第2章

エリレオの休憩中。
セディルは、気になっていたことを聞いてみることにした。

「エリレオに聞きたいことがあるんだ。ラスレンさんの部屋に肖像画が飾ってあったよね」
「あの絵のことでありますね。二つ飾ってありましたな」
セディルの質問にエリレオが答えた。

「その肖像画に、綺麗な女の子の絵があったけれど、あの子のことを知っているかい?」
印象的な絵だったのでセディルは覚えていた。

「はい。あの人はヴィリーさん。ラスレン隊長の義理の妹さんであります」
エリレオは話し始める。


ーー


ラスレンとシャークは幼いころに両親を亡くし、現兵士長のソルゴに引き取られて養子になった。

ラスレンとシャークの養父でもあるソルゴ兵士長には実の娘ヴィリーがいた。

ラスレンとシャークの義理の妹であった。

だが、今はもうヴィリーはいない――


ーー


そのころーー
城の中にあるシディエスの部屋。

シディエスは隊長なので、部屋は個室だった。

きちんと整理された本棚と、机の上には書類とペンしか置いておらず、特に目立つ物はない部屋だった。

兄シディエスと弟カシルが、窓側に立って会話をしている。


「城に仕えるようになってから、お前は変わったな。カシル」
シディエスは穏やかに言いだす。

「どうしたの兄さん?急に」
カシルは、兄シディエスがあらたまったように話をするので少し驚いた。

「昔はおとなしくて剣を持つのさえ恐がっていたお前が、自分から剣を習うと言いだし、兵に志願すると聞いた時は驚いたぞ」
シディエスは過去のことを話しだす。

「僕は、弱い自分を変えたかった」
カシルの目付きが真剣になる。

カシルが強くなりたかったのは、兄シディエスに追い付きたいという気持ちもあるが、他にも理由があった。

ラスレンの義理の妹であり剣の先輩でもあった、今は亡きヴィリー。

明るくて前向きで笑顔の似合う人だと思った。
戦いになると強くてりりしくて普段とは違う顔を見せている。

カシルは、そんなヴィリーに好意を持っていた。

だけど…
ヴィリーさんには好きな人がいた…

それがわかってしまった時、しばらく落ち込んでいた。

ラスレン隊長とも顔を合わせずらくて、ぎこちない態度になっていた。
そんな自分が嫌だった。

けれど、兄さんやエリレオ、シャークさんのおかげで立ち直ることができた。

「ヴィリーさんを守れるぐらい、僕は強くなりたいと思ったんだ」
カシルの瞳は真っすぐだった。

「兄さん。僕はもっと強くなって、いつか兄さんに追い付いて見せるよ」
カシルは、はっきりとした口調で言った。

「その時は私と手合せ願いたいものだな」
シディエスはしっかりと見据える。

「ええっ!兄さんと!?」

「そうだ」
驚くカシルにシディエスはあっさりと返す。

「で、でも兄さんと戦うなんて…」

「そんなところは変わらないのだな」
躊躇うカシルにシディエスは苦笑する。
昔からカシルが、争いを好まない性格であることを理解していた。

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