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消える運命

「最後まで添い遂げたい。もう、私は長くは無いようだ」
寿命を超えて生きる嫁に、告げられた言葉だ。我も気づいていた。持病があるとはいえ近頃は寝込みがちだった。永く私といてくれたのだ。もう、欲を出すのも烏滸がましい。我が見届けてやろう。私はそう決めていた。だが、寝込みがちな彼を過酷な環境に置いておくのも些か気が引ける。そういえば孫の街は科学や医療、魔術が発展していると聞いた覚えがあった。これ以上延命がいらないが最期くらい暮らしやすい所に行くのもまた良しか。私は静まり返る洞窟の中で静かに口を開いた。
「レフよ、今日は遠出をしよう」
「アルバン様……?」
竜化状態で動かぬ嫁にそっと手を伸ばす。今日の私は出会った当時と同じ服を着た。あの頃のように剣を携え髪を結った。あの頃の若さはもうないが、共に行こう。戦友であり親友であり上官であり恋人の…レフ。
思い出せばヴォルロウ家当主である私が訓練を積むために傭兵隊に入団したのはもう一万四千年前か。私も年老いたものだ。
「何処へ………?」
よろりと揺らめき人化し、立ち上がるレフ。片手で支えそばに寄せる。
「言わぬ。あれである、”さぷらいず”でな!」
「サプライズですか…?」
「うむ。我についてこれば良い!」
レフは相変わらずですね、と笑う。
「無理はせぬよう我が背負おてゆくのでな」
「すみません……」
我嫁はいつこの様になった?かつては名高い剣士であっただろうに。あの頃の重さはない。筋力が落ちたのだろうな。時は本当に残酷であるな……。
「あの頃のように楽しく行こうではないか、レフよ!」
「……ああ、そうしよう…アルバン」
長くないのなら楽しめば良い。力が無いのならば支えてやれば良い。しかし、本当は、もう一度やり直したいものがある。

