第2章

ある日のこと。

(よ、よし…!ヴィリーさんに声をかけるぞ)
カシルは緊張しながらヴィリーの所へ歩いていった。

「ヴィリーさん。おはようございます」
「おはようカシル。今日は早いのね」
「今日は、魔物退治の任務に行くんですね」
「ええそうなの。近くに住む村の人も被害にあっていると聞いたわ」
カシルはヴィリーとは、先輩と後輩の関係だった。

「あ、あの…気をつけて下さい」
カシルは心配そうにヴィリーを見ている。

「ありがとう。キヤさんも一緒だから大丈夫よ。魔物なんて私たちがやっつけてやるわ。カシルも剣の訓練頑張ってね」
ヴィリーは元気よく答えた。

「は、はいっ」
照れくさそうに笑うカシル。

ーーそして

隊長のラスレンが数名の部下を連れて歩いていた。
その部下の中にはカシルもいる。

向こうから、魔物退治の任務から帰ってきたヴィリーが歩いてくるのが見えた。

(ヴィリーさん!)
カシルは声をかけようとしたが…。

ヴィリーは嬉しそうにラスレンの所に駆けていく。

「ラスレン隊長。ただいま任務から戻りました」
ヴィリーは、仕事中なのでラスレンに対して敬語を使った。

「ヴィリー。噂ではあの魔物は強いと聞いていたから、どうなることかと思っていたけれど倒せたんだな」
「ええ。本当に強かったんですよ。少し苦戦しましたが、キヤさんの作戦で倒すことができました。あの人がいてくれてよかったです」
ヴィリーはラスレンと親しく会話をしている。

隊長のラスレンはヴィリーの義理の兄。
ヴィリーが生まれた時から一緒に育っていた。

「…」
カシルは黙ったまま二人を見ていた。

そして、少し前のことを思い返す。

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マントが木の枝に引っ掛かり横転するラスレン。

「ラスレン隊長!」
後ろにいた兵士が転んでしまったラスレンを呼ぶ。

ラスレンは軽く起き上がった。

「ははは大丈夫だよ。マントはこの通りだけどな」
ラスレンは明るい口調で、破れてしまったマントを見せた。

「しっかりして下さいよ隊長~」
後ろにいた部下が、苦笑する。

「ほら。こうすれば、まだもつだろう。さあ行こうか」
破れたマントを器用に結び笑顔で言うラスレン。

英雄の子孫で剣技も強いのに、完璧な人間ではなくどこか抜けている部分もあり、どんな能力の部下に対しても平等に接し、周りの人が安心して話しかけやすい雰囲気を持っている人だった。
だからこそ部下たちから慕われていた。

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カシルもラスレンのことを尊敬していたが複雑な心境になっていた。

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