1章

封印の間へ急ぐラスレン。

走っているうちにだんだんと人影が見えるようになってくる。

シディエスが体格のいい男と戦っていて、その後ろの方でシャークが見守っていた。

「シャーク!!」
ラスレンはシャークに届くくらいの大声で呼んだ。

…その時。
不意に鋭い何かが襲ってくるのが見え進行が妨害され、ラスレンはとっさにそれをかわした。

その隙をつかれたラスレンの前に素早く廻りこんだのは、剣を持った橙髪の少女だった。

「ふふっこんにちは」
少女はニッコリと挨拶する。

相手の顔を見てラスレンはハッとなり、
「あーっ!お前はさっき玉座の間にいたヤツだな!」
ラスレンは気付いた。
確かサフィヤと呼ばれていた少女だ。

「あっちにいても私の出番があんまりなくてつまんなくてさぁ、こっそり抜け出してきちゃったのよ」
今のサフィヤの態度を見ると、まるで近所にいる女の子のようだ。

「ジャマするな!そこをどけよ!」
ラスレンは早くシャークの所へ行きたかった。

「やだって言ったらどうするの?」
サフィヤはニヤリと笑う。

「もちろん強行突破に決まってるだろ!」
ラスレンは迷いもなく速答した。

「その前にひとつ聞いていい?」
「何だ?」
ラスレンが聞き返すと、サフィヤはシディエスの方に顔を向けた。

「あそこで戦っている美形剣士が英雄の子孫なのかしら?素敵な方よね~」
サフィヤはシディエスに見惚れているようだ。

シディエスは整った顔立ちをしているため、女性から人気があり、ファンがいるという話を聞いたことがあった。

「…なぁ~んてね。だって英雄の子孫ってあなただもんねっ」
サフィヤは人差し指をビシッとラスレンに突き付けた。

「ち、違う!俺は英雄に憧れているだけのドジな見習い兵士だっ!」
ラスレンはとっさにごまかすが、自分で言ってて虚しく感じた。

「ぷっ、英雄の子孫のくせにドジなんだ。へぇ~」
サフィヤは明らかにバカにしている。

「ドジはよけいだ!それはあいつが勝手に言っただけで俺はれっきとした英雄の子孫…っ…!」
ラスレンは慌てて口を閉じるが、既に遅い。

「やっぱりあなたね。英雄の子孫クン」
確信したサフィヤはきっぱりと言い放つ。

し、しまったぁー!

相手の言い様に流され、自分で墓穴を掘ってしまった。

「あ~あ、英雄の子孫の外見を聞き出す時に、兄は金髪でエメラルド色の瞳をしてるって言うから、美青年で爽やかなお兄さんを想像してたのに…まだこんな子供だったなんてね」
ガッカリした表情をするサフィヤ。

「期待はずれで悪かったな!これからもっとカッコよくなってやるさ!」
ラスレンは悔しそうに言い返すが、なんだか勢いだけになってしまった。

「ふぅ~ん?まっせいぜい頑張れば。金髪美形になるにはまだまだ遠いけどねぇ」
サフィヤがからかうような口調で嘲笑を浮かべる。

「俺はお前みたいなタイプは好みじゃないけどな」
ラスレンは、見下すようなサフィヤの態度に苛立ち、反撃の一言を発した。
まあ、サフィヤが可愛い顔立ちをしているのは認めるけど。

「あっそ、だから?あんたみたいにそんなことでいちいち腹を立てているようなオコサマには興味ないわ」
サフィヤはあっさりと切り捨てた。

「こ、こいつ~っ!」
ラスレンの怒りが更に上昇してきた。

「ふぅ、子供の相手は疲れるわ、早く片付けちゃおうっと」
サフィヤは呆れた顔でため息を吐き、持っていた剣を構えた。

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