「なぁ、レフよ」
「はい、アルバン様」
山を降り草原を進んでいく。2人で下山したのはいつぶりか。だが、あの頃のように会話は弾まない。

「我が創造の神であれば元よりレフを不死に作ったであろう」
「それでは困りますね。別れも思い出でしょう」

そうか、そうも思うか。しかし我は辛いのだ。

「私が忘却の神であれば死を忘れさせるな」
「貴方の思い出は忘れたくありませんよ」

それもそうよな。我に一生を捧げるのだったか。

「我が……我が、生命の神なら……」
「はい」
「死を前にして、冷静に居れたであろうか…」
「アルバン……………」

生命の長である神。生命の生死を正当に保ち食物連鎖のバランスを保つ。それが我ら神龍である。我は嫁に何もしてやれんのだ。言えば殺すことしかできぬ。生命の神のように長く生きさせることも、治癒の神のように楽にしてやることも。
「我、初めて怖いと思うのだ」
「貴方にも恐れる事があるのですね」
失う事には慣れていた。親族も仲間も全て失ってきた。それでも愛する嫁が消えるというのは耐え難いことであって、阻止できるなら阻止したいのである。
「レフが神であれば、どうするか?」
「もし、ですか?そうですね………。時間を止めていたい、かも知れません」
「そうか、時の神という手もあったな」
もう何千年と生きてきて寄り添い、愛し合ってきたというのにいくら寄り添えど飽きも来ぬ。いつまでも我ら寄り添うつもりだったというのに寿命か。酷よの。
「もっと生きたい、ですよ。貴方と」
「阿呆、言うでない。泣けてくるだろうが」
我とて長く居りたい。しかし貴様はよく生きてきただろう?長寿の海竜であろう?もう、解放してやりたいとも思うのだ。辛かったであろうに………。我、本当に愛しておったのだ。だからこそ、最期は、幸せで居ろうな。
「ほれ、あの街だ」
「凄い、です。数千年ぶりに街なんて見ましたよ。随分ハイカラですね」
「そうではない。これが現代の平均の街と聞くぞ」
煉瓦造りの家が並ぶ美しい街、大通りには活気が溢れていた。数年前に行った覚えを頼りに歩いてみるが、見つからないので街往く女性に声をかけた。
「すまぬ、そこの女子おなご。騎士団本部はどちらだったかな?」
「騎士団本部ですか?この道を進んで、中央広場を左に行くと見えますよ!大きのでわかりやすいと思います」
「丁寧にありがとう。助かった」
前に来た時よりも賑やかになっている気がする。そうか、大通りと思ったこの道は後に追加された道なのか。あの頃は一本道だったものな。
「騎士団に何しに行くんですか?まさかもう一度修行でも?」
「戯け、そんな訳無かろうが」
我とてもう歳だ。そのような無理は出来ぬ。まあ、戦えばそこらの兵など蟻のようなものだが。
少し歩けば大理石の城が見える。騎士団本部だ。さて、孫は元気だろうかの。
「門番殿、我はアグレルに会いに来たのだが」
「は…………あ、アグレル様…ですか?少々お待ちください」
うむ?孫の兄の方がアグレルで弟の方がアシミルであったよな?2人揃って見たのは赤子の頃だった為に顔だけでは分からんのだよな。
「分からんのなら良い。王に謁見させよ」
「ですが…、それ相応の…」
いかにも初々しい門番に戸惑っているとレフが大きく息を吸うのを感じた。
「この御方は五代目神龍である。道を開けよ!」
覇気を持った一言で場は凍りつく。大声という訳では無いがよく通る声はよく聞こえるのだ。この声は当時よりさほど変わりがないように思うな。
「良い、レフ。人は見ただけではわからぬものだ」
「…失礼」
相変わらず門番は焦っており通れそうにはない、と思っていると奥から赤髪の女性が走ってきた。
「先代様………!!」
先代であると知っているならばきっと我が一族の子なのだろうが…はて、我の孫は女子では無い………。もしやあの儀式(※神龍伝承の儀式)をしてやったアシミルの子か?すっかり大きくなったものだ。あの頃はまだ幼さが残るものだったが女性らしい外観である。
「先代様。ご、ご無沙汰しております、8代目神龍、アリスで…ありま……す??」
「ふ、ふははっ、笑わせてくれるな。ひ孫位可愛い口を聞け」
しかし中身は変わらずか。ぎこちない敬語になっている。慣れない敬語を使うからそうなるのだと笑ってやれば恥ずかしそうに笑う。
「だ、だってパパが………」
「”パパ”には先代様と言わぬのに爺には先代様とな」
指摘すれば赤くなる。成長は身体だけか。しかし(見た目は)美しい女子になりよって。時は本当に早いものだ。
「あーこらこら、アリス。叔父上には敬語って……」
奥から歩み寄ってくるのは孫か。既に人としての生は尽きており龍の神として現界している。実体を持っているようだが神々しい羽根と身体に刻まれた紋様で彼が人の子では無い事が伺い知れる。
「随分と…盛った格好よな…?」
「叔父上、これ、俺が決めた格好じゃないんですよ」
やはり弟の方が友好的な態度を取るな。貴族には向かない基質だろうが我としてはやりやすい。
さて本題を切り出すか。
「アシミルでもアリスでも良いが頼みを聞けぬかな?」
「俺に出来ることならなんでも」
「我嫁はもう長くないのだ。出来れば良い環境に置きたい。部屋を貸してくれぬか?」
空気が切り詰めるのを感じる。そもそも嫁を背負ってきている時点でただ事ではないのだが。
「………。いい、と言いたいんだがちょっと偉いさんに聞かないとな…。アリス、百狐とレオ呼んできてくれ」
「は、はいっ!」
1番驚いた顔をしていたアリスは動揺しながらも建物の方へ走っていく。
「……本当ですか?叔父上」
娘が走っていくのを見送ったアシミルが小声で言った。娘を気遣ったのだろう。娘には甘い男か。
「ああ。このように歩くのもままならぬ。本人がそう言っておるしな」
アシミルは真剣な顔で我と嫁を見る。そのままじっと眺めていたがふと嫁に手を触れた。
「今の体調は…?」
「今は悪くありませんが…」
身体に触れ、恐らく魔力の流れを診ているのだろう。しばらく難しそうな顔をしたあと嫁を抱き抱えた。
「叔父上、少し医療班と合流して身体を診ていいですか?」
「ああ、構わぬ。我はここでアグレルを待てば良いか?」
はい、と大きく返事を返された。我は嫁に軽く手を振って見送った。そうだったな。孫は治癒魔法も使えるのか。そうだとして手遅れではありそうなのだが………。見送って軽い喪失感を味わっているとアシミルと行き違いになったであろうアグレルが走ってきた。先程走り去ったアリスも一緒だ。
「先代様っ!!先にアランが来ていた様ですが……?」
「ああ……我が嫁を診ると言ってな」
息を荒らげたアグレルに事情を説明する。
「なるほど……。空き部屋をお貸ししますのでしばらくはそちらでお過ごしください」
どうやら我の頼みを聞き入れてくれるようだった。ほっとした我はアグレル共に騎士団本部の中に入る。施設内の利用方法や内部構造などを説明してもらいながら部屋へと向かって歩いた。そこが嫁にとって最期の部屋になるのだろうか…。














