消える運命

それは思い出したいつかの記憶。

「アールバンっ!」
上機嫌でスキップをしながら歩いてくるのは、上官のレフ。強くなるために入団した傭兵部隊の隊長だ。私のことを気に入っているらしい。
「何用かな?隊長?」
「なんでもないけど、その剣…変わってるなーって」
レフは剣を指さしてそう言った。
「ああ、我が剣が気になるか」
刀身も持ち手も飾りも全て黒い剣である。
「この剣はな、霊魂の剣『刻龍こくりゅう』と言うのだ」
その名を口にすれば、レフは驚き身構えた。
刻龍。それはギルティス神話の神が作らせた神器と言われ決して人が操ることが出来ない剣として各地に封印された7つの武器の1つである。死者の魂の具現化とされるこの剣は持つものを地獄に落とすという迷信がある。
「ほ、本当に?触れたら死に至るって…」
「それは迷信だ。なぁ?刻龍よ」
剣に呼びかければその剣から低い男性の声が響く。
「無論だ。しかし力が大きすぎる故受け切れぬものは死ぬ」
「え、剣が………」
「刻龍は生きる剣。主と認めてくれるまで粘るのは相当厳しかったぞ」
刻龍は意志を持った剣。機嫌が悪ければ切れ味が悪くなる。
「珍しいこともあるものだ…」
膨大な魔力を持つ私でなければ彼を抑え込めなかっただろう、と話した。刻龍を握りしめれば死者の魂が見える。刻龍で人を切れば、その魂を刻龍が喰らうのだ。しかし刻龍は悪霊の類では無い。魔力は凄まじく清らかで、扱いが難しい。性格も、面倒…なのだが。
「そんな剣を扱えるなんてやっぱりすごいんだ……、アルバンは」
「言っただろう?神龍の後継者だと」
私の膨大な魔力も相まって神龍との契約が済んでいない状態ではあるが、後継者には違いない。
「それでも、君が残念な神じゃなかったってことだろ?力を好き放題使う神だっているんだ」
「どうだか………」
先代、4代目の神龍である父を超えられる自信はない。魔力量は多いとは言え実戦で使えなければ意味が無いのだ。コントロール出来ずに暴発させてしまえば害悪でしかない。
「そんなに自信が無いのか?」
「父上は偉大だからな」
「そっか。でも…………」


レフにその後言われた言葉を思い出すことが出来ない。もう数千年前のことだから仕方ないかもしれない。彼は我に何を言ったのだったか…。

夢は淡く溶け、目を覚ます頃には忘れてしまう。レフ…本当にもう、君は、いないのか……?
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