第4章

しばらくしてから、シディエスの隊が駆け付けてくれた。

シディエス達も、体のあちこちに傷を負って怪我をし、疲労している様子だった。


「シディエス隊長…!カシルが…カシルが…っ」
シディエスを見るなり、ナータが深刻な表情で話しかける。

「ああ…先程報告を受けた」
シディエスは静かに答えた。


シディエスは、距離が離れた所にカシルが倒れていることに気付くが、戦場になっているため、近付くことはできない。

黙ったままカシルを見つめるシディエス。

その瞳には深い悲しみの色が宿っていた…


シディエスは現在の戦いの状況を見極め、次の行動へと移るため先頭に立った。

「全軍前進!ラスレンの隊へと合流する!私に続け!」
シディエスが兵達に命令し足を進める。
カシルが倒れている場所とは違う方向だった。

「待って下さい!カシルがまだいるのでありますよ!」
エリレオはシディエスを止めようとした。

「状況を考えろ。まだ戦いは終わってない」
シディエスは冷静な口調で返す。

「カシルを置いていくのでありますか!?カシルはあなたの弟ではありませんか!なぜ…」
「黙れっ!」
エリレオの言葉を遮ってシディエスの部下が怒鳴った。

「構ってられん。私は行く」
シディエスは冷淡に言い残し去って行く。


「お前!隊長の立場であるシディエス隊長が、今どんな気持ちでいると思ってるんだ!誰よりも悲しいのは、弟を失ったシディエス隊長なんだぞ!」
シディエスの部下が強い口調でエリレオに訴えた。


戦いでは、どんな状況に置かれていようと自分の感情には動かされず、戦闘を勝利に導くために考慮し判断を下さなければならない。

それが隊長という立場であることを、シディエスはつねに自覚し、冷静沈着な態度をくずさずに対応していた。


「…」
エリレオは、シディエスの表面だけしか見ていなかったことに気付き、それ以上何も言えなくなってしまった。


ーーーー


エリレオ達とシディエス達がラスレン達と合流した。


ラスレンとシディエスの兵達が力を合わせ、敵兵を撃退することに成功し、一先ず戦いは終わった。


だが、ソルゴ兵士長の部隊の戦いは続いている。
シディエスの隊はソルゴ兵士長の隊に参戦するため、砦の外側から向かっていった。


ラスレンの隊は、新たな増兵に備えるため待機することになった。


「カシルは…最後までオレ達のために戦ってくれました…」
ナータの声が震えている。

「…」
ラスレンは沈痛な面持で言葉が出ないまま俯く。

「カシル…っ!僕と一緒に一人前の剣士になると約束したではないか…っ!」
エリレオの瞳から涙が落ちる。

「誰かを失うのはもう嫌だ!俺が守らなければならなかったんだ…っ!」
隊長という立場を自覚しつつも、ラスレンは溢れる感情を押さえることができない。

シディエスのように冷静を保てるほど器用な性格ではなかった。


兵士たちの心の中は仲間を失った悲しみで支配されていた。

しばらくの間、誰一人として口を開く者はいなかった。

「ラスレン隊長。あなたは私たちを信じてるから、私たちにあの場を任せてくれたのでしょう」
兵士キヤが沈黙を破った。

「隊長がオレたちを信じて任せてくれたから、オレたちも信じてそれに答えたんです」
後に続くようにナータも言いだした。

「戦っているのはラスレン隊長一人だけではないであります。僕たちも戦っているのであります」
エリレオがはっきりと口にした。

「そうです。我々も隊長と一緒に戦っているんです」
「これからもラスレン隊長と共に戦います」
兵たちは真剣な眼差しでラスレンを見ていた。

兵たちの真っすぐな思いが、ラスレンに伝わってきた。

「ありがとうみんな」
ラスレンは、兵士たちに心から感謝した。

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