第4章

少し休んだ後、カシルはエリレオ達の後を追うため走り始めた。

…が、その時!

「やあ。こんにちは」
いきなり少年が立ちふさがった。

斧を持ち茶髪で紅い瞳をした、その人物の顔には見覚えがあった。

「ア、アシェドさん!?」
カシルは驚きの声を上げる。

「へ?キミ誰だっけ?」
アシェドはわざととぼけてみた。

「エリレオの友達で、シディエスの弟のカシルです。覚えていませんか?」
真に受けたのか、カシルは真面目に返した。

「ああ。そうだったそうだった。カシルくんか」
またもや、ふざけたように言うアシェド。

「なぜ、あなたがここにいるんですか?」
カシルはアシェドを不思議そうに見て疑問を口にする。

「教えない」
アシェドは意地悪そうにニッコリとした。

カシルは、今は先へ進むことを考えた。

「そこを通してくれませんか?」
まず、カシルは頼んでみた。

「イヤだ。と言ったらどうするつもりだい?」
アシェドはからかうように言う。

「無理をしてでも通ります」
カシルの顔つきが更に真剣になった。

「それがどういう意味なのかわかってるよねぇ」
アシェドは怪しい笑みを浮かべた。

「たとえ相手が誰であろうと、僕はこの国の騎士としての使命を果たす!」
カシルは割り切って剣を構える。

「へえ。ならやってみろよ」
アシェドはニヤリとして斧を構えた。

先に動いたのはアシェドだった。

「まずは小手調べだ」
アシェドが斧を振り上げ、カシルに向かって素早く下ろす。

カシルはアシェドの斧を剣で受け止め返した。

「驚いたよ。見た目のわりには意外に力があるんだなぁ」
だが、アシェドには驚きの様子が全く感じられない。
むしろ、試されているような気がする。

「じゃあ、こっちの方はどうかな?」
アシェドは斧を左手に持ちかえて下ろした。

カシルは、直接攻撃ではないことを予測する。

「闇の力よ…」
アシェドが呪文を唱え始めた。

「あれが闇の力…!?」
(もっと恐ろしさを感じる力だと思っていたのに…。なんだか変な気分だ…)
カシルは、闇の力を見ておかしな感覚に襲われた。

(今は戦いに集中しなければ!)
「風の力よ…」
カシルは急いで魔法で対抗しようとする。

「闇よ!暗黒へ沈めろ!」
アシェドの闇魔法が発動した。
黒い衝撃派がカシルに襲ってくる。

「風よ!闇を切り裂け!!」
カシルの魔法も発動した。激しい風が吹き荒れる。

両者の魔力がお互いに激突した。

アシェドの魔力の圧迫がカシルの魔力を押しつぶそうとしている。

(くっ…!なんて力だ!?)
カシルが一瞬でも力を抜いたら、魔法攻撃を受けてしまいそうなほど、アシェドの魔力は強力だった。

だが、次の瞬間アシェドの魔力が弱まった。

カシルの魔法がアシェドの闇魔法を押していく。

直撃ではないが、アシェドはカシルの魔法攻撃を受けてしまった。

「うっ!」
アシェドが吹っ飛ばされて倒れる。

「どうして…?」
カシルは、故意にやられたように思えるアシェドの行動に疑問を持った。

「思ったよりもやるじゃないか」
アシェドは立ち上がる。
腕や足に掠り傷があった。

「今、わざと魔力を弱めたでしょう。一体どういうつもりですか?」
カシルはアシェドに尋ねる。

「さあ。なんでしょう?」
笑みを浮かべて誤魔化すアシェド。

「やっぱり答えてくれないか…」
カシルは独り言を呟く。

「覚悟!」
アシェドが斧を構えて突撃してくる。

「!」
カシルも剣を構えて走る。

…しかし。

「や~めた。バカバカしい」
急にアシェドは構えていた斧を手放して落とした。

「うわっ、と…っ!」
カシルは、攻撃の勢いを止めようとしてバランスを崩し、転んでしまった。

「なんで?」
アシェドは、攻撃を止めたカシルを不思議そうに見ている。

「それはこっちのセリフです。どうして武器を捨てたんですか?」
カシルの疑問が更に深まる。

「キミは戦いたいの?」
「いいえ。僕は戦いを望んでいるわけではありません」
アシェドの質問に、カシルはきっぱりと否定する。

「なら、やめよう」
あっさりと言うアシェド。

「それじゃ、通して下さるんですか?」
カシルは剣を収めた。

「俺も行くよ。キミ達に着いていくのも悪くないかな~ってね」
アシェドは楽しそうに笑う。

「アシェドさん」
カシルは喜びの表情になり、アシェドの所へ歩きだす。

(よかった。アシェドさんが仲間になってくれれば心強い)
カシルは安心していた。

「なぁ~んて、俺が言うとでも思った?」
ニッコリするアシェド。

「え?」
カシルは足を止めるが既に遅かった。

ニヤリと笑うアシェドの右手から闇の力が発動し、カシルに襲いかかった。

「うぁっ!」
近距離で直撃を受けたカシルは、その場に崩れ落ちた。

「ククク…バカだね」
冷笑を浮かべるアシェド。

「…!?」
苦しそうに起き上がったカシルは、アシェドの邪悪な表情を初めて見てしまい、驚愕した。

「お前が甘いからこういうことになるんだよ。そんなことじゃ、いつか殺されるね」
アシェドは偉そうな態度でカシルを見下す。

「そ、そんな…っ」
アシェドの裏の顔を知ってしまったカシルは動揺していた。

「お前の甘さには呆れるよ。さっきだって攻撃を止めていなければ、俺に一撃を与えられたかもしれないのにねぇ」
アシェドは嫌味口調で言い放つ。

カシルは、戦う意志のない者に攻撃はできなかった。
それに、好戦的ではなく、戦いには不向きな性格だ。

「さぁ~て、次は誰と戦ってくるかなぁ」
アシェドは斧を持って歩きだそうとする。

「待てっ…!」
カシルは剣を立てて立ち上がろうとする。
しかし、思ったよりも受けた闇の魔力の影響が大きく、体が思うように動かない。

「しつこいよお前」
アシェドは素早く手をかざし、更に闇の魔力でカシルに衝撃を与えた。

「うっ…」
カシルの意識は途切れてしまったーー

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