フリ隠月
◆書き下ろし
「お帰り、隠月」
その言葉だけでどれだけ救われただろうか。ほかの誰でもない君に、フリードに覚えてもらっていたことがどれだけ嬉しかっただろうか。涙があふれて止まらない。今までの苦痛も全部消え去るくらい満たされて零れ落ちる。きっとそうだ。私の存在を完全に消し去ることなどできはしない。ランが私の記憶の断片を抱えていたように。
「君がどんな人だったか思い出せなくてごめんね」
「いいんだフリード。覚えてくれているだけで」
記憶に私がいるだけでいい。その名前だけでもいい。存在だけでもいい。君の記憶に私がいるだけで私は嬉しいよ。溢れ出る涙を堪えて笑って見せた。
「辛かったよね、ごめんね」
辛かったと言えば辛かったがこれは私が選んだ道なのだから受け止める覚悟はある。
「少しは辛いけれど皆が死んでしまう痛みよりは辛くない。でも思い出が消えてしまったのは寂しいとは思う」
フリードもフリエンも守れなかったけれど。みんなが苦痛を受けるくらいなら私一人でいい。そう思ってしまうから。駄目だとは分かっているがこれでも少しは前に進んだんだよフリード。もう“守りたいものがいない”なんてことは言わないだろう。ともに戦った仲間たちと、コンコン村の皆を守りたいから戦おうと思えるようになった。その為の痛みなら喜んで受けるさ。
「もう一度彼らと作っていけたらいいね」
「フリード、君は?」
「申し訳ないけれどこの僕は思念体だし、きっと本体はもうこの世にはいないと思うよ」
「そんな・・・・」
せっかく会えたと思ったのに。元々体の強いやつではなかったけれど、そうだとは信じたくなかった。きっとどこかで生きていると、もう一度君に会えると思いたかった。
「ごめんね」
「謝らないでほしい。それは君のせいではないから」
辛いのは私だけではないしフリエンの最期を知った彼だって今は辛いはずなんだ。
不意に髪を撫でられた。フリードだ。心地いいのだが仲間の前であまりこういうことはやめてほしい。
「フリード!皆が居るからここでは・・・・・」
精霊のようにふわふわと浮かぶ彼は昔と変わらない笑顔でそっと口づけをする。
「大丈夫、皆には見えていないよ」
何か魔法でも使っているのだろうか。周りの仲間たちには私たちが見えていないかのように・・・・。
「最後かもしれないから少しくらいいいだろう?」
「ふ、フリード・・・・・っ」
フリードの優しい手のぬくもりを感じる。実体はないのだろうが彼のぬくもりは間違いなくこの身に感じている。
「んちゅ・・・・んうぅ・・・」
フリードに身を任せて目を閉じる。唇が交わって熱を持った。夢か現か幻か、私にはどうでもいい。きっと彼にとってもそう。欲張らないキスはすぐに終わって、少し寂しくなって見つめるとフリードは苦笑いをしてごめんねと言うのだ。
「隠月、君はこれから先も辛いことがたくさんあると思うけれどそんなときには僕を思い出して。いつでも力を貸してあげるから」
彼が魔法を唱えると温かい力が体に染み込んでいく。これが君の想いなんだろう。
「君に会えてよかった。本当に」
「ありがとう隠月」
彼と話したのはたぶんほんの一瞬だったと思う。その時間が私をどれだけ勇気づけただろうか。夢から覚めたようにその時間は終わっていて、忘れていた仲間たちの声が聞こえた。
フリードに言いたいことはたくさんあるがそれは同じ場所に行ってからにしよう。君が私にくれたものそれを大切にして君に会いに行くから。決意を胸にしまい込んで笑顔で見送ることにした。
「お帰り、隠月」
その言葉だけでどれだけ救われただろうか。ほかの誰でもない君に、フリードに覚えてもらっていたことがどれだけ嬉しかっただろうか。涙があふれて止まらない。今までの苦痛も全部消え去るくらい満たされて零れ落ちる。きっとそうだ。私の存在を完全に消し去ることなどできはしない。ランが私の記憶の断片を抱えていたように。
「君がどんな人だったか思い出せなくてごめんね」
「いいんだフリード。覚えてくれているだけで」
記憶に私がいるだけでいい。その名前だけでもいい。存在だけでもいい。君の記憶に私がいるだけで私は嬉しいよ。溢れ出る涙を堪えて笑って見せた。
「辛かったよね、ごめんね」
辛かったと言えば辛かったがこれは私が選んだ道なのだから受け止める覚悟はある。
「少しは辛いけれど皆が死んでしまう痛みよりは辛くない。でも思い出が消えてしまったのは寂しいとは思う」
フリードもフリエンも守れなかったけれど。みんなが苦痛を受けるくらいなら私一人でいい。そう思ってしまうから。駄目だとは分かっているがこれでも少しは前に進んだんだよフリード。もう“守りたいものがいない”なんてことは言わないだろう。ともに戦った仲間たちと、コンコン村の皆を守りたいから戦おうと思えるようになった。その為の痛みなら喜んで受けるさ。
「もう一度彼らと作っていけたらいいね」
「フリード、君は?」
「申し訳ないけれどこの僕は思念体だし、きっと本体はもうこの世にはいないと思うよ」
「そんな・・・・」
せっかく会えたと思ったのに。元々体の強いやつではなかったけれど、そうだとは信じたくなかった。きっとどこかで生きていると、もう一度君に会えると思いたかった。
「ごめんね」
「謝らないでほしい。それは君のせいではないから」
辛いのは私だけではないしフリエンの最期を知った彼だって今は辛いはずなんだ。
不意に髪を撫でられた。フリードだ。心地いいのだが仲間の前であまりこういうことはやめてほしい。
「フリード!皆が居るからここでは・・・・・」
精霊のようにふわふわと浮かぶ彼は昔と変わらない笑顔でそっと口づけをする。
「大丈夫、皆には見えていないよ」
何か魔法でも使っているのだろうか。周りの仲間たちには私たちが見えていないかのように・・・・。
「最後かもしれないから少しくらいいいだろう?」
「ふ、フリード・・・・・っ」
フリードの優しい手のぬくもりを感じる。実体はないのだろうが彼のぬくもりは間違いなくこの身に感じている。
「んちゅ・・・・んうぅ・・・」
フリードに身を任せて目を閉じる。唇が交わって熱を持った。夢か現か幻か、私にはどうでもいい。きっと彼にとってもそう。欲張らないキスはすぐに終わって、少し寂しくなって見つめるとフリードは苦笑いをしてごめんねと言うのだ。
「隠月、君はこれから先も辛いことがたくさんあると思うけれどそんなときには僕を思い出して。いつでも力を貸してあげるから」
彼が魔法を唱えると温かい力が体に染み込んでいく。これが君の想いなんだろう。
「君に会えてよかった。本当に」
「ありがとう隠月」
彼と話したのはたぶんほんの一瞬だったと思う。その時間が私をどれだけ勇気づけただろうか。夢から覚めたようにその時間は終わっていて、忘れていた仲間たちの声が聞こえた。
フリードに言いたいことはたくさんあるがそれは同じ場所に行ってからにしよう。君が私にくれたものそれを大切にして君に会いに行くから。決意を胸にしまい込んで笑顔で見送ることにした。