第3章

セディルは、あまり目立たないよう周りに警戒しながら宿屋まで歩いている。

天気が曇っていて、雨が降りそうな空だった。

「やあ、こんにちは」
誰かが声をかけてきた。 

そこにいたのは茶色い髪に紅い瞳をした、セディルと同じ年くらいの少年だった。

「あなたは?」
セディルは目の前の少年を不思議そうに見る。

「俺はアシェド。君のそのペンダントの魔石が気になったんだ」 
「魔石?」
アシェドに言われて、セディルは思わずペンダントに手をかける。

「俺のこの魔石を見てみろよ。君の魔石と同じじゃないか」
アシェドは、自分の首にかけている魔石に手をかけてセディルに見せた。

そこには、自分の魔石と同じ形をした水色の石が輝いている。

「これは…っ!?」
セディルは驚愕した。

この水色の魔石は光の一族に伝わる宝玉だった。 

光の魔力を魔石に注ぎ込むことによって、闇の力を押さえ込む力を持つ。

光の一族にしか伝えられていない特殊な技法だった。

あの魔石を持っているのはなぜだ?

まさかこの人は…光の一族と関係があるのか?

それに、闇の力を抑える魔石を持っているということは…この人も闇の力を…?

「どうしてあなたが、その魔石を持っているんだ?」
セディルは動揺しながら尋ねる。

「よくわからないんだよねぇ。物心つく前からあったからな。で、お前こそなんで俺と同じ魔石を持っているんだ?どこで手に入れた?」
今度はアシェドが尋ねた。

「小さい時に親から贈られた物で、詳しいことは知らないよ」
セディルは嘘をついた。
全てを話すべきではないと警戒心を強めていた。

(この人は信用できない。何か怪しい)
セディルは、今まで人の悪意を受ける経験が多かったため、嫌な人間を見抜けるようになっていた。

相手は笑顔で話してはいるが、どこか嘘っぽく怖いものを感じる。

「その魔石、気になるなぁ。俺に貸してくれないか?」
アシェドはセディルに偽りの笑顔を見せる。

「嫌だ。これだけは誰であろうと渡さない」
セディルは頑なに拒否して離れようとした。

「なら仕方ないなあ」
アシェドがニヤリとして、いきなり近づいてきた。

「やめろっ!離せ!」
アシェドに掴まれセディルは必死に抵抗した。

しかしアシェドのは力には敵わず、セディルはアシェドに水色の魔石のペンダントを奪い取られてしまった。

セディルから魔石が離れたため、セディルから闇の力が溢れ出てきた。

「あれ?君から闇の力を感じるぞ。今まで隠してたのかい」
アシェドは面白そうに言い出す。

「ペンダントを返してくれ!それはぼくの大切な物なんだ!」
セディルは、ペンダント取り返そうと懸命に手を伸ばす。

「そう言われると、ますます返したくなくなるなぁ」
アシェドはペンダントを持った手を高く上げて、意地悪そうに言う。

「ふざけてないで今すぐ返せ!」
セディルは必死になって手を伸ばし続けている。

「しつこいよお前」
アシェドは素早くセディルに足払いをかけた。

「わっ!」
セディルは転倒してしまう。

ポツポツと暗い空から雨が降り出した。

「それじゃさようなら〜」
アシェドはその隙に走り去る。

「待てっ!」
セディルは立ち上がってアシェドを追いかけようとした。

「いたぞ!あそこだ!」
アシェドが逃げた方向から、警備兵や術士たちがこちらへ駆けてくるのが見える。

「あの少女から闇の力を感じるぞ!」
「よし!闇の者を捕まえろ!」
警備兵や術士たちが追ってきた。

(まずい…!ぼくの闇の力がバレている!)
セディルは焦って逃げ出した。


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