1章

「いかん!来てはならん!」
ネルス王がラスレンに気付いて叫んだ。

「助けに来たんです!俺も戦います!」
来るなと言われても、ここまで来たからには引き返すわけにはいかないラスレン。

「おや?貴方は何の用ですか?」
眼鏡男レフィードが、取り繕ったような笑顔でラスレンを見た。

「俺は…」
「英雄に憧れている、ただのドジな見習い兵士だ」
ラスレンが喋りだすと急にモーリムが口を挟んできた。

「なっ!?モーリム王子!?」
突然何を言い出すのかと思った。

モーリムはネルス王に目で合図を送り、ネルス王もその意味を理解したのか、目で合図を返した。

「私達なら大丈夫だ。まもなくソルゴ達がここに来るだろう。お前は戻って兵士や町の人々を助けるのだ!」
ネルス王が急ぐように話す。

「なぜですか!?俺がここに来たのは…」
「ネルス様!モーリム様!ご無事ですか!」
唐突にラスレンの後ろから聞こえてきたこの声は…

「ソルゴ隊長!」
ラスレンが振り返るとソルゴ隊長が立っていた。
その後ろには上級兵士たちが数人いる。

戦闘を繰り返してきたのか体のあちこちに傷があった。

「あいつらの強さは並大抵ではない。お前が戦っても勝てる見込みはないだろう」
ソルゴ隊長はラスレンの方を見て冷静に言った。

言われてみればその通りだ。
たった三人だけで兵士達をここまで追い込んだ相手なのだから。

それでも俺は…!

ラスレンが剣を構えようとするとソルゴ隊長がそれを左手で制し剣を下ろされた。

「自分の力量を見極めて退くことも場合によっては必要だ。返り射ちに合い命を落とすことになりかねないぞ」
ソルゴ隊長は重い口調で注意する。

ラスレンの実力を知っているからこそ言うのだろう。

ラスレンが加勢したところで足手纏いにしかならないということを。

「お前には守るべき者達がいるのではないか」
ソルゴ隊長のその言葉を聞いて、ラスレンの中にみんなの姿が思い浮かんだ。

弟のシャーク。
友人のルディク。
妹のヴィリー。
母さん。

「あいつらは私達にまかせてお前は行くんだ!」
ソルゴ隊長が侵入者たちの方を向き戦闘態勢になった。

「はい!わかりましたソルゴ隊長!」
ラスレンははっきりと返事をした。


俺の守るべき人達。

シャークは街の人達と避難しているだろう。

ヴィリーも母さんと一緒だ。

ルディクは…!
あいつのことだ、魔物を倒してこっちに向かっているかもしれない。

行こう!

みんなを助けるために…

今の俺にできることをやるんだ!

ラスレンは玉座の間から走りだした。

――
9/11ページ