第2章

王の間の近くまで来ると、前方に男が通りかかり、こちらの方を向いた。

「ラスレンに…ユーセリアスか?」
気付いた青年は高貴そうな雰囲気をしており、服も派手だった。

「お久しぶりです。モーリム様」
ユーリスは作ったような笑顔で挨拶する。

「ああ。しばらく顔を見ていなかったな。何しに来た?」
モーリムは愛想もなく返した。

「あの人は…?」
リファラがラスレンに質問する。

「この国の王子、モーリム様だ」
ラスレンは複雑な表情で答えた。

三人の様子からして、あまり良い関係ではないのだろうと、セディルは思った。

「それで、王の間に何の用だ?」
モーリムが冷めた目をして聞いた。

「父レハラルドからの言付けを、お伝えしに参りました」
ユーリスは丁寧な口調で返す。

「重大な内容ですので、シディエスやソルゴ兵士長とも連絡を取り、皆で話し合うことにしたのです」
続いてラスレンが言った。

「…そうか、ならば入るがいい」
モーリムは上からの物言いで答え、扉を開けていく。

「ありがとうございます」
ユーリスは表情を変えず、モーリムに礼を言った。


四人は中へ入ろうと足を進める。

「待て」
モーリムは、セディルとリファラの前を手で制し、進行を止めた。

「なんでしょう?」
セディルが尋ねる。

「お前たち二人は下がれ。平民が易々と王の間に足を踏み入れるつもりか?」
モーリムは見下すような目を、セディルとリファラに向ける。

「っ!?」
セディルはそのモーリムの目に嫌なものを感じた。

「わかりました。行きましょうユーリス様」
ラスレンが言いだした。
その後ラスレンは、後ろを振り返り、セディルとリファラにすまなそうな顔で頭を少し下げてから歩きだした。


中年の兵士が王の間へと歩いて来た。

立派な鎧を纏っており、ほどよく筋肉が付いている体格からして、戦いに慣れた者であり、位の高い兵士だろう。

「ソルゴ。よく来たな」
先程までとは違い、モーリムの表情が笑顔になる。

「大事な話があると聞きましたので、私もこちらへお伺いさせていただきました」
ソルゴはしっかりとした口調で言った。

「さあ、中に。遠慮なく入ってよいぞ」
モーリムはソルゴをお客のように歓迎している。


「おお、シディエスも来たか」
ソルゴの笑顔は続く。

シディエスと呼ばれた若い男が王の間の所まで来た。
長い銀髪で青い瞳の、容姿端麗な美青年だ。

(うわあ!…綺麗な人…)
セディルはシディエスの容姿を見て驚く。

「すみません。遅れました」
シディエスは落ち着いた口調で喋る。

「そのようなこと、気にするでない。さあ、こちらへ」
モーリムはシディエスのことも歓迎しているようだ。

セディルはモーリムの態度の変わりようを唖然として見ていた。

一方、リファラはよくわかっていない様子だ。


王の間の扉は閉められ、セディルとリファラは話が終わるまで待つことにした。

――が、再び扉が開き、モーリムが顔を出した。

「お前達、いつまでそうして立ち尽くしているつもりだ?用がないなら立ち去ってくれないか?」
モーリムは邪魔者を追い払うかのように言う。

「!」
セディルはムッとなるが、
「ごめんなさい」
真っ先にリファラが謝った。

「ふん。わかったのならさっさと去るがいい」
モーリムは冷淡に答えた後、扉を閉めた。

「…っ!なんだよあの人は~っ!」
セディルの心の中は、モーリムに対する嫌悪感に加え生理的にも拒否感を覚えた。

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