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消える運命

苦しさと痛みで目が覚めた。私は持病がある。魔力統合欠陥症。自分の魔力と他者の魔力を体の中でうまく区別し、馴染ませることが出来ないため拒否反応が起き、全身に痛みが走る。それは慣れていた筈なのに……。今日は治まらない。爆睡する恋人を起こさないように足を引きずって保管庫を覗く。定期的にアルバン様が特効薬を煎じてくれている。それを飲めば和らぐはずだ。苦しさで目が眩み、全身は震えている。ロックもかかっていない箱を開けられない。力が入らない。今までこんなことは無かった。私は膝から崩れ落ち、箱を落とした。幸いアルバン様は起きていない。こんな姿を……見せられない。必死に小箱を開けて、中に入れられた丸薬を齧る。苦味と独特な匂いに顔を歪めて、それを飲み込む。体の震えは酷くなり、悪寒と痛みと苦しさで声にならない悲鳴を上げた。もがき、喘ぎ、暴れた。治まるまで、ずっと。
やっと収まり始めた頃には朝になりかけていた。荒い呼吸を整えている私はひとつの可能性に恐怖した。もう、長くないのではないか。最近はおかしい。持病も悪くなっていく一方だ。まともに歩けないし食欲もない。もし、そうだとしたら………。

「アルバン様、今日はでかけてもいいですか?」
「あ、ああ……構わぬ。遅くならぬようにな」

もし、もしもそうだとするなら、彼にどう言えばいい。私の我儘で彼を悲しませてしまう。それだけは………信じたくなかった。
かなり前にアルバン様は神官である私を不死にする契約を伝えてきた。神龍は世界に始まりと終わりを見るほど寿命が長い。だから添い遂げる人の為にそのような契約があるらしいのだ。しかし私はそれを断った。不死を手にしてしまえば生きる意味を無くしてしまいそうで。あの時受けていれば…きっと……こんな、事には…………。
私達が隠れ住む洞穴から少し歩いたところに森の医者という男が住んでいる。私の体が限界ならば、知りたい。どれほど持つのか。
「すみません、森の医者さん、レフです」
「君かどうした」
私は単刀直入に言った。もう、長くはないのか、治るのか、そして、残された時間が、どれくらいなのか。
彼は丁寧に私の身体を診て静かに言った。
「そうだな、ここで出来ることを全てやっても、生きれて1年、いや半年が限度かもしれない」
「そう…………ですか。半年…」
それはあまりにも短い。
「彼に………言うのか?」
「………考えさせてください」
後悔と恐怖とあと、あと何かで胸が苦しくなって涙が溢れてきて声を上げた。死ぬ……?私が……??彼を残して…私が。何を したら 彼 を 彼を 幸せにできる………?



泣き止んだ後ずっと、考えた。残りの時間を彼と有効に過ごすには、どうしたらいいか。

「アルバン様、お話しがありまして」
「ん?どうかしたのか?」
面と向かえば怖くなる。うまくはなせますように。
「あの、えっと………」
「レフ、言いたいことは纏めて言うのだ」
言わなきゃいけない。言わなきゃいけない。言わなきゃいけない。
「私、その…………」
怖い。死にたくない。言わなきゃ。怖い。言わなきゃいけない。
「えっと………」
死にたくない。苦しい。言えない。言わなきゃいけない。言わなきゃいけない。言わなきゃ……………言わなきゃいけない………。


「もう…………長くない、みたいなんです」
その言葉にアルバンは固まる。私はどっと涙が溢れた。これまでまっすぐ愛してくれた彼にこんなことを言わなければいけない日が来るなんて。どれだけ傷つけてしまうか、分かっていたはずなのに、彼に、甘えたくて覚悟を決めた。最後まで居てくださいと伝えたくて。ごめんなさい。
「……そうだったか。気づけず悪かった。無理をさせたに違いない。レフ…………」
力強い腕が私を抱き上げる。彼の体温が………
「あ、あるっ………ばんっさまぁ…………私、わたし……………」
優しいその体温は私の不安も恐怖も全部持っていった。
「わたしが、わがままな………ばかりに…………こんな……………こんな……」
「良い良いのだレフ。レフと過ごした時間があれば我は幸せだからな」
もっと長く。もっと近く。貴方と居られたらどれだけ幸せでしょうか。
この涙も、この痛みも……貴方と一緒に居れた時間も、消えてしまわないように。貴方と最後まで生きたい。










聞こえていないでしょうね。ありがとうございました。私は天に帰る前に貴方が元気になったところを見たいのでまだここにいます。刻龍には苦い顔をされていますが内緒にしてもらったのです。

どうか、そのまま前に進んでください。

貴方は、前向きなところが、1番素敵です。
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