第2章

――1年前‐ラスレン22歳、ヴィリー17歳――


ヴィシャス軍と敵軍の対戦。

敵は賊を中心とした集団だったが、正規の軍に匹敵するくらいまとまりのある集団だった。

戦いが続いた後、敵達は手を挙げたり武器を収めるなどして次々に降参し始めた。

「モーリム様。敵が降伏しています。停戦を呼び掛けて下さい」
ラスレンがモーリムに頼む。

「何を言っているのだ!?奴らを潰す絶好の機会ではないか!」
モーリムが顔色を変えて反論した。

「これ以上戦いを続ける意味はあるのでしょうか?」
ラスレンは戦いを望まなかった。

「意味ならある!我が国に攻めてきた罰として、奴らに制裁を与えるのだ!」
逆にモーリムは戦う意志を示す。

「しかし!それでは多くの血が流れます!相手の頭目と交渉すれば兵が退くかもしれません」
ラスレンは穏便にすませたいと思った。

「バカを言うな!このまま奴らが帰るのを黙って見てろと言うのか!?」
納得できないモーリムが怒りだす。

「これ以上兵の犠牲を出さないためにも、戦いは避けた方がいいでしょう」
ラスレンは懸命に説得を続ける。

「確かにそれはそうだが…」
まだモーリムは不満な様子だ。

「私からもお願いしますモーリム様!」
隊の中にいたヴィリーが一歩出て懇願する。

「まあ…お前がそう言うのなら仕方ない」
モーリムは渋々だった。

「俺が直接頭目の所へ話しをつけに行ってきます」
言い終わって、すぐにラスレンは走りだした。

ラスレンは部下を数名連れて向かっており、その中にはヴィリーもいた。

ラスレンは思っていた。

戦う意志をなくした者に刄を向けることはない。

交渉が上手くいき、敵が退却してくれればこの戦いは終わる。

…そう考えていた。


だが、それは…

甘すぎた――


油断していたラスレンの視界に飛び込んだのは…

紅い血に染まるヴィリーの姿だった――


「バカめ…オレ達がそう簡単に降伏するとでも思ったのか?」
敵の頭目が、血のついたサーベルを片手にほくそ笑む。


敵達は降伏する演技をしていただけだった。

全て敵の策略

それを見抜けず罠にはまってしまった。


「……ラスレン……ずっと……あなたと一緒にいたかった……」

それがヴィリーの最期の言葉だった……

「ヴィリーーっ!!」
天に届きそうなくらいの叫びが響く。


なぜ、ヴィリーの思いに気付かなかったのだろう。

今までずっと一緒にいたのに。

近すぎて気付かなかった。

ずっと妹だと思っていたから。

俺は、彼女の気持ちに答えることができなかった。

何よりも、彼女を守ることができなかった。

俺のせいでヴィリーは…


失ってしまった…

大切な妹を…


――――

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