよ」
「嫌そうなんじゃなく嫌なんだ」
抵抗する気力が無いだけであって、行為自体許しているものではない。大量に飲まされた酒と、薬のせいで気力が消え失せていなければとっくの前に逃げ帰っているだろうし、触るのを許したりしない。第一ファントムと共に宿屋に来たりしないだろう。
「そんなに嫌か?気持ちよくしてやろうと思ってるのに」
「嫌だ」
そうだろうな、とファントムが苦笑いする。だからといってやめる気は無いらしい。私の肌を這い回る指は止まることなく動き続け、弄り、服を脱がしていく。その不快感に耐えられず顔を顰めながら身捩るがファントムは逃がしてくれない。それどころかその反応をたのしんでいるようだった。不快でたまらない。先程からずっと、なんでこんなやつにされなければならないのか、ばかり考えている。嫌なら逃げてしまえばいいというのに、何故私は逃げられない?
「さっきから何を考え込んでいるんだ?もしかして、俺のことか?」
「煩い、そんな訳無いだろう。気を紛らわしていたんだ」
ぷいと目線を外してため息をついた。やはり逃げるべきかもしれない。そう思った時だった。
「っ…………」
ファントムの指が胸の尖りを引っ掻いた。その瞬間に生まれた些細な感覚に息を詰まらせる。危うくなにか声を上げるところだった。急に何をするんだ。それは、なにかダメだ。
「ん?気持ち良かったのか?堅物クン」
「そんな訳あるか」
まさか、そんな訳が無い。ファントムなんかに触られたくらいで快感を覚えるはずがない。そんなこと、あってたまるものか。だが正直な所、快感ではないと言いきれない。それを認めたく無いだけなのだと、知っている。
「そうやって意地を張るから虐めたくなるのにな」
執拗に乳首を擦られビクリと跳ねる。意地でも声をあげまいと堪えるが荒くなった呼吸がバレる。
「本当に気持ちよくないならやめてもいいんだけどな」
「良くっ…ないっ……!」
ビクビクと体震わせて講義したところで意味が無いとわかってはいるのだが睨みつけてそう言った。認めたくない。
「少しは素直になれよ。薬、効いてきてるんじゃないのか?」
「薬で私を堕として楽しいか」
「普通に誘っても嫌がるだろう。素直に来てくれるなら薬なんか使わないさ。それに…」
「っ………!」
腰をグッと押し付けられ互いの熱が擦れる。体の奥に沸き起こる熱になんとも言えない感覚に身震いした。
「こんな気持ちを伝えたところで気持ち悪がるに決まっているだろ…?」
腰をグイグイと押し付けながら擦り続ける。薬のせいか既に硬くなった私のそれは過剰に反応し、体が熱くなっていく。ついに声を抑えきれず、吐息と共に零してしまう。
「はぁっ………あっ……!」
「なんだ、いい声出るじゃないか」
声を漏らしたことを指摘されてしまい、もう漏らすまいと固く口をとざした。が、すぐにファントムの指にこじ開けられてしまう。無理やり指を口内まで入れられかき回される。
「んぅう!?」
「勿体無いな…。いい声が出せるのに…」
指に口内を弄ばれ、自分の内側を汚されているようなその感覚があまりに不快で押し返して逃げようと試みた。しかし、力が弱くファントムはびくともしない。なんとか逃げようと身をよじってみたり、押し返そうとしてみたり突き入れられた指を噛んだりしていたがファントムは微笑んだまま私を弄んでいた。逃げきれず暴れていると下腹部に手を差し込まれピタリと固まってしまった。
「見るからに嫌そうな顔……しないでくれ。辛くなってくる」
「っ………………」
直に触られる感覚があまりに強烈で体の奥に溢れる切なさに似た何かが体を支配している。耐えきれずに声も吐息も漏らしていることには気づいていたがどうしても堪えきれず、逃げ場のない感覚を耐える方に気が流れていた。いつの間にか服はすべて剥ぎ取られており、自らの体に目をやればあまりにも恥ずかしい格好になっている。恥ずかしく、目を背けるが逃げることも体勢を変えることもできない。見ていては羞恥心に支配される気がして目を閉じる。
