1章

ラスレンが城の中を走っていると、向かい側から一人の兵士が血相を変えながら走ってきた。

「ラスレン!大変だ!」
「どうしたんですか!?」
兵士の慌てぶりからして黙ってではすまされない話だろうと思い、ラスレンは聞き返す。

「シャークが英雄の子孫だと敵に知られ狙われている!シディエスさんが敵と戦っているがなかなか倒せないらしいんだ!」
兵士は焦った様子で言った。

「なんだって!?シャークが!?」
話を聞いた途端、ラスレンはいてもたってもいられなくなった。

それに、副隊長のシディエスさんまで苦戦しているなんてどんな強者を相手にしているのだろう。

「場所はどこですか!?」
ラスレンは早く行かなけばという気持ちに駆り立てられる。

「聖剣がある封印の間の方に…」
「待ってろシャーク!助けに行くからな!」
兵士が答えた直後にラスレンは駆け出した。

敵の狙いはレクレヴァスだけじゃなくて英雄の子孫もだったのか!

「…!」
ラスレンは、さっきのモーリムの言葉の意味に気付いた。

“英雄に憧れているただのドジな見習い兵士だ”

俺が英雄の子孫だということを敵にバレないようにうまくごまかしくれたのか。

俺が狙われていることを知っててあいつは…

ネルス王やソルゴ隊長も俺をあいつらから遠ざけようとして下さっていたのか。

みんな俺を守るために…

これほどまでに、自分達の存在が重いものだったなんて、深く考えたことはなかった。

豪華な屋敷に住んでいるような金持ちではないし、ましてや貴族や王族でもない。
剣や魔強化の力は努力を重ねて身につけたもので、天才でも超人でもない。

だから、他の人と何も変わらないと思っていた。

自分達がそれほど特別な存在だとは思っていなかったのかもしれない。

英雄の子孫だという自覚が足りないのだろうか…


ーー


聖剣レクレヴァスが安置されている封印の間。

封印さえ解かなければレクレヴァスが持ち出される心配はない。

その封印を解く方法はラスレンもシャークも知らなかった。
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