第4章

黒い鎧を着た兵士や傭兵団たちが、大軍を率いてヴィシャス国の国境へと進撃してきているとの通報を受けた。

闇の者たちが住むアリストラ国の軍隊だった。

戦いの幕が開こうとしている。

敵を国境へ侵入させるわけにはいかない。

国境を突破され、街に攻め込まれ、敵に城を墜とされれば、この国は滅びてしまう。

なんとしてでも敵の襲撃を食い止めなければならない。


ヴィシャス城の北にある国境の砦。

ラスレンの第一部隊。
シディエスの第二部隊。
ソルゴ兵士長の部隊。

この三つの部隊で戦う作戦にした。


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ヴィシャス城ラスレンの部屋ーー

部屋の窓からは朝日が差し込んでいる。

ラスレンは、ゆっくりと肖像画の前に立った。
紫髪で黄緑瞳の綺麗な少女の顔が描かれている。

「ヴィリー」
ラスレンは義理の妹の名を口にした。

続いて、隣にある亡くなった両親の肖像画の前に立つ。
橙髪の逞しい男性と、金髪の美しい女性が描かれている。

「父さん、母さん。行って来る」
ラスレンは肖像画に向かって言った。

ラスレンは静かに剣を手にする。

目を引くような立派な剣。
透き通るような輝きを持つ銀色で、装飾の部分には美しい宝石がはめ込まれている。

伝説の剣レクレヴァス。
英雄の血を受け継ぐ者にしか扱えない聖剣だった。

その剣を携え、ラスレンは自分の部屋を後にした。

ーー

シディエスは過去のことを思い出していた。


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数年前ーー

城の部屋に二人の人物がいる。

兵士長のソルゴと隊長のシディエスが立って話をしている。

「ラスレンを隊長に任命することにした」
ソルゴが言い出した。

「確かにラスレンは実力も申し分ありませんし、仕事に対する熱意にも溢れています」
シディエスは一旦切り、再び口を開く。

「ただ、ラスレンは感情に流され冷静さに欠ける部分があり、甘いところがあります」
シディエスは、ラスレンの性格を知っていた。

「確かに私も、それがあの子の戦いにおける弱点だと思っている」
ラスレンの育ての親であるソルゴは、幼いころからのラスレンをずっと見てきた。

ソルゴは真剣な顔になり、更に話を続ける。

「ただ、人を指導する立場に立って学ぶことも多くある。己自身の弱さと向き合い、戦いの厳しさを踏まえなければならんのだ」
ソルゴの表情が厳しくなった。


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現在のヴィシャス城、広場へと続く廊下ーー

集まった兵士達が広場へと歩いて行く姿が見える。

ラスレンはエリレオとカシルと話をしていた。

「よし!そろそろ行くか。エリレオ、カシル」
「「はい」」
ラスレンが二人を呼び、エリレオとカシルが返事をする。

エリレオとカシルは初陣で、二人の緊張がラスレンにも伝わってきた。

「戦いが終わったら、休暇を取ってみんなで息抜きしして、どこかで食べにでも行こうか」
穏やかに言いだすラスレン。
緊迫した雰囲気を和らげようとしたのだろう。

ラスレンの言葉で周りの空気が和やかに変わる。

「そうですね。行きましょう。みんなで一緒に」
「やはり、食事といえば魚と野菜でありますね」
「俺は落ち着いて食べられる場所がいい。ゆっくりとしたいからな」
エリレオ、カシル、ラスレンの三人がいつもの調子で話しだした。

静かな風が穏やかに吹き抜けていくーー


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