1章

ラスレンは町の中にある一軒家のドアを開く。

「ただいま。今帰ったぞー」
ラスレンは家の中に入った。

「お帰り兄さん」
小柄で痩せた弟シャークがラスレンを迎えた。

「その傷、また転んだの?」
シャークはラスレンの左腕の擦り傷に気付く。

「ああ、ちょっとな。まっ、たいしたことないさ」
ラスレンはさっぱりとした口調で言った。
「まったくドジだなぁ兄さんは」
シャークは微笑した。

転んだりどこかにぶつけたりして傷ができるラスレンを見るのは、いつものことだった。


二人は居間に入った。

「あれ?ヴィリーと母さんはいないのか?」
ラスレンはシャーク以外は誰もいない気配に気付く。

ヴィリーはソルゴの娘で、ラスレンとシャークの義理の妹。
母はソルゴの妻で、養母だった。

「今日は親戚の家に泊まって、明日帰ってくるって言ってたよ」
シャークが答えた。


二人はテーブルの近くにある椅子に座っていた。

シャークはラスレンの傷を消毒している。

ラスレンは、今日ソルゴに言われたことをシャークに話した。

「兄さんは聖剣が持ちたくて強くなったの?」
話を聞いた後、シャークが質問した。

「ああ。俺は聖剣を使いたい!そのために今までずっと頑張ってきたんだ」
ラスレンは自分の思いを強く口にした。

「じゃあ、どうして聖剣を使いたいの?」
子供心なのかシャークは更に質問した。

「それは俺が英雄の子孫…っ…。いや違う!俺が聖剣を使いたいのは…」
英雄の子孫だからというそれだけの理由ではなかった。

しかし、ラスレンは本当の理由をはっきりとした言葉に表すことができない。

「兄さんごめん。難しいこと聞いちゃったかな…」
答えに困る兄ラスレンを見てシャークは謝った。

「いいんだシャーク気にするな。これは俺自身のことだからさ」
ラスレンは優しく弟シャークに言った。

――
 
その夜、ラスレンは自分の部屋のベッドに寝転がり考え事をしていた。

「今日はなんかついてないなぁ。ソルゴ隊長にはキツイこと言われるし、モーリムのヤローにバカにされるし、おまけにつまづいて怪我しちゃうし…」

モーリムの事に関しては腹が立っていた。
顔を合わせる度にラスレンを不快にさせるような事ばかり言ってくる。
いい加減うんざりしていた。

「いや、こんなことを考えている場合じゃない。真の力…真の力…」
気持ちを切り替えてソルゴに言われたことを考えようとするが。

いくら考えても答えは見つからない。

モーリムに言われた事が頭をよぎる。

聖剣レクレヴァスを持てない自分。

悔しさと焦り。

「あー!やめだやめ!明日だ明日!今日はもう寝るっ!」
ラスレンは勢い良く布団を被った。

――
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