「ああ…泣くなよ………。そんなに嫌なのか?」
「な、泣いてなど…いないっ…!」
いつしか目が潤んでいたらしい。すぐに拭って睨むが見上げたファントムの顔は最初の時のような綺麗な顔ではなく悲しげに歪んでいた。その表情に驚き、私は彼の顔に手を伸ばしていた。
「何故……お前が、そんな…顔をするんだ………」
「仕方ないだろ。好きな人に拒絶され続けて、泣かれたら…辛くなってくるだろう?」
「………は?」
いま、彼は何を言った?理解出来ずファントムを見つめていた。
「なんて顔してるんだ。好きだって言ったんだよ」
言われれば言われるほど胸に痛みが広がる。何度も気持ちを伝えられるが理解できないのと同時に胸の苦しさを感じいつの間にか目から涙が溢れていた。
「私を……そんな目で、見ていたのか…」
「悪かったな。でも…こんなに綺麗な目をしたやつは他にいないだろう……?」
ファントムが私の目から溢れる涙を拭う。
「その瞳は何で出来ているんだ?宝石か?硝子か?……こんな綺麗な瞳、盗みたくてたまらない。勿論、お前ごと盗みたいんだがな」
降り注ぐ言葉が胸に突き刺さり痛みが広がっていく。下腹部は未だに熱を持っている。むしろ先程より熱くなっているような気がする。私を弄る指は止まっておらず、私の体は快感を求め始めていた。
「わ、私を…盗んでどうする…」
「盗んでどうする、か。愛するかな」
ああ、そうか。私は今口説かれているのか。先程からの胸の痛みは切なさのようだった。もし、今私から手を伸ばせばこの心は満たされるのだろうか。私が求めたとしたら、みたしてくれるのだろうか。
「馬鹿を言うな……」
いつしか私がファントムを引き寄せていて、彼の首元に顔を埋めていた。それは彼を「求める」行為である。薬のせいだろう。治めて欲しかったのかもしれない。それがどんな理由だとしても私が彼を求めた、その行為がファントムには嬉しかったようだ。
「嫌がっているのだと思ったのに…可愛いこと、するなよ」
「い、嫌だ…。だから…早く……終わらせてほしいだけだ…」
薬でもう、発情が止まらないだけで大変なのにファントムにあんなこと言われたらおかしくなるだろう。
「はいはい。準備はいいってことでいいよな?」
「なっ………!?」
いきなり秘所に指を押し込まれ身を強ばらせる。そのまま静かに中に入られる。普通なら痛いの行為が今は快楽と彼の思いが伝わってきて気持ちがいい。同時に恐怖もこみ上げてくるのだが彼に触れているだけで恐怖から満足感に変わっていく。
「あっ………ああっ…!」
「ルミナス…」
今だけ、少しだけ、ファントムに同情してあげてもいいだろう。押し付けられる熱は私より硬く、熱く、私に………。
「ふぁ、ファントムっ………」
「痛かったら言ってくれ…」
ファントムは待ちきれないと言わんばかりに窄みに熱を擦り付けてくる。それは私のよりも固く熱い。それが今から私の中に入るというのか…。想像しなかったらよかった。羞恥心で熱くなってくる。
「は、早くしてくれ……。恥ずかしくて沸滾りそうだ」
「せっかちだなぁ、全く。もっと前戯があってもいいだろ?」
「お前だって…待ちきれないんじゃないのか…?」
腰を押し付けられて堪らなくなってきている。こんな気分になるのは初めてだ。
「当たり前だ、……入りたい」
「馬鹿…そんなこと…言うな」
グッと熱を押し付けられる。そのまま真っ直ぐ見つめてくる。その眼差しはタイミングを見てくれているようだった。恐る恐る頷くとゆっくり押し込まれた。
「あっ…………んんっ」
「うぁ………熱いな…」
彼の熱は確実に奥に入り込んでくる。押し広げられる感覚が未知の感覚で顔を顰めるがすぐに快感で塗り替えられた。
「あっ…!駄目だっ…………!ファントムっ…!」
「ルミナス……もう、全部…入る……」
じわじわと入り込んでいた熱はもう深くまで潜り込んでいた。貫かれる圧迫感が凄くあったがそれよりも抱きしめられる幸福感の方が多い。ファントムなんかに抱かれているというのには未だに不満もあるが告白された上に口説かれて抱かれた、という時点でほぼ合意の上ということになる。逃げて拒絶していれば一方的だったはずなのだが。
「もう、動いていいか?ルミナス」
「っ…あ、ま、待て……!まだっ………!」
腰を力強く抱きかかえられてハッとなる。最後の覚悟は全くつかない。私が覚悟を決められずじっとしていると急に突き上げられた。
「んぁっ……!あっ、だ、駄目だっ…!」
「ごめん、もう俺が待てない」
強く奥を抉られるように突き上げられ、限界まで引き抜かれた。そこから深く突き上げる。それを何度も繰り返され何度も高い声を上げた。
「ぁ、馬鹿っ………!あっ……あっあぁ……!」
こみ上げる快感と激しく伝わってくる感情がめちゃくちゃに入り交じってもう思考が追いつかない。
「いいのか?ルミナス…?」
「んぅ……ああっ……!」
理性が無くて良かった。理性なんてあればファントムにこんなことされて正気でいられるわけがない。快楽に落ちるだけならまだしもファントムに抱かれているのだから相当だ。それでもこの幸福感と快楽は正真正銘ファントムが私に与えてくれている。今だけはファントムを求めてやってもいい。今だけは。
「…ふぁ…ファントムっ……!」
ファントムを引き寄せてゆるく腰を振った。それが今の私にできる最大の訴えだ。
「ルミナス………………。ああ、全部…あげようか」
「んぁっ………!あっあっ………!」
激しく責め立てられる。だがそれは優しい。こみ上げる快感が頂きへと導く。もう、私は耐えられない。
「も、もう………!駄目だっ………!ファントムっ……!」
「ああ、俺ももう、イきそうだ」
目の前がチカチカするほど快楽が押し寄せてくる。それは、最高の快楽で……。
「あ、ああっ……!あああっ!」
「好きだ、ルミナスっ…!一緒に……!」
きつく抱きしめられ奥で熱が弾けるそして私も………。














あの日以来ルミナスがこちらを見てくれない。当然のことだろうが謝罪すら出来ていないのはどうかと思う。せめて謝罪だけでもさせてくれるといいんだが。
そう思っていると目の前に光が見えた。ルミナスのテレポートか……?
「…………こそ泥、話がある」
「…。なんだ?堅物クン。俺に会いたくなってわざわざ訪ねてきたのか?」
そう言えばルミナスはあからさまに嫌な顔をしてこちらを見た。
「…あの日、忘れ物をした。イヤリングだ。私のイヤリングを見ていないか?」
「ああ、あれはお前のだったのか。素っ気ないイヤリングだと思った」
「あるなら渡してくれ。それを取りに……」
「ルミナス……、好きだ」
「きゅ、急に何を…」
「好きだ。その事は前にも言った筈だが答えを聞いていない」
「それは……」
「それは?」
「…………保留にしてくれ。もう少しだけ時間が欲しい」
「仕方ないな。もう少しだけ待ってやるよ」
「偉そうに……」
「まぁ、初めては盗めたからいいかな」
「ば、馬鹿……!それは……!」
「初めてのSEXは貰ったからな…次は初キッスか?さてはて何を頂こうか…」
「っ……!こそ泥…!覚悟しておけ……!」
「なんだ?堅物クン?やろうって言うのか?」

俺はそのあとちょっかいをかけてしばらく遊んでいた。
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