序章

「魔王様!勇者が門の前まで!」
 またか。私はため息をついた。今に始まったことではない。今の世は「魔王退治ブーム」と言っても過言ではない。それも「勇者」を問い詰めると必ず「報酬に目が眩んだ」「懸賞金目当てだった」という。たかがそれだけの為に首を狩られる私ではないがこうも連日だと気が滅入る。無意味な殺人はしたくないのだが。
「セバスティアーノはどうした?」
 彼は優秀な側役だ、今私の傍に居ないということは彼は門前にいるのだろうか。まぁいい。彼が深手を負うようなことがあれば勿論私が出るのだから。
「セバスティアーノ様は先ほど俺が行くから下がっていいといい残して門へ向かいましたが………」
「そうか、ならばいつものように弱い奴らだろう。あいつひとりで仕留められる敵だったか、もしくは………」
 心当たりなら少しばかりある。最近最も多くやってくる「勇者」。それが来たと考えるべきかもしれない。だとするとまたやかましくなる………。
「エスぴ~まぁたつかまっちった!」
「イグナーツ………」
 見慣れたくもない顔。それはオセロで言えば裏表、チェスの白と黒。交じり合わないはずの存在………だったはずなのだが…。
「な~ぁ、また、お金貸して?」
 私、グランパドスの魔王たる男は勇者に財布だと思われている。
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