第4章

二人を包んでいた黒い霧が、辺りに吹き荒れた。

黒い霧が晴れ、カシルの姿が見える…

そこで目にした光景は…


エリレオは何も聞こえない…

瞳に色はない…


さっきまでカシルは喋っていただろう…

なぜ…倒れている…?

早く起きるのだカシル…


エリレオは、衝撃的な出来事を直視してしまったせいで精神が錯乱状態に陥っていた。


「さて、用は済んだ。帰るか」
紫服の男の声がエリレオの耳に聞こえた。


途端に沸き起こる激しい感情ーー

それは憎悪ーー


「貴様ぁーっ!!」
エリレオは叫び声をあげ、紫服の男に攻撃をしかけた。

「煩わしい」
紫服の男は軽く剣をかわした。

「よくもカシルを!!僕の友を…っ!!」
怒りで我を忘れたエリレオは攻撃を止めない。

なんとしてでもこの男に決定的な一撃を与えてやりたい。
そうでなければ、この感情が収まることはない。

「私の相手ではない。帰れ」
紫服の男はエリレオに見下すような視線を向け、斧の柄でエリレオの腹を素早く突いた。

「がはっ!」
エリレオは腹を押さえて苦しそうにうずくまる。

男に、掠り傷すら与えることができず、悔しさと無力さが更にエリレオの心を掻き乱していた。


「貴様!!なぜカシルを狙った!?」
ナータも紫服の男に怒りをぶつけた。

「その少年は、我々が苦労して手に入れた竜を次々と倒していたので、排除しなければならないと思ってな」
紫服の男は平然とした態度で言う。

「なんだと!!」
ナータが紫服の男を睨みつける。
竜に対する疑問よりもカシルを斬った怒りの方が遥かに上回っていた。

「それで、わざわざ一人でここまで来たというわけか」
兵士キヤが皮肉めいた口調で返す。

「そうだな。後は息子を探してここまできた。私と似た斧を持つ少年がここにいると聞いたからな」
紫服の男は斧を持ち上げる。

「アシェドか…!?」
エリレオは男の言葉に驚き、膝をついたまま顔を上げて男に尋ねる。

紫服の男は目を怪しげに細めた後、素早く消えるようにして去っていった。


カシルのことで悲しんでいる間などなかった。
数十人の敵兵達が襲ってきて、再び戦いが始まった。

ーー
 
8/10ページ