───────これは昔の記憶だろうか。共に剣を振るい敵をなぎ倒す。互いに背中を預けなから。いつだって頼りになるその熱い背中。いつだろう。この……日は…………。

私は見慣れない部屋で目を覚ました。一瞬戸惑ったがすぐに思い出した。アルバン様に背負われやってきた街の大きな城で私の身体を診てもらっていた。その最中に眠りについてしまったのか。周りを見ると先程診察をしてくれていた魔族が見えた。私は、もうダメだと思うがもし治るのならアルバン様にそう伝えたい。もっと長く居れると、そう伝えたい。そう伝えられるなら、彼の悲しむ顔を見ないで済む筈だ。
「すみません…」
「目を覚まされましたか。気分は……?」
魔族の男性はすぐに振り返り私方に歩いてきた。
「悪くはありません。それで、結果は……」
「……貴方が思った通りでしょう。今私ができるのは延命治療だけです」
「………」
そうだろう。わかっていた。もう、ダメだと。持病の悪化が1番の理由だと思う。高度な医療でさえ私の運命を覆せないなら、大切にしてくれる人の元で幸せに死にたい。魔族の医者が延命治療を説明してくれたが私はそれを拒んだ。アルバン様に辛い思いをさせたくない。私が苦しめば彼はつらそうにするから。そして病室から出る許可を無理矢理貰って、教えられた部屋までふらつきながら歩いた。
アルバン様に今すぐ…会いたい。
少し歩くと教えられた部屋番号が見えた。あそこか。久しぶりに歩く私の足は言うことを聞かない。それでも自分で歩くというのはやはりいいものだ。即席で書かれたであろう表札にアルバンと書かれた部屋のドアをノックする。
「どなたかな?」
「私です、アルバン様」
声をかければ慌てたように駆け寄る足音共にドアが開いた。
「レフ……!?歩いてきたのか……!?」
「ええ、少し歩きたくて」
開かれたドアの向こうにいたアルバン様は私を見て驚いた顔をした。そして腰のあたりを支えてそのまま寝台に寝かせる。
「大丈夫か?疲れてはいないか?」
いつからアルバン様は過保護になったのだろう。あの頃のように、戦友として対等に話したいと言う私の願いはどこにも届かない。
「ええ。…………アルバン様、お一つだけ最期にお願いをしてもいいですか?」
もう明日も生きられないかもしれない。今眠りについたらもう二度と目を覚まさないかもしれない 。だから、最期にお願いを聞いてほしい。
「構わぬ。云え」
「最期に、貴方と交わりたい」
最期でいいですから。1度でいいですから。それさえしてくれたならば心残りなく天に昇れますと伝える。今の体に無理であることは理解している。自殺行為かもしれない。
「レフ………。だ、だが……身体が…………」
「わかっています。でも貴方に愛されたい」
アルバン様は実に慎重で私がしたいと言っても中々してくれ無かった。それでも抱いてくれる日は熱く激しく愛を伝えて下さった。あの熱情をもう一度私に下さい。我儘であることは承知の上です。
「…レフ。我は本当に好きだ。だからこそその願いを聞き遂げる。ただ、少し待ってな…」
「ええ、私はここに居ますから」
彼は私に背を向けて肩を震わせる。…泣いているのですか?私だってもっと長く居たかった。貴方と離れたくなどない。
私そっと目を閉じて待った。抱いてくれるのを。


「レフ……?抱くぞ?」
しばらく目を閉じていると耳元に降り注ぐ言葉。じんと耳から痺れていく。待っていたのもあるのだろう、下半身に熱が集まっていく。久しぶりだ、こんな気分は。
「はい、アルバン様」
「今はもう、様は要らぬ。昔のように馴れ馴れしくて良い」
アルバン様の指が身体中に這わせられる。撫で回され甚振られる。服を脱がし、私の肌を舐める。…あの頃のように。
瞳から溢れた涙が頬を伝う。もっとずっと側に居たい。痛い。いたい。
「泣くな、レフ。泣くでないわ…」
顔を上げればアルバンも泣いていた。私はこんなに愛されていたんだ。いや、愛されているんだ。
「あ、アルバンっ……!今日は激しく抱いて欲しい…二度と忘れないように……無くさないように……」
泣いているから声が上擦って変な声になる。それでも今日は激しく抱いて欲しい。絶えず涙を流しながらアルバンに抱きついた。
「この我儘め。痛い目を見よ…」
アルバンの声も震えている。目を赤くして泣いている。泣き顔に気を取られていると私の性器を強く握られる。その刺激は衰えた身体にも性感をもたらし、激しく身体を震えさせた。
「っあぁっ…………!」
「まだ、若いのではないか………っ?」
正直にいえばアルバンの強力な魔力を浴びており、身体の見た目は相当若いのだが寿命は寿命である。感覚もそこまで衰えていない。だからそれを強く擦られてしまえばはしたなく声を上げ感じてしまう。思い出はどんどん溢れてきて、それと同じだけ涙も止まらない。快感も、止まらないが。
「ああっ……!アルバンっ…!」
もう理性を壊して。何も考えられないようにして。そうしたらきっと気持ちよくなれる筈だ。理性など壊れてしまえばこんなに胸が締め付けられる痛みを感じないで済みそうなのに。
「久しぶりに興奮している……。もう、こちらにいいかな…?」
アルバンの指が窄みに触れる。そこは私が1番感じやすい場所。ゆるゆるとなぞられるだけで欲しくなる。そして腰を振ってしまった。
「ほう……良いのだな…?」
「あっ…あぁ……あぅ…」
窄みに熱が触れる。彼の熱だ。熱い。もの欲しさに腰を振って彼を見る。彼は涙を浮かべながら私の顔を見つめていた。
「望みのものは、これ、か………?」
「っ…………!」
窄みに触れていた熱はぐっと押し込まれ中へと侵入してくる。私のナカは欲しがりすぎて貪欲に性感を貪る。彼のそれが軽く触れるだけで軽く絶頂し、押し付けられれば空イキする。快感に思考は一気に溶けた。
「あぁあぁ……あんっ!あっいいっ……イイっ……!」
「んっ…熱いな…。我が先に逝きそうだ…」
全て収めきると彼のそれが中を抉るように動く。それは確実に私の前立腺を穿っており快感で目の前がチカチカする。その状況でも自ら腰を振っていて快感は止まらない。
「んんーっ!っあ!」
「ば、馬鹿………締めるな…!果てたらどうする気だ!」
無論絞り尽くす。枯れるまで飲み干すだろう。
締め付けを強くしていると腰を強く握られ、彼が本気になったことを悟る。ああ、やばい。凄いのが………くるっ!
「ひっあっ!あっ!あんっ」
「全く………優しくして、やろうとっ…思って、おった、のにっ…!」
激しく突き上げられずるりと抜かれ、抜けるぎりぎりまで引いてからまた奥まで強く貫かれる。快感は制御不能で私の声は抑えられない。先走りで己の腹部を濡らし、はしたなく口を開けたまま彼の名を叫ぶ。
「あ、あるっ…アルバンっ!アルバンんんっ!あるばぁ……んっ!」
「レフっ……!レフっ…………!!」
互いに限界でヒートアップする行為。抜き差しは激しくなり我慢の現界である。
「も、もう……!アルバンんっ……!いっくぅ……!」
「ああ!果てよ!淫らに果てる顔を我に見せよ……!」
1番感じるところを強く穿たれ私はイッた。快感が強すぎてイクのが止まらない。何度も熱を吐き出し彼と私を汚していく。彼もすぐに果て、中に熱を放った。気持ちがいいが、足りない。もう一度と強請るように抱きしめた。
もう最期なのだからもっと。もっと下さい。貴方の愛を。




その晩。私はずっとアルバンを求めた。最後でいいから、そう言い訳をしながら。



その日以降体調も相まって外に連れ出せるのはほんの数時間程度で、街も見て回れない。それでも、我は共に行きたい場所があった。

「アルバン様、ここは?」
「かふぇだ。喫茶店とも言う」
スレヴ王国騎士団でデートスポットになっているというカフェ。レフは甘味が好きだったから少しでも食べられないかと思い孫に聞いてきた。店員に促されるまま席の方へ歩き、車椅子のレフを椅子へと座らせた。席には色々なお品書きが置いてあるが、レフの食事量から考えると多そうなものばかりだ。物色していると見た目も華やかなぱふぇやらぱんけーきやらが映るお品書きを見つけ、レフに見せる。
「わぁ…!すごく美味しそうですね。………こ、これ、ど、どれを選んでも………?」
「嗚呼、好きに選べ」
我は無難に珈琲と軽食にする事にした。今多く食べたところで晩飯が入らん。何千年も山で生肉を貪り食っていたからというのもあるのだろうが街の食事は美味である。つい食べすぎてしまうので、気をつけなければならないと思っている。
「で、ではこれがいいです…!「ストロベリーアンドチョコレートミックススペシャル」がいいです」
「お、おう。気に召すものがあって良かった」
なんだ、それは。呪文か。みっくすですぺしゃるな呪文か。最近のものはわからんな。我はさっぱりわからんので呼び鈴を鳴らし、駆け寄った店員にレフから注文を言わせた。続いて我も注文を済ませ、ふとレフを見ると子供のように目を輝かせて未だにお品書きを見ている。昔は、いつもこうだったな。甘味処で甘い物ばかり食うから「飯を食え」と言えば「これが主食」です等と意味の分からんことを言っていたか。懐かしい。我はその話題を切り出し、注文の品が届くまで思い出話をした。出会った頃の話、婚姻を結んだ時の話、共に戦った時の話。どれも懐かしく、しかし昨日のことのように思い出される記憶だった。長かった。今まで、本当に楽しかったとレフと笑いあった。
注文の品が届けば尚目を輝かせ、嬉しそうに笑う。こんな彼を見るのは久しぶりだ。見た目も綺麗に飾り付けられているためどこから食していいやら悩んでいるようでキョロキョロとしている。そうだと思えば美味しそうに頬張り笑みを見せる。そんな彼を眺めながら珈琲を啜り、サンドイッチを食した。レフは一口一口、輝かしい笑みを見せ大切そうに少しづつ食べていく。いつもならあまり食べないレフが、大きなパンケーキをぺろりと食べきったのは驚いた。甘味好きにはやはり別腹というものがあるのか。食べきったあと、飲み物を頼み、昔話に花を咲かせた。どれくらい話していただろう。あまりに帰りの時間が先日より異なるということで慌ててやって来た孫に、帰りましょうと言われるまでずっと話していた。帰り道も笑い合いながら歩き、騎士団本部の1室へと戻った。今日は本当に楽しかった。ありがとう、レフ。そう言えば私こそありがとうと微笑みを返される。きっとこれこそが幸せなのだろうな。今日は、よく眠れるだろう。レフは……目覚めないかもしれない。その不安すら忘れて。










あれから数日。我は医務室に呼び出された。「危篤」だと言われ走ってきた。医者は揃って延命治療をするか問うてきたが全てを断り彼の手を握る。
覚悟をしていたはずだった。しかし先日はあのように元気だったから信じられない。もう1度行こうと言ったのに何故、なぜ…………。目から涙が溢れ、零れ落ちる。逝かないで欲しい、しかし無理をさせてまで生かしてはおきたくないのだと訴えた。もっと美味な甘味を食べに行こう、もっと美しいものを見に行こう、もっと我と笑おう、そんなことをレフに言うがレフは動きもしない。
もう、ダメか。諦めかけたその時。
薄らと開いた口が訴える。
「───好き」
ああ、私も好きだ。愛している。叫ぶように伝え続けて彼を見つめる。何度言っただろう。何度も何度も繰り返し伝えていると虚しく響き渡る機械音。心停止の音。
「レフ!レフっー!!」
我は取り乱すように名前を呼び、愛を叫んだが、帰ってくることは無かった。取り乱し泣いた。叫び、名を呼び、泣いて疲れてしまったころ病室にそっと花を置きに孫が来ていた。情けなく孫に支えられながら自室へと戻り寝台の上で泣き明かした。まだ、一緒に居たかった。

1万と長い時の間我といてくれてありがとう、レフ。お疲れ様だ。先に眠るといい。我はもう少し楽しんでから登るから。その時まで、待っていてほしい。いいかな?レフよ?我と逢えぬのは辛いか?ただ、必ず愛に逝くから待っていてほしい。その時まで愛しているから。

また

逢おうか。
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