第4章

カシルの魔法と弓兵達、加勢したシディエスの兵士達の魔法のおかげで、竜兵士の数が半分に減った。


上空にいたままでは不利だと判断したのか、残った竜兵士達は竜から飛び降りて竜だけを逃がしはじめた。

竜がいなくなったとはいえ、相手は戦いに慣れているため油断はできない。

カシルは魔法を止めて剣を構える。


兵士達と敵兵達がぶつかり合い、攻防戦が始まった。


「ぐわぁぁー!」
ラスレンの命令で、カシルの護衛をしていたナータが悲鳴をあげた。

ナータは崩れ落ち、左の太ももを押さえて苦しそうに呻く。
ひどい怪我のため、血が溢れ出て真っ赤になっていた。

「ナータ!?大丈夫か!」
「くっ!まだ兵士たちが来るでありますよ!」
カシルを守りながは戦っているエリレオとキヤの二人は、一刻も早くナータの怪我の手当てをしたいのだが、敵がいるため余裕がない。

「ナータさん…!」
カシルは悲しげな表情だった。

カシルが竜と戦っていた時、ナータはその大柄な体型と重装備を生かして、カシルを敵の攻撃からかばい続けていたのだ。

そのため、ナータの体のあちこちにはいくつもの傷があった。

「ナータさん…。僕のために…怪我までして…。すみません」
カシルは申し訳ない気持ちにでいっぱいなった。

「なあに…お前の…せいじゃないさ…」
ナータは、カシルが自分を責めているのに気付き、痛みを我慢しながら優しく答える。

「水よ我に力をかしたまえ…」
カシルが静かに呪文を唱え始めた。

「そ…それは?」
ナータはカシルの右手から出ている水色の光を見つめた。

「癒しの水よ!」
カシルは右手をナータに向かってかざした。

光る無数の水の粒がナータの怪我した場所を包んでいく。

すると、ナータの太ももの出血が止まり傷が塞がっていく。
更に、体にあった無数の傷も消えていった。

「すげぇ。本当に治ったぜ」
ナータは傷が治った自分の体をあちこち見た後、
「ありがとな。カシル」
笑顔でカシルに礼を言った。


遠くから、兵たちの足音が聞こえる。

「なんだろう?」
カシルは声のする方へ振り向いた。

複数の敵兵たにが武器を持ちながらこちらへ走ってくるのが見えた。

休む間もなく、すぐに敵兵達がカシル達に襲ってきた。


連戦でカシル達の体力は消耗しており、気力を振り絞って戦い続けていたが…

「くっ」
とうとうカシル達は、十数くらいの敵兵達に取り囲まれてしまった。

「そこまでだ!観念しろ!」
敵兵達に武器を突き付けられる。

「どうする…?逃げ場がないぞ?」
味方の兵士は弱気になっていた。

「もはやこれまでか…」
中には覚悟を決めて武器を下ろす兵士もいる。

「ラスレン隊長は僕達に、この場をまかせてくれた。僕はここで諦めたりはしない!」
カシルは武器を下げようとはしなかった。

「僕もだカシル!それがこの国の騎士としての僕たちの役目だからな!」
エリレオが真っ先にカシルに賛同した

「そうだ!オレも戦うぜ!お前たちと一緒に最後までな!」
ナータも同じ気持ちだ。

「いい覚悟だ。さすが英雄の子孫の部下だな」
敵兵は、カシル達を見下す様子はなく一国の兵士として見ているようだ。

「行きます!」
カシルは構えた。

「来るかっ!」
カシルの前側にいた敵兵も武器を構える。

「水の力よ我に力を…」
即効でカシルが呪文を唱えた。

「…!こいつ魔法剣士だったのか!?」
敵兵が驚く。

「そいつから先に倒せ!」
敵兵がカシルに攻撃をしようとするが…!

その前にカシルのかざした手が光った。

「うっ!な、なんだっ!?前が見えん」
急に、敵兵士達の視界が真っ白になる。

「今です!駆け抜けて下さい!」
カシルが合図した。

兵士達は困惑している敵兵の間を次々と走り抜けて行った。


「ありがとな!またお前に助けられちまったな」
走っているナータが隣にいるカシルに笑って礼を言う。

「そんな。僕の方こそあなたに助けられてますから」
カシルは謙遜した。

ーー

